「千秋は変わらないね」
と微笑んで言った、千秋(板垣李光人)の幼馴染・星宙(榊原有那)が変わっていたことに安堵する『シジュウカラ』第9話。明るい表情で千秋の恋愛相談に乗り、忍(山口紗弥加)と千秋の運命的な再会を共に喜ぼうとするも、同時に忍の新しい交際相手・岡野(池内博之)の存在を知り、浮かない顔の千秋を見て投げかけた言葉だ。楽しそうに子供を遊ばせている星宙は幸せそうで、それを見つめる千秋の表情もよく、新たな関係を築けた2人の様子が伺える。
変わることができた人もいれば、変われないままの人もいる。新たな関係性を構築していこうとする人々が、時に過去に囚われたり、時に方法を間違えたり、嫉妬に駆られ、暴走したり、自分の本当の思いに気づいたりする様を描いた回だった。
拍子抜けするほどあっけなく離婚に応じた夫・洋平(宮崎吐夢)が、妙にすっきりして見えるのは、第8話で描かれた冬子が働いていたスナック「ルージュ」の店員、涼子(和田光沙)との出会いのせいか。
一方、酔って電話で千秋を呼び出したり、男性にしつこく絡んで路上で騒いでいたりと、相変わらず息子を困らせてばかりの冬子(酒井若菜)にも、そうならずにはいられない理由があった。酔って千秋に支えられ、ご機嫌な冬子の表情にふと孤独の影がさして、その視線の先には、スナック「ルージュpart2」の看板がある。
その店でママをやっているのは、他ならぬ涼子で、「大ママ言ってましたよ、冬子ちゃん、顔はいいけど頭悪いから使えないのよねって」と嘲笑い、冬子はママとして働いていた店を追い出されたのだった。前回は、男性が言ってほしいことを必ず言ってあげる優しさで洋平の心を癒す、古風で家庭的な女性というイメージを見せていただけに、したたかさに脱帽である。映画『岬の兄妹』で強烈な印象を残した和田光沙の演技が光る。
そして、千秋と忍の再会により、忍の新しい恋人で編集者の岡野を交えた新しい三角関係も勃発する。偶然にも忍の編集担当だけでなく、デビュー作から4年、次回作を出せずにいる千秋とネームをやりとりする関係にあった岡野。2人の書き手と1人の編集者による「描く」ことを通した攻防が始まる。千秋のデビュー作「となりのおばさんに買われていました」の続きが読みたい、書くべきだと迫る岡野。「傷を抉りながら描くんだよ、そんなに簡単に描けるもんじゃないって」と千秋をかばう忍の一言は、千秋の過去、そしてその過去の「続き」であるところの自分との物語を知っているがゆえの発言であると共に、「傷を抉りながら描いてきた」彼女自身の、漫画家としての矜持を感じさせる。
千秋に「この続きが読みたい」「いつまでそこで燻ってるつもりですか」と言い、読後「これは恋愛なんでしょうか、母親を求める子供のようにも見える」と焚きつけ続ける岡野の目は、メラメラと燃えていて、漫画編集者としてだけでなく、忍の恋人としての嫉妬心も隠し切れていない。だが、そんな岡野に触発されるように、再びペンをとり、第1作の「続き」、つまりは忍との物語『彼女はいなくなった』のネームを描きあげる千秋。忍の作品『初恋ワンスモア』の千秋サイドの物語とも言えるこの作品、読んでみたいと思わずにはいられない。
そして、再会した忍と千秋を通して描かれたのは、「人を助ける」ことの難しさだった。千秋は、前回忍の元にも現れたみひろ(山口まゆ)のことを彼女に話す。みひろが過去の千秋と同じ境遇で育ち、苦しみを抱え、行く場所がなくて逃げてきたこと。「僕も先生がしてくれたみたいに、みひろを助けよう」と思って家に匿い、一緒に住んでいること。でも、どんなに一緒にいても関係が深まることのない千秋に対し、みひろは孤独と不安を募らせ、暴走する。中途半端な優しさは、時に人を傷つけてしまう。「誰かを助けるって簡単なことじゃない」。「私、橘くんを助けようなんて思ったことないよ」と忍は千秋に告げる。
「先生にとって、あの時僕はなんだったんですか」と聞く千秋に対して、忍は「好きだった」と答える。千秋を救ったのは忍で、忍を救ったのは千秋だった。不純な動機から始まった純粋な「好き」は、それぞれの孤独な世界で生きていた互いを救った。再びの抱擁を交わした2人。あの時は「よくわからない」と言っていた千秋が今度こそはっきりと「先生が好き」だと言った。そんな2人だけの世界に鳴り響く電話の音。
2人はみひろを苦しみの淵から救い出すことができるのだろうか。
(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)
【第10話(3月11日[金]放送)あらすじ】
みひろ(山口まゆ)からの着信を受け、急いで駆けつける忍(山口紗弥加)と千秋(板垣李光人)。取り乱したみひろと千秋は口論に。二人の関係を見かねた忍は、みひろに忍の家で過ごすことを提案する。娘が出来たようで嬉々とする忍に、徐々に違和感を覚える岡野(池内博之)。同時に、忍と千秋の関係に対しても目に見えない絆を感じ、不信感と焦りを抱く。そして、岡野はある行動をとる。
◆放送情報
ドラマ24『シジュウカラ』
毎週金曜深夜0:12からテレビ東京ほかで放送。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信
◆放送情報
ドラマ24『シジュウカラ』
毎週金曜深夜0:12からテレビ東京ほかで放送。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信
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