主人公・泉(飯沼愛)にとって大人になっても一生忘れたくないと思える"高2の2学期"が幕を閉じた『この初恋はフィクションです』(TBS系)最終週。祖父江(鈴鹿央士)がアメリカに行くまでの2週間、彼が遂に遂に初登校を果たし桜彩館高校2年1組のクラス全員が揃う教室が見られた。最後の1ピースがピタッとはまったのだ。

思えば、本作は新しい試みに溢れていた。顔も見えない正体不明の転校生を起点に物語が進み、その顔が明かされるのはなんと第8週目だ。全10週のうち、3週のみ祖父江役の鈴鹿の全貌が観られたのだ。しかも、成績優秀、絵も上手くて多才、子役をしていた過去も持つ人気者の正体が引きこもりの不登校生という設定もこれまでになかったものではないだろうか。

LINEの文面だけでは挑発的であまり他人に期待することもなく、群れることを嫌う一匹狼キャラに見せかけておいて、途中で徐々に祖父江の悲しき過去が明かされ、彼がなぜ人との距離感に慎重に臆病になってしまったのか、ドライな人間関係しか築けなくなってしまった理由が語られ、物語はまた全く違った表情を見せ始める。

「迷った時はワクワクする方を選ぶ」という祖父江が泉にLINEで送ったエールは、本当は彼が自分自身に言い聞かせていた言葉でもあったのだろうし、その結果彼が一歩踏み出せたのが桜彩館高校への編入だったのだろう。

しかしその言葉をきっかけに医学部受験を辞め、元々好きだった演劇を再開したいと演劇部の扉を開きどんどん"冒険"を進めていく泉の姿に、祖父江は勇気をもらうと同時に、次なる壁である学校への登校がなかなかクリアできずにいる自分自身に焦りを感じた部分もあったのかもしれない。

しかしここでもまた泉との運命的なリンクが祖父江の背中をそっと押す。祖父江にとっては子役の経験が中学時代のいじめの経験にも繋がってしまっているが、自身が出演していたミュージカルを"大好きで特別な作品"と言ってくれた泉のおかげで、彼女の中で生き続ける作品の影響力に、これまでのことがどこか報われたような気持ちになっただろう。

そして自分自身の中にある芝居への想い、エンタメへの熱量を取り戻していく。祖父江にとってそれはつまり"自分自身"を、そして"夢"を取り戻していく作業だったのだろう。泉と一緒に文化祭の演劇の台本作りに励む祖父江の姿は本当に楽しそうだった。映画監督を目指すためにカリフォルニアドリームピクチャーズのインターンシップに応募するという大冒険に、泉との出会いが祖父江を送り出すことになったのだ。

紗羽(武山瑠香)が"大人ぶってるけどうちらまだ子どもじゃん"と言った通り、高校2年生(17歳)とはまた絶妙な年頃だ。高校卒業後の進路も考えなければならないし、部活も先輩からキャプテンなどをバトンタッチされる"世代交代"の時期だし、恋愛にも忙しく、友人や親との衝突もあったりする。萌子(三浦涼菜)のように人目ばかり気にしてしまったり、どうにか"特別な自分"でありたいともがいたりもするし、何より自分自身のことを見失いそうになったりもする。

渦中にいる時には悩みすぎて頭がパンクしそうだったり、苦しくてもうどうしようもなく途方もない思いに駆られる"冒険前の助走期間"の足掻きや煌めきを桜彩館高校2年1組の"遊園地's"はじめみんなが全力で見せ続けてくれた。

ヒロイン役を演じた飯沼はじめ本作出演キャストの多くが『私が女優になる日_』(TBS系)での演技バトル出演者だが、作中の登場人物と一緒に彼ら本人らの成長も見られて、それがこの作品によりリアルな眩しさ、瑞々しさ、瞬きを与えていたように思える。思わず懐かしき日々と重ね合わせてしまった視聴者も少なくなかっただろう。"もう二度と戻ってはこない、無敵感と不安がないまぜでとびっきりに輝いていたあの頃"の思い出が過り、不安定になったり悩んだりしながらもとにかく毎日全力で一生懸命だったかつての自分自身をこの作品を通して抱きしめてあげられた気がする。

(文:佳香(かこ)/イラスト:まつもとりえこ)

◆番組情報
よるおびドラマ『この初恋はフィクションです』
TBS公式YouTubeで、動画配信サービス「Paravi」で全話配信中。
TBSスター育成プロジェクト『私が女優になる日_』も動画配信サービス「Paravi」で全話配信中。