"全員が幸せになって欲しい"そんな視聴者の願いが見事に叶えられ、登場人物たちがずっと温め続けてきた秘めたる想いが表出し報われた『ファイトソング』(TBS系)最終話。2年ぶりに再会を果たした花枝(清原果耶)と芦田(間宮祥太朗)が急停止したエレベーターに閉じ込められる。ここまでであればいかにもな"ラブコメあるある"だが、そこに慎吾(菊池風磨・Sexy Zone)までもが乗り合わせたことで、彼ららしいどこか歪だがとびきり愛おしい展開が進んでいく。

しかし、芦田が言う通り"何があっても自分が決めたことを絶対に変えない"強情とも言える花枝ゆえ、あんな風に逃げ場がなく強制的に芦田と向き合わざるを得ない空間でもない限り、"取り組み"後の2人の時計の針は進められなかっただろう。

芦田は会えなかった2年間の募る想いと、今回の再会を経て感じたことを正直に話し始める。慎吾が教えてくれた音声入力アプリを通して。

「花枝は強いというか頑ななんだと思いました。自分が決めたことを絶対に変えない、何があっても。それは強さでもあるけど、そこから動けない、それしかできない弱さでもあるんじゃないかな。そういうところ、ちょっと嫌だなと思いました。そこを...」

ここからが本題というところで、エレベーターの復旧は完了しタイムアウト。ラブコメでの"エレベーター密室事件"の定説では、2人の距離が一気に近づいたところで扉が開くものだが、この2人の場合にはむしろ正反対。せっかく踏み込んだ会話がこれからできるという手前で、なんだか後味の悪さを残して2年越しの会話は終了してしまう。

その後、 LINEをブロックされた花枝にあの手この手を使ってなんとか自身の真意を伝えようとする芦田の姿は、彼女の意志を尊重しようと言いつけを守ってきたこの2年間に募りに募った想いも相まってかとにかく必死そのものだ。花枝の秘密を知った今、これ以上何か取り返しのつかないことにならないように。2年前自分が"知らされない側"にいたからこそ、自分は花枝には"知ってもらいたい"という想いもあるのだろう。

花枝の朝のランニングコースにある橋の上から垂れ幕でメッセージを伝えてみたり、通勤前の花枝にフリップを使って"エレベーター内での会話の続きがしたい、何とか誤解を解きたい"と正に体当たりで訴える。2年前の"取り組み"中には踏み込み切れず、一度は大切な存在の手を離してしまった自分にもう戻ってしまわぬように、とにかく出来ることを日々あれこれ画策する芦田の姿は微笑ましくもあり頼もしい。

しかし、こうやって"何としてでも自分の想いを伝えたい、伝えよう"とする姿勢こそが、聴力の有無に関わらず相手との心の距離を縮めるのだろうし、心のバリアを溶かしていくきっかけになるのだろう。いくらずっと近くで見守り続けていても、言葉にして伝えない限り"本当のところ"は伝わらないし、今の関係性から変化をもたらし進めることは難しい。それは、凛(藤原さくら)から慎吾への矢印、迫(戸次重幸)から直美(稲森いずみ)への矢印を見ても明らかだ。
 
慎吾の計らいによって実現した再びのチャンスの場で、芦田は花枝の頑なさを和らげ、最大の不安材料まで引き出す。

「待ちたいんだ。花枝が俺を必要だと思ってくれるまで。一緒にいたいと思うまで。いつまででも待ちます」
「今までで今日が一番好きです。明日はもっと好きになる自信があります」

そして 「音楽の人なのに、私芦田さんの作った曲わからない」という花枝の最大の不安は、きっと彼女に特に隔たりや引け目を感じさせてしまう部分だったのだろうが、それを芦田はいとも簡単に塗り替えていく。屋上で花枝をアンプの上に座らせ、自分の背中に寄りかからせて振動や息遣い、鼓動で音楽を感じさせ、共有する。取り組みの成果で完成させた起死回生の一曲「ファイトソング」は、本作のオープニングで流れるメロディーで、何かに向けて熱中する人、闘う人へのエールが込められた三三七拍子がベースに横たわる。

空手の"押忍"のシンプルさが良いと言っていた花枝には、終始刻まれるこの三三七拍子の振動はきっと心地よく安心でき、細胞レベルでダイレクトに届いたことだろう。ちなみに筆者も随分前のことだが、ろうあ学校に見学に行ったことがあり、音楽に合わせていろんな色に光り点滅するライトや、リズムに沿って振動する椅子などに感動したことを思い出した。決して、音楽は耳でだけ聴くものではないのだとその多面性や底力、広がりを実感させられた。花枝と芦田がツールを使わず会話でき、心を通わせられていたように。

全方位祝福ムードと優しさの連鎖に包まれた本作、まだしばらくその余韻の中に浸っていたい。

(文:佳香(かこ)/イラスト:まつもとりえこ)

◆番組情報
『ファイトソング』
動画配信サービス「Paravi」で全話配信中。