ちょっとアンバランスな、彼女が好きだ。1月7日深夜0時12分から始まった「ドラマ24」枠の新ドラマ『シジュウカラ』(テレビ東京)の主人公、山口紗弥加演じる綿貫忍のことである。

息子・悠太(田代輝)に庭仕事スタイルを冷やかされ、「おばさんだから」とどこか諦めたように微笑む彼女は、その後、木から空に向けて自由に飛び立っていく、アニメーションのシジュウカラの行方を、じっと見つめてもいた。彼女は不思議だ。板垣李光人演じる橘千秋との18歳の年の差恋愛が、さして特別なことのように思えなくなるほどのしっとりとした色気を纏う美女である一方で、カフェで待ち合わせ中に、解放感ゆえか舌を出して外を眺めていたり、餃子を焼きながら突然、突拍子もない奇声を上げたりと、だいぶトリッキーな一面を持ち合わせていたりもする。それは、淑やかな役柄もする一方で、『モンテ・クリスト伯―華麗なる復讐―』(フジテレビ)などでの圧巻の「怪演」が話題となった山口の真骨頂であるとも言える。

思い描いていたようにはならなかった、漫画家の仕事。一回り年上のモラハラ夫・洋平(宮崎吐夢)との夫婦生活。ビリー・ジョエルの『ハートにファイヤー』で燃え上がった恋は、現在はすっかり冷めきっている。その最も大きな要因の一つは、息子が生まれたばかりの頃の、夫の非協力的な態度と、浮気という裏切りだった。ここまでやり過ごし、持て余してきたのだろう、やり場のない怒りや憎しみといった、感情のうねりが、時折マグマのように彼女の内側からこみあげて、時に突拍子のない叫び声となって、時に自転車の爆走となって吐き出される。漫画家への夢を一旦諦め地元に戻り、「平凡だけど幸福な家庭と人生」を手に入れた、一見穏やかそうに見える彼女の内側には、到底封じ込めることができない激しさがあって、それが少し歪な形で外に零れでてしまう様は、こんなにも興味深い。

一見美しいけれど、どこか奇妙な部分を併せ持つのは、ヒロインだけではない。このドラマ自体もそうだ。「JOUR」(双葉社)にて連載中の坂井恵理の同名コミックを原作に、映画『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』の大九明子監督が演出を手掛ける本作は、「不倫モノ」でありながら、仕事に恋に家庭に悩む40歳の女性の葛藤を描きつつ、サスペンスの要素も兼ね備えている。

例えば千秋の最初の訪問時、雨なのに傘もささずに飛び出していった彼を追いかけていった忍をそのままに、カメラは散らかったままの家族の靴が散乱した玄関を上方から映し続けていた。音楽と共に不穏な雰囲気を引き立てるそのショットは、橘千秋という謎の青年が、これから、一見平穏な家庭という聖域を乱す闖入者となるだろうことを暗示する。

板垣李光人演じる美しい青年、橘千秋。彼もまた忍と同様、絶対的な美しさと、少しばかりの「違和感」の持ち主である。美しい器に納まりきれず、そこから零れ出る歪な何かがある。忍は恐らくそこに惹かれていく。その内側に抱えているのだろう物語を知りたくて、居ても立っても居られなくなる。彼の魅力はそこにある。

綿貫家の表札のあたりを見つめ、揺れ動く目。強張った表情で、荒い呼吸を整えていた青年は、その後躊躇なく忍の部屋に入り、一気に距離を縮める大胆さを見せる。忍を「おばさん」扱いする彼女の夫や息子と違い、一人の漫画家として敬い、時に家族分の料理まで作る完璧なアシスタントぶり。

時折無邪気な笑顔を垣間見せる一方で、忍・洋平夫婦の馴れ初めとなった店のテーブルの下で、密やかに忍の足に自分の足を添わせる時の、挑発的で、どこか残酷にも見える、危うい眼差し。ただの好青年にはどうにも思えない、明らかに好意だけでない接近の仕方をしてくる彼の行動に、忍だけでなく視聴者も翻弄されずにはいられない。

40歳の誕生日の夜を、2人だけで過ごしてしまった忍と千秋。どこか奇妙な歪みを抱える、美しい2人がこれからどのように共鳴し、惹かれあうのか。金曜日の夜、大人のための上質な恋物語が幕を開けたようだ。

(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)

【第2話(1月14日[金]放送)あらすじ】

新作が不評で後が無くなった忍(山口紗弥加)。咄嗟に考えた次回作は"18歳年下の美少年との不倫モノ"。忍はその取材のために千秋(板垣李光人)を水族館に誘う。浮足立つ忍に対し、挑発的なアプローチと射殺すような視線をよこす千秋。いよいよ忍は千秋の"目的"を問いただす。そして千秋のある過去が明らかになる・・・。

◆放送情報
ドラマ24『シジュウカラ』
毎週金曜深夜0:12からテレビ東京ほかで放送
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信