あー、ヒリヒリする。最終回まで残すところあと1話にも関わらず、誰も彼もが救いようのない鬱屈を抱えているドラマ『シジュウカラ』(テレビ東京)第11話である。

さて、このドラマの登場人物たちが一様に苦しそうに見えるのは、意図的に真っ直ぐに互いを見つめ合うことができない構図になっているからではないだろうか。例えば家の2階から玄関の夫・洋平(宮崎吐夢)を見下ろす忍(山口紗弥加)だったり、その逆だったり、今の事務所兼忍の仮住まいの2階から、下の忍と岡野(池内博之)を見つめるみひろ(山口まゆ)だったり、千秋(板垣李光人)をフォローする忍を苛立った目で見上げる岡野だったり、さらには忍の居住スペースを外から見つめる千秋だったり。もっと言えば坂道の上にある、かつて洋平が通っていた千秋と冬子(酒井若菜)が住む家を、忍が見上げていたこともあった。

誰もが、自身の愛が、もしくは怒りが、戸惑いが、決して受け止められないことに対する苦しみに悶えながら、相手を見つめている。愛を与える/与えられる、救う/救われる、養う/養われるといった関係ばかりで、愛情のバランスが全体的に悪い。じゃあどうすればいいのだろう。彼ら・彼女らが幸せになる方法を思わず考えこんでしまう。 

今回のキーパーソンは、3人だ。みひろに執着する忍の横顔が、涼子(和田光沙)と一夜を共にした洋平の横顔に重ねられたり、バイト先のレストランでの同僚からの嫌味に対する、千秋の怒りに満ちた、片足を地面に打ち鳴らす「トン」の音に反応するかのように、全く関係のない場所でピョンと飛び跳ねる忍だったりといった奇妙な繋がり方で、互いの閉塞感とやるせなさを無意識のうちに共有している忍と、洋平と、千秋の3人である。

忍は、第10話でも俄かにその傾向を見せていたが、みひろに対する過剰な執着が抑えられなくなっていく。みひろは球体関節人形展に行ったことがきっかけで友達ができて、人形に興味を持ち、自立の兆しを見せはじめた。だがそれは、忍との距離が生まれる兆しでもあった。みひろの友達・ミズキ(浅見姫香)を、みひろを忍から奪う敵でも見るかのような眼差しで見つめ、教室に行きたいと言えば多すぎるほどのお金を渡し、帰りが遅いと取り乱す忍。なぜか事務所の外にいた千秋に対しても、みひろのことを聞くばかりで彼のことは二の次である。

さらには、出ていくみひろに向かって、息子・悠太(田代輝)の名前を呼び縋りついたことで、キャリアも恋も充実しているはずの彼女が、ずっと胸の奥に秘めていた満たされなさの理由が明らかになった。それは、自立して今は一緒に住んでいない、たまにしか連絡のとれない息子・悠太への、固執するほどの愛だった。不倫ドラマという体をとりながら、「40代女性の生き方の模索」を描く本作が、最後に課題として呈示したのは、「自立していく子供とどう向き合うか」ということだった。

一方の元夫・洋平も、終盤、衝撃のビリー・ジョエル『ハートにファイア』熱唱シーンが頭に焼き付いて離れないが(食べるのがマカデミアナッツから落花生に変わっているのも絶妙に切ない)、忍にも愛想をつかされ、涼子との2度目の恋に舞い上がるもあっけなく騙され、どん底の状態でこれまでの半生を物語る姿はほぼミュージカルと言っていい。

モラハラ夫にも言い分があった。基本的に女性側に寄り添ってきた物語の中で、彼は全力で走り時に叫び、歌いながら、男性側の言い分を声高に主張する。父親の顔色を窺って暮らしてきた子供時代、「亭主関白」が普通だと思って育った男は、「自分より下」だと見下せる相手を友と思い、「ちょうどいい女」と結婚し、「顔だけの男に入れ込むバカな女」と不倫した。気づいたら、なりたくなかったはずの父親のような父親になっていた。「忍、俺、そんなに悪いことしたか?」と一人語る彼の悲劇は、どこまでも「気づけない」悲劇だ。そして、彼の悲劇は、悲しいことに、中高年男性誰しも起こり得る悲劇でもある。

さて、40代・50代の葛藤に対して、20代の苦労人・千秋の葛藤も負けてはいない。「HAPPY」と描こうとして「HA」としか描けない小さなオムライスを千秋に食べさせようとする母親・冬子(酒井若菜)がなんだか切なくて愛おしく見えてきた。とはいえ彼女は、半年分の家賃を滞納しており、母親を一人にはしておけないために千秋は東京のアパートを引き払い、再びの実家暮らしを余儀なくされる。

担当の編集者・岡野は元々プロとしての矜持を持って忍と接していた優秀な編集者だったにも関わらず、今は恋敵である千秋に対して嫉妬の炎をあからさまに燃やし、マウントばかりかけてくるし、当の忍も心ここにあらず、自分のことで精一杯だ。皆勝手である。誰か彼を導いてくれる正しい大人はいないのか。八方塞がりの状況を示すように、彼は家の前で自転車を空漕ぎし続ける。

来週はいよいよ最終回である。この、ほとんど全員正しくなくて、誰もが皆ちょっとずつ壊れている、生きることに不器用な愛すべき登場人物たちとお別れするのは寂しいが、どうか彼ら・彼女たちのこれからに、希望の光を見ることができますように。

(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)

【最終話(3月25日[金]放送)あらすじ】

洋平(宮崎吐夢)とケリをつけ、岡野(池内博之)と二人、新たな人生を歩み始めた忍(山口紗弥加)だったが、どこか上の空な様子。そんな中、息子の悠太(田代輝)が久々に帰ってくる。もう子供ではない悠太から、自分の為に幸せになるように言われ・・・。忍にとっての幸せとは?恋愛、仕事、人生。多くのことに悩み、ぶつかり合ってきた不器用すぎる大人たちが、それぞれの道を歩み始める。そして忍と千秋は―。

◆放送情報
ドラマ24『シジュウカラ』
毎週金曜深夜0:12からテレビ東京ほかで放送。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信