「違うよ、全部本当だ。本当の嘘。これからだってひっくり返してみせる、俺の演技で何もかも」

注目俳優・藤代瀬那(櫻井海音)が自らの"嘘"で窮地を脱し、マネージャー・冴島千歳(大原櫻子)と自分との運命を一気に手繰り寄せた『つまり好きって言いたいんだけど、』(テレビ東京ほか)最終話。

熱愛報道を週刊誌にすっぱ抜かれた瀬那に世間の目は厳しく、瀬那へのCMオファーが取り消されたり、ファンクラブの会員数も如実に減少するなど仕事にも影響が出始める。千歳も芸能事務所を辞めることになってしまい、ようやく想いが通じ合った中2人は離れ離れに。そんな状況を一転させたのが、国内映画賞で主演男優賞を受賞した瀬那のスピーチだった。

「僕は大変な嘘つきなんです。子どもの頃から嘘を本当だと思い込ませるのが得意でした。だから俳優になったと言ってもいいでしょう。ただ、嘘ばかりついていれば当然誰も信じてくれなくなる。でもたった一人だけ僕の嘘も本当も信じてくれた人がいました。僕は彼女に認められたかった。それから僕なりに悩んだり苦しんだりしてきました。(中略)僕は彼女と一生を共にしたい。ずっと僕のマネージャーを続けてほしい」

授賞式後に、加賀見(東啓介)の計らいによって千歳と再会できた瀬那は「今までで一番いい芝居できたと思うんだよな」と照れもあってか嘘ぶく。しかし瀬那は間髪入れず「本当の嘘」だと続けたが、これは"今自分の周りで起こっている現実(=本当)を嘘にし、自分が話した希望の将来を現実にしてしまえるように"実現に向けて精進するという彼なりの決意表明だったのだろう。

自分と千歳が一緒にいられない日々、俳優を頑張ることができる一番のエネルギーの源である千歳が不在の現場、記者に追われ、憶測から尾ひれがついた噂がまことしやかに囁かれることで強まる世間からのバッシング...そんなものを全て"嘘=なかったこと"にしてしまおうとしたのだろう。そしてそれは"嘘"でもなんでもなく、現実を正面から受け止め逃げ出さず、自分を信じて、応援してくれる人たちと自分自身に瀬那自身が掲げた"約束"でもあったのだろう。それでもこの先、仮に怯んだり弱気になってしまった時にも自分を奮い立たせられるように発破をかけた部分もあるのだろうし、自己暗示の意味合いだってあるかもしれない。

当初は、相手の反応を見てから次の一手を差し出すのが瀬那のスタンスだったが、自ら退路を断ち、お得意の"保険をかける"をやめたのだ。「スキャンダルの影響を受けないくらい俳優として実力をつけたい」と真っ向から言える瀬那は見違えるほどに強くたくましくなった。

記者からの不躾な質問に反論しようとするも、勝手にコメントを出さないようにと事務所からセーブされ身動きがとれない中、授賞式のスピーチの場は誰にも邪魔されない格好の独壇場だった。自らの実力で、また千歳のサポートもあって瀬那が俳優という職業に真摯に向き合えるようになった先に、公私共に瀬那と千歳が側にいられて支え合える世界線がここに存在した。「嘘を本当だと信じ込ませる」のではなく「嘘を本当に」、現実のものとして手にした瀬那と千歳の2人に幸あれ!

(文:佳香(かこ)/イラスト:月野くみ)

◆番組情報
ドラマParavi『つまり好きって言いたいんだけど、』
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