「怖いの、本当のことを知るのが。知ったら今のままではいられなくなる。まだそんな覚悟できてない」

第2話のネーム制作時の段階から繰り返されてきた、忍(山口紗弥加)の描く漫画上の台詞だ。1月21日放送『シジュウカラ』(テレビ東京)第3話は、まさにその台詞通りの忍の葛藤を描いていた。

夫・洋平(宮崎吐夢)との関係はますます冷え込んでいく一方で、漫画家の仕事も千秋(板垣李光人)との関係も順調な忍だったが、ある日、恋人同士のように仲睦まじい様子で道を歩く冬子(酒井若菜)と千秋母子の様子を目撃してしまう。2人を追いかけた先で見つけたのは、忘れもしない、息子・悠太(田代輝)が生まれて間もない頃の、夫の浮気相手の家だった。

玄関先で冬子がへばりつくように甘える相手の男は洋平であり、ちょっと離れた位置に立って、赤ん坊を抱いたままそれを見つめる忍、さらにそんな忍を見つめる冬子の息子としての千秋という、かつての光景が甦る。彼らは皮肉にも、互いにとって最も忌まわしい瞬間を共有していた。「俺、先生があいつの奥さんだって知った時から、この家ぶっこわしてやろうと思ったんですよ」。それが美しい青年・千秋が、忍に過度に近づいた理由であり、あの不穏で挑発的な眼差しの所以だった。

さて、これは不倫ドラマか、はたまたホラーかと言いたくなるほどの、不穏な雰囲気が漂う第3話において、注目すべきは「音」である。忍の夫・洋平のうがいの音、忍のドライヤーの音、米を研ぐ音という日常の音がやけに耳障りなノイズとなって鳴り響く。登場人物たちのヒリヒリとした感情を代弁するかのように。洋平のうがいの最中に、「千秋の父親は洋平なのではないか」という、まさに"知ったら今のままではいられなくなる。まだそんな覚悟できてない"疑念を忍は大声で連呼し続けるが、洋平の耳には届かない。

こういう場面もあった。編集者・荒木(後藤ユウミ)らが忍の漫画に夢中になっている最中、一人窓際に佇む忍は、外を見下ろしていた。そこには小さな子供がポテポテと歩き、その先に母親がいて、子供を抱き上げる父親がいる、理想的な家庭の光景、忍にとって、そうあってほしかった家庭の姿があった。

建物の中にいる忍には聞こえるはずもない子供の足音のリズムに合わせるように音楽が共鳴し、増殖していく。カメラは物憂げな彼女の表情にどこまでも近づいていく。荒木に声を掛けられて忍が振り返った瞬間、呪縛が解けたように画面は平穏に戻る。

忍が千秋に、疑念をぶつける場面も「音」が印象的な場面だった。洋平と千秋が結託して自分を騙しているわけではないと知り安堵して笑いだす忍と、そのことに対する怒りを押し隠すようにヤケのように笑う千秋との「笑い」のズレ。そのズレを正そうとするかのように、忍や洋平に対する怒りをぶつける千秋の場面では、飛行機が通り過ぎる音がやけにけたたましく鳴り響く。

千秋が泣き崩れたところで寄り添う忍の場面では、その音は通り過ぎ、風の音のみが聞こえるが、一瞬訪れた平穏もつかの間、カチンカチンカチンという奇妙な音が聞こえだす。この音をどこかで聴いたと思いながら視聴者はその後の展開を見つめるわけだが、見上げた忍の視線の先には、ナッツクラッカーを持つ洋平がいて、息を呑まずにはいられない。

疑念が晴れ、安堵して手を差し伸べた忍を拒んだ千秋。逆に、洋平だけでなく忍にも「もういいから、帰って」と言われ、泣きながら縋るように手を伸ばした千秋の手を、結婚指輪が輝く忍の手がそっと拒む。「まだそんな覚悟できてない」。「私にとって結婚って、最強の生活保障だった」という、直前に投げかけられた切なげな同級生(高野ゆらこ)の言葉もまた彼女をくいとめたのだろうか。

「そうやって傍観者ぶって、一番ずるいの先生じゃないですか」という先ほどの千秋の言葉が、拗ねたように背を向けた千秋を目で追いつつ、洋平の方を向く忍に降り注ぐ。彼はずっと、そんな身勝手な大人の都合に巻き込まれ、安心して縋れる相手もいないままで、生きてきたのだろうか。葛藤のその先を、まだ根深い闇があるのだろう千秋の心を、その深淵を、私たちは見つめなければならない。

(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)

【第4話(1月28日[金]放送)あらすじ】

綿貫家を崩壊させることが目的だったと告げた千秋(板垣李光人)。忍(山口紗弥加)と千秋の深刻そうな状況を目撃するも、それを何とも思っていない洋平(宮崎吐夢)に、忍は不倫に気づいていたことを告げる。そして洋平と寝室を離し、千秋とも距離をとることに。そんな中、とあるきっかけで忍は千秋の抱える闇の正体を知ってしまう。壮絶な悲しみを抱える千秋と、現在進行形で傷ついている忍・・・二人の心が近づき始める。

◆放送情報
ドラマ24『シジュウカラ』
毎週金曜深夜0:12からテレビ東京ほかで放送
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信