偽装夫婦から本物の夫婦へ。ついに最終回を迎えた『婚姻届に判を捺しただけですが』(TBS系)。ラストは、このドラマらしく、シンプルに「夫婦って何?」という問いかけが描かれました。

明葉の面倒くささが大爆発!

つーか、百瀬(坂口健太郎)の面倒くささに気をとられて見逃していたんですけど、最終回にしてある重大なことに気づきました。百瀬が面倒くさいのは百も承知ですが、明葉(清野菜名)も明葉で肩を並べるくらいに面倒くせえええ!

お互いの気持ちを確認し合った明葉と百瀬。初めての両想いに舞い上がっている百瀬はもう四六時中ほっぺが緩みっぱなし。家に帰ってくるだけで目を細め、取引先に明葉のデザインを褒められたら、突然どデカい声で「ですよねえ!」と大歓喜。第1話の能面顔と並べても、絶対に同一人物とは思われない。ひとりで結婚式場の予約をしてくるところとか、可愛いを超えて、もはやちょっと怖いです。

一方、明葉はというと、ここにきて今さらもともと結婚にそれほど強い憧れも興味もなかったという初期設定が発動し、すぐに籍を入れる必要はないと余裕の構え。完全に方向性が食い違っとる。これがバンドなら音楽性の違いで即解散するレベルで食い違っとる。

でもさすがにこれに関しては明葉がズレてる気がします。というか、そもそも偽装夫婦の頃から百瀬に恋愛感情を抱き、このままずっと夫婦でいたいと願っていたのは明葉の方なのに、それが両想いになった途端、1からプロセスを重ねたいとかどういう論理? ほとんど詐欺師の言い分やぞ。

しかも百瀬のおかげでバイネームで仕事がもらえたのに、自分の力だけで勝負したいと不服顔。そのくせ、家の退去に伴い、百瀬が別々に暮らす手続きをすると、「なんで勝手に決めるんですか?」と不満爆発。

あ〜〜もう〜〜〜面倒くせえ〜〜〜〜〜〜。百瀬も百瀬でコミュニエーションが足りていないところもあるけど、明葉も明葉で自分の価値観を押し通しすぎ。「柊さん、本当にこの人と結婚して大丈夫...?」と謎の姑精神が頭をもたげてきました。

つい数日前までとても外には着て歩けないペアルックでキャッキャしてたはずなのに、すっかり破局寸前。この2人、話し合いが足りなさすぎじゃない...? 日中国交正常化だって粘り強い話し合いで成立しました。国と国でさえこれだけ話し合ってようやく足踏みが揃うんだから、個人間なんて推して知るべし。この2人は毎晩『真剣10代しゃべり場』をするくらいでちょうどいいと思います。

作品を牽引した、それぞれのキャラクターの魅力

そんな2人でしたが、「一緒に幸せになりたい」という気持ちは同じであることを確かめ合い、めでたくハッピーエンド。正直、「ん? 何が変わったんや?」「こんなあっさり解決するなら、わざわざ最後に揉めさせなくても良かったんやないか...?」と思わなくもないですが、まあ2人が幸せならそれでいいのです。

こんな感じで正直ストーリーという点では深みに欠けた『ハンオシ』。逆に言うとあまり深く考えず観る分にはちょうどよく、ああだこうだツッコミながら2人の不器用な恋を見守る楽しさがありました。

作品の牽引役となったのは、間違いなくキャラクターの魅力。百瀬を演じた坂口健太郎は、朝ドラ『おかえりモネ』(NHK)から続く連ドラ出演。ブームとなった菅波先生をどこか彷彿とさせるキャラクターでありながら、きちんと百瀬は百瀬として魅力を打ち出すことができたのは、その丁寧な演じ分けがあってこそ。特に中盤から終盤にかけては、百瀬のピュアさが全開で、持ち前の無防備な笑顔が百瀬らしさを最大限に引き出していました。

最終回だけの特別仕様となったオープニングの映像も、愛らしさ全開。男性の可愛らしさはともすると鼻につきやすいのですが、坂口健太郎の場合、あざとさよりも、ちょっととぼけた感じが前に出てくるので、計算めいたところを感じさせず、クスッと笑えるのです。このあたりは持ち前のコメディセンスが活きるところ。チャームポイントとなった寝相も、可愛さと面白さのバランスが絶妙で、最終話の床で寝ているさまは、ほとんど殺人現場でした。

唯斗役の高杉真宙も絵に描いたような当て馬キャラクターを好演。口の端をくいっと上げるような好戦的な笑顔が唯斗らしく、可愛いんだけど糖分は低め、むしろヤンチャで男らしい年下男子を魅力的に演じ切りました。唯斗みたいな男友達がいたらきっと楽しいだろうなと思った視聴者も多かったのでは。

麻宮祥子役の深川麻衣も、意地悪に見せかけて人の良さがにじみ出ていて、つい役名で呼びたくなる親しみやすさがありました。一方、美晴役の倉科カナはあざとい女がもはや代名詞に。しばらく強力な恋敵役は倉科カナの専売特許となりそうな予感すらする貫禄と安定感でした。

そして、清野菜名は感情豊かに主人公・明葉を熱演。特に感極まったときの表情が毎回絶品で、恋をすると味わう胸の苦しさが痛いくらいに伝わってきました。どんな展開でもあまり湿っぽくならなかったのも、清野菜名の持っている明るさゆえだと思います。

『婚姻届に判を捺しただけですが』というタイトル回収も、てっきり婚姻届に判を捺しただけの偽装夫婦という意味合いだと思っていたら、感情表現が苦手な百瀬が婚姻届に判を捺したことから変わることができたというポジティブな文脈だったのは、ちょっと意外なアイデア。

どんな人も、たった一人との出会いで変わることができる。結婚や夫婦の形を問うというよりも、『ハンオシ』は不器用すぎるこじらせ男子の成長物語として輝いた作品でした。

(文:横川良明/イラスト:まつもとりえこ)

◆番組情報
『婚姻届に判を捺しただけですが』
動画配信サービス「Paravi」で全話配信中。
また、Paraviオリジナルストーリー「とにかく婚姻届に判を捺したいだけですが」も全話独占配信中。