忍(山口紗弥加)が、息子・悠太(田代輝)の手を借りて、仕事部屋にロフトベッドを設置し、そこに無邪気に寝転がる。足が天井に着くのを確認し「せまっ」と嬉しそうに呟きながら、まるで天井を歩くように、そのまま足を進める。カメラもまた、不均衡な彼女の視野に同調し、一瞬世界が逆さまに見える。

少しずつ、少しずつではあるが、彼女の世界は変わり始めた。狭くても居心地の良い、自分だけの空間を手に入れるばかりでなく、夫・洋平(宮崎吐夢)のモラハラ発言・行動の数々に歯向かい、抗い、立ち向かっていく。そして、彼女を変えたのは、真っ直ぐに彼女を見つめ、「そうやって傍観者ぶって、一番ずるいのは先生」と言い放った千秋(板垣李光人)に他ならない。

それぞれの心の闇が浮き彫りになった『シジュウカラ』(テレビ東京)第4話である。第3話での一件、千秋の母親・冬子(酒井若菜)が洋平のかつての浮気相手であり、千秋は自分の家庭を壊した洋平への復讐のため忍に近づいたことが判明したことにより、一旦距離を置く忍と千秋。だが、距離を置いたからこそ、互いを思う頻度が増すのが恋というもの。玄関先に置かれた千秋からのお詫びのお菓子をすぐさま開封し、その場にしゃがみ、飢えたように食べる忍。一方、忍の影響でミルクを入れてだが、珈琲を飲むようになった千秋。何かにつけて互いの笑顔や印象的な行動が頭に浮かんで、気づいたら涙ぐんでいる。気づいたら、相手に触れようとして差し伸べた手と手が触れ合っている。

今回何より強烈なのは、憎たらしい夫・洋平を演じる宮崎吐夢だろう。「お前みたいなオバサン」「母親なんだから」「男の浮気と女の浮気は違う」「誰のおかげで漫画続けられているかわかっている?」「それ(家事・育児)俺がやっちゃったら、お前は俺のために何をしてくれるわけ」などといった、モラハラ発言の数々。さらには千秋が家に泊まることになって、寝る場所がなくなった忍を、夫婦の寝室に誘う時のベタベタと纏わりつく甘い声。こんな酷い夫に耐えてきたのかとヒロインへの同情は募るばかりだ。しかし、夫にも夫の言い分というものがあるだろう。「漫画描くの楽しいとか言ってたけど、楽しいってなんだよ。楽しくないんだよ、仕事は!」と言う彼の不幸も思いやらずにはいられない。

結婚後に漫画家としてのペンネームを「ササキシノブ」から「ささき蜜柑」に改名した理由も明かされた。第3話で同期の漫画家(野口聖古)に、「ささき蜜柑」としてのヒット作「地獄にホットケーキ」を実体験に基づいたものなのではないかと問われる場面があったが、それはあながち間違いではなかった。初めて寝室を別にした日、リビングのソファーに横たわる彼女の視線の先に置かれた一際明るい蜜柑が、かつての「蜜柑」の記憶を呼び覚ます。

子供が生まれて間もない時に浮気され、帰ってこない夫を待ちながら、「浮気夫を追い詰め地獄を見せてから離婚する、強くなるヒロイン」が主人公の「地獄にホットケーキ」を描きはじめるかつての彼女と、その傍らにある、土曜日の朝なのに出勤する夫から手渡された蜜柑。そして「ささき蜜柑」となったことを。そこには実体験ではなく、漫画の中に押し込めるしかなかった、彼女自身の願望があった。

もう一人、言及しなければならない登場人物がいる。千秋の幼馴染・星宙(榊原有那)である。千秋のことが好きで、千秋の心が忍で染まりつつあることを察知し、忍に彼の売春の過去を明かし、さらには千秋に執拗に迫る。千秋に対する「うちのババアより金だすから、抱いてよ」という彼女の言葉は、彼女もまた複雑な家庭環境にあることを匂わせ、カラオケでAIの『Story』を歌いながら、彼女を見るのではなく忍の漫画をスマホで読んでいる千秋の方を不安げに見つめる、震えるような眼差しは、彼女もまたどんなに真摯に千秋のことを好きでいるかを詳らかにする。

誰の心にも純粋な「好き」があり、その「好き」はそれぞれの孤独の中で歪み、時に暴走する。「ササキシノブ」時代の、千秋の心を救った作品でもある「うさぎなんて追いかけない」も、「ささき蜜柑」としての作品「地獄にホットケーキ」も、そして、彼女が今描いている「18歳年下の美少年との不倫もの」も、そこには全て彼女自身の思いが潜んでいる。執筆中のネームに「待って、連れていって!」と描いていた忍。次回予告には「先生、逃げましょう」と迫る千秋の様子が見て取れる。漫画の中のヒロインの言葉は、現実のものとなるのか。

(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)

【第5話(2月4日[金]放送)あらすじ】

忍(山口紗弥加)が目を覚ますより先に、千秋(板垣李光人)は家を出ていた。不安が残る忍は千秋の実家を訪ねる。売春していた過去が、千秋にとって今でも大きな傷となっていたのではないかと忍は告げる。もはや愛がわからないと言う千秋。だが自分も傷付きながらも千秋と本音で向き合う忍に、千秋は提案する。二人で逃げましょうと。「行かない」と答える忍だったが・・・。一方洋平(宮崎吐夢)はある人物と再会し・・・。

◆放送情報
ドラマ24『シジュウカラ』
毎週金曜深夜0:12からテレビ東京ほかで放送。※2月4日(金)は深夜0:32から放送。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信