「あ、ニョロニョロだ」

と通りすがりの子供が言って、思わず街頭ビジョンに映るチンアナゴを見上げる忍(山口紗弥加)と千秋(板垣李光人)は、隣にいる互いのことに気づかず、すれ違ってしまう。同じものを見て、同じ過去の1場面を思い出している2人は、過去に囚われるばかりで、現在を見ることができていない。

さて、夫・洋平(宮崎吐夢)との最後の戦いと別れ、岡野(池内博之)との濃厚で良好な関係、そして、「千秋の妻」を名乗るみひろ(山口まゆ)との対峙、千秋との再会と、今回もてんこ盛りの『シジュウカラ』第8話であった。

忍の周りに溢れている素敵な女性たちもまた、本作の魅力の一つだろう。前回厳しいことも言った編集担当・荒木(後藤ユウミ)が、魅力的で個性的な、培ってきたこれまでの関係性を伺わせる「戦友」といった雰囲気を醸し出し、忍の友人であり人気漫画家のマリ(入山法子)も、ファッションからも仕事ぶりからも「自由」を体現しながら、悩む忍に的確な助言を与える。

冒頭、忍は編集担当として岡野が見守る中、インタビューを受けている。「純愛不倫の女王」として「不倫」をどう思うかと聞かれ、「愚か」であると共に、「パートナーに大事にされていないなと日々感じている中で、そこに救いを求めてしまうこともあるんじゃないか」と語る。そこにインサートされる岡野との情事の光景。

テーブルの上に並べられる2作品『悪いのは誰』と『初恋ワンスモア』は、「ささき蜜柑」としての彼女の著作であると同時に、忍自身の、片や岡野との「現在の恋」、片や千秋との「過去の恋」、2つの"愚かな"「純愛不倫」の前科を物語るものでもある。『初恋ワンスモア』に対する「何だったんでしょうね、ただ"恋"を描きたかったんです」という一言といい、前述した「不倫とは」に対する発言といい、彼女は自作を語りながら、2つの恋を総括する。そしてその発言の数々は、夫・洋平含め、純粋に忍を愛してしまっている当事者の男たちの心に小さなさざ波を立てる。

そして、大きく動いたのが、モラハラ夫・洋平との関係である。長い事雑誌の間に挟んだままだった離婚届をようやく突きつけた忍。忍の漫画家としての仕事を認めない上に、自分のした浮気は、子育て中で優しく構ってくれなかった忍のせいだと言い出す始末で、最後の最後まで彼は夫としてどうしようもない。でも、身体を壊すまで仕事をし続けた彼の感じ続けていたストレスと、その捌け口としての妻へのモラハラ発言があったとすると、彼もまた切ない人なのだ。

忍が去った後、川の前で、哀愁漂う雰囲気で佇む彼に、冬子(酒井若菜)が働いていたスナックの店員・涼子(和田光沙)が寄り添うことで、彼のこの先の人生に希望の光が灯る。

「ただあなたと並んで歩きたかった」でも、言いたいことも言えずにここまで来てしまった忍は、一人泣きながら夜道を歩く。

そして、千秋はと言うと、レストランでアルバイトをしながら、彼女と思われる女性みひろ(山口まゆ)と同居する、一見順風満帆な日々を送る28歳になっていると思いきや、どうもそうではないらしい。みひろの、突然忍を喫茶店に呼び出し、「妻」を名乗り、マウントし続ける様子や、千秋に過度に依存し過ぎている様子、恐らく千秋の過去と共通するような辛い過去を抱えているのだろう様子が描かれた第8話。

忍とみひろが対峙する場面は、コップの水をかけるような大仰なバトルは繰り広げられないものの、ひたすらクローズ・アップされるみひろの顔、その繊細な眉や睫毛の1本1本の息遣いを感じさせる印象的なショットの数々が、千秋に依存せずにはいられない彼女の不安定さ、千秋と自分の関係を脅かす忍という存在への恐怖心を物語っており、非常にスリリングだった。

ある日、街頭ビジョンには、かつて忍と千秋が見つめた水族館の光景のような、魚たちが泳ぐ映像が映し出されていた。編集者である岡野との打ち合わせ後、ふとその街頭ビジョンを見上げる千秋と、反対側から歩いてきて、彼に気づかないまま、同じ映像を見上げる忍。2度繰り返される光景。岡野が忍に声を掛けたところで、2人は互いに気づき、見つめ合う。再び出会ってしまった2人、2人への執着を見せる岡野とみひろの2人の心が、これからどう動いていくのか。

(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)

◆放送情報
ドラマ24『シジュウカラ』
毎週金曜深夜0:12からテレビ東京ほかで放送。※3月4日(金)は0:42~
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信