「ていうか俺、別れたくない。曲のこととか関係なく一緒にいたい」

花枝(清原果耶)の手術前に入院が決まり、芦田(間宮祥太朗)との"取り組み"期間が2日早まる。「どんな取り組みする? これからその日まで何する?」と、何とか残り少ない2人の時間を最大限使えるように、そして2人の間に横たわる温度差を必死で埋めようと問いかける芦田に、「私たちに残ってる取り組みは"別れ"だけです」とあくまで淡々と、当初のスタンスを崩さぬように答える花枝。『ファイトソング』(TBS系)第8話では、遂に2人の"取り組み"最終日のお別れ会の様子が描かれた。

芦田のこの取り組みの成果は著しい。これまでも所属事務所の社長にもう一度チャンスが欲しいと直談判したり、ラジオの一発屋コーナーへの生放送の出演オファーを受けたりどんどん新たな扉を開いていく。遂にはこれまで立ち入らないようにしてきた花枝の秘密にも触れ、当初の約束を覆して自身の気持ちを花枝にぶつける。

PARKS結成時に、最後までバンド一本でやっていけるのか迷っていた薫(東啓介)を半ば強引に説得した根拠のない無敵感に溢れていた頃の芦田が少しだけ顔を覗かせた気がする。

「心を動かすために取り組んでいるわけで、別れはその最大級なわけで」と言う花枝も、「辛い方が正しいってことだね」と答える芦田も、共に切ない。花枝は芦田をなだめつつも何より自分自身に言い聞かせ納得させるために、もう元には戻れないよう退路を断ちながら発言しているんだろうし、芦田はもうどうやっても変えられない"既成事実""約束事"が本当にどうしたって動かせないことを改めて突きつけられ再確認しているように思える。

冒頭の芦田の口から漏れ出た願望は、第1話で自分の演奏を聴きながら号泣する花枝を見て思わず出た「やめたくないな、音楽」以来のことではないだろうか。

「お断りします、私はそこまでじゃないです。恋に負けるのは嫌です。恋に引きずられたり、恋に引っ張られて何か変えたりするのも嫌です」と答えた花枝の言葉には嘘がふんだんに混ざっている。

そう言って突っぱねてしまわないことにはいられないこと自体、これが彼女の本心ではないことは明らかだ。本当は芦田のことが大好きで大切な存在のくせに。ここで彼からの申し出を受け入れてしまえば、術後に失ってしまうかもしれない聴力がさらに惜しくなるし、その他にも発症する可能性がある後遺症のことがより怖くなってしまう。


大切なものが増えれば増えるほど、それは自分にとって何よりの急所になることを花枝は身を持って知っているから。大好きな母親を突然亡くし、父親は出て行き、そんな中ようやく見つけた希望の光だった空手の道も突如断たれた花枝からすれば、最初から"期限付き"で別れが見えている方が安心だったのかもしれない。だって、そうすれば少なくとも"突然の別れ"は訪れないから。

「あんたは知らなくて平気なわけ? 曲ができればそれで良いわけ?」と芦田に詰め寄る慎吾(菊池風磨・Sexy Zone)に言い放たれた芦田の言葉もまたある意味残酷だ。「でも彼女が言いたくないってこと無理矢理聞き出したりできないし、したくないんです。ちゃんと彼女の気持ち尊重したいんで、俺は」と芦田は言うが、それは「俺は花枝のこと愛し続ける、守り続けるって決めてんの。だからお前が要らないっつってもそうすんの」と宣言していた慎吾からすれば贅沢な話で甘っちょろくも聞こえることだろう。自分はどれだけ想い続けても花枝の心を振り向かせられないのに、花枝から本気の好意を寄せられておきながらそれをみすみす手放してしまう芦田のことが歯痒くて仕方ないのだろう。

次週はもう「2年後」が描かれるなんて。花枝の手術は無事終わったのだろうか。芦田は取り組みの集大成を詰め込んで完成させた一曲で、その後のミュージシャンとしての活動を続けられているだろうか。2年後も同じ住まいの屋上から下を見下ろす芦田が映ったが、それはそのまま音楽活動を継続できているということなのだろうか。そして何より、その曲を花枝は聴くことができたのだろうか。

(文:佳香(かこ)/イラスト:まつもとりえこ)

【第9話(3月8日[火]放送)あらすじ】

花枝(清原果耶)と芦田(間宮祥太朗)の別れから2年が経過した。
聴神経腫瘍の手術を終えた花枝。
花枝を思い、「ファイトソング」という新曲を完成させた芦田。
そして、今までもこれからも花枝のそばにいると誓った慎吾(菊池風磨)。
2年の時を経た3人の現在は? そして想いは・・・!?
物語は新たなステージへ!

◆番組情報

『ファイトソング』
毎週火曜日22:00からTBS系で放送中。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。