花枝(清原果耶)と芦田(間宮祥太朗)が"取り組み"を終えてから2年の歳月が経った『ファイトソング』(TBS系)第9話。手首のスマートウォッチの振動で目覚め、相手の口元を読む花枝の様子から、彼女が手術の結果聴力を失っていることがもうそこにある事実として描かれる。花枝はハウスクリーニングの仕事を続けながら、かつて自身が通っていた空手道場で子どもたちへの指導を始めていた。芦田も取り組みのおかげで完成させた曲「ファイトソング」でアーティストとして起死回生を遂げ、二発屋どころかその後の仕事のオファーも安定しているようだ。

2年間全く会うことも連絡を取り合うこともなくとも、2人の中には互いの存在が染み付いている。花枝は「おはよう、元カレ」なんて言って朝起きるなり思い出のぬいぐるみに話し掛け、芦田の"ムササビポーズ"を一人こっそり再現して思わず笑ってしまう。芦田も花枝と出会うずっと前に実は屋上から公園で空手の練習をする花枝を見かけていたことを改めて噛み締める。

2年間ずっと変わらないのは慎吾(菊池風磨・Sexy Zone)からの花枝への想いだ。しかし遂にそんな慎吾も本気の告白をする。今度こそ、芦田からも誰からも邪魔の入らない一世一代の告白だ。途中で自分が空気を読んで告白の内容を軌道修正したりふざけてしてしまわぬように、自身のこれまでの想いをスケッチブックに込めて。一文字一文字、気持ちを込めて一生懸命書いたのだろうストレートな想いに泣ける。シンプル・イズ・ベストなその告白は、これまでの"チャラい告白"とは一線を画し、花枝にもようやく彼の真意が伝わる。

「もしそれがほんとだとしたら、慎吾ずっと辛かったってこと? 私ずっと慎吾に辛い思いさせてたってことじゃん? 何でふざけたみたいにあんなこと言うんだよ、バカ」

ずっとふざけて自身の本音をおちゃらけて伝えてきた慎吾の姿は、芦田と離れてからの花枝自身とも重なるのかもしれない。花枝も芦田に対する想いをごまかし、"これで良かった"と無理矢理彼への想いに自ら蓋をして仕舞い込んでしまっているところがある。

慎吾からの告白に花枝は「世界で一番好きな人なのにごめんなさいって言うしかないよ」と答えた。花枝の口から自然と当然のように溢れ出た「世界で一番好きな人」という言葉に嘘偽りはないものの、それはもう凛(藤原さくら)を含めた3人の、兄弟も家族をも超えた特別すぎる揺るぎない関係性のことを指しているのだろう。このあまりに強靭で揺るがない関係性に慎吾は時にがんじがらめにされてきたところもあったのだろうが、だからこそあの時花枝の秘密を"知っている側"にいられたのだ。芦田とは違って、花枝が何と闘っているのか知ることができたのだ。

ラストの花枝と芦田の再会シーンでは、慎吾のとてつもない優しさが溢れた。花枝にランニングについて「案の定続かないし、遅いし」 と言われていた慎吾だが、芦田に再会するなり思わず走って逃げ出してしまう花枝を猛ダッシュで追いかける。きっと花枝のことを心配してランニングの時には彼女のペースを遅らせるためにあえてゆっくり走っていたのではないだろうか。

"取り組み"の期間延長を一切譲らず、その理由も最後まで明かしてくれはしなかった花枝だが、芦田は思わぬ形でその理由を知ってしまう。芦田の表情には花枝が心配していた通り、驚きと何一つ知らなかった自分を責める気持ちや苛立ち、戸惑いがみるみる広がる。

花枝にとっては事故に遭って以来"唯一自分に起きたいいこと"だった芦田との思い出。自分が適度な距離感を持ってして、好きなタイミングで好きな部分だけを取り出して外から大事に眺めるのは良いが、今またその渦中に身を投じる勇気は持ち合わせていないのかもしれない。それに、とっておきの宝物を汚してしまいたくない思いも強いのかもしれない。花枝の聴力は失われてしまったが、芦田がヒット曲を完成させたことで自分もある意味"病気に勝った"ことにできると花枝は話していた。そこで物語を終えてしまわないと、勝ったままではいられなくなってしまうから。納得できなくなってしまうから。

花枝はランニングしながら、もう今は決して聴くことのできない"世界でたった一曲、これさえあれば良い曲"―PARKSの『スタートライン』を口ずさんでいた。今は、聴こえていた頃の記憶や感覚を失ってしまわぬように、取りこぼしてしまわぬように必死で、新しい音を、これ以上の新たな心の動きを意図的に避けているのかもしれない。そもそも思わず走り出してしまった時点で、花枝の心はまた動き始めており、その予感をいち早く察知したのかもしれない。

芦田の新曲「ファイトソング」がどうか花枝に届きますように。彼女がずっと大切にしてきた「スタートライン」と「ファイトソング」のどちらもが失われず、花枝の中で共存できますように。

芦田と、滑り込みが間に合った慎吾の3人でエレベーターに閉じ込められた花枝。逃げ場はもうどこにもない。次週、いよいよ最終話。また花枝と芦田の物語がひょんなことから再始動しますように。

(文:佳香(かこ)/イラスト:まつもとりえこ)

【最終回(3月15日[火]放送)あらすじ】

エレベーターに閉じ込められた花枝(清原果耶)と芦田(間宮祥太朗)、そして慎吾(菊池風磨)。
花枝が頑なに守ってきた秘密を知ってしまった芦田は、空白の2年を埋めるかのように必死に花枝に話しかける。ところが、芦田の突然のとある爆弾発言に、花枝は思わず反発!話は途中のまま、気まずい空気だけを残して花枝はその場を去ってしまう・・・。

花枝への変わらぬ想いを改めて自覚した芦田は、爆弾発言の真意を伝えたいと、あの手この手で花枝にアタックを開始!一方の花枝はなかなか素直に芦田に向き合えず、頑なに芦田を拒否し続けてしまう。
それでも芦田はめげずに、なんとか花枝の心を開くべく、ついに最終手段としてある男に力を貸して欲しいと願いでる。その男とは、あろうことか長年花枝を思い続け、芦田に「二度と関わるな」と言い放った慎吾だった・・・!?

ついに結末に向けて走り出す花枝、芦田、そして慎吾の運命は・・・。
家族や仲間たちのたくさんの優しさと愛に見守られながら、彼らはどんな幸せを掴むのか!?
不器用でもまっすぐな思いが起こす、恋の奇跡をお見逃しなく!

◆番組情報

『ファイトソング』
毎週火曜日22:00からTBS系で放送中。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。