益田ミリの同名人気漫画を原作とし、原田知世が主演を務める連続ドラマ『スナック キズツキ』(テレビ東京)の第9話が12月4日に放送された。来店客は、前回、ヘルパーをしながら忙しく家事をこなす主婦・鈴木裕子（旧姓・南/堀内敬子）に対してスマホをいじりながら「ママー、お腹すいたー」と言っていた17歳の娘、芽衣（吉柳咲良）だ。
芽衣は友人が着々と将来に向けて準備を始める中、親や先生に進路希望のことを聞かれ、モヤモヤする。実は芽衣はパティシエに憧れを抱いていたが、それを言えずにいた。そして、ケーキ屋を外から覗いていると、声をかけてきたのが、片思いの相手・佐伯（島村龍乃介）だった。ケーキが好きだという芽衣に、彼はケーキを選んでくれと言い、一緒にケーキを見たり、帰り道で将来の話をしたりする。
美容師になりたいという佐伯は、美容師になれたら髪を切りに来てくれと言い、芽衣の髪に手を伸ばす。照れる芽衣だが、その直後、佐伯のスマホがぶるる、と鳴る。「ごめん、すぐ返信しないと機嫌悪くなるからさ」。佐伯のやりとりの相手は彼女だった。しかも、芽衣が選んであげたケーキは彼女の誕生日のためのものだったのだ。
帰り道を一人歩く芽衣を、まるで心模様のように、通り雨が打ち付ける。軒先で雨宿りしていた芽衣に、「スマホ。あんた、スマホ詳しい？」と声をかけたのは、「スナック キズツキ」のママ・トウコ（原田）だった。トウコは皮肉にもほんの少し前、佐伯の彼女の存在を知らせた「バイブ機能」の設定方法を聞く。
そして、トウコはスマホを教えてもらったお礼にと、ホットサンドを作ってくれるのだった。ところで、これまでアカペラ、ピアノの連弾、エアギター、タップダンスなどなど、キズツイた人たちの心を開放させる様々な表現が登場したが、女子高生の芽衣が提案されたのは「スマホの高速入力」である。
「ちょっとやってみてよ、なんでもいいからさ」「今の気持を」と、いつものごとくムチャぶりすると、芽衣は将来のことばかり言う大人へのモヤモヤ、「今ここにいる私って価値がないってことなのかな」という思いを入力する。芽衣はトウコに将来の夢があったか尋ねるが、「あったよ」「（こういうお店をやるのとは）全然別のこと」「叶ったこともあったよ」という返事が。こうも付け加える。
「夢って、叶っただけじゃダメなんだ。離れないように背中にくくりつけて歩き続けなきゃなんない。私はおろしたけどね。もう持ち上がらないくらい重いの」
店を出ると、外はまだ雨。軒先まで見送ったトウコが、まっすぐ生きたいと思っていたが、ぶつかってキズツイて、キズだらけなのだと語ると、芽衣は言う。
「私、忘れたくないんです。17歳の自分を、丸ごと全部。将来の夢が叶わなくても、それを夢見てる今の私を覚えていたいんです。おかしいですか」
そんな芽衣にトウコがもう一つのムチャぶり「距離にして50センチ」「一歩前に出るだけ」を提案する。そこは軒先の外、雨の中だ。「ずぶ濡れになってみなよ。その制服で。そしたらずっと忘れないんじゃない？ 今日のこの日を」
芽衣が思い切って一歩踏み出すと、雨の中、心に浮かぶのは、教室、屋上、帰り道、友人、片思いの彼などなど、かけがえのない場所や人だ。10代の頃はずっと先の将来を見ることばかり忙しくて、こうした何気ない日々が何より輝いていることに気付かず、失ってから思い出す人も多いだろう。そうした意味でモヤモヤを抱えつつ、今を大事に生きる芽衣は、ある意味、青春を一番味わい尽くしているともいえる。
そんな通り雨により「今」を自分に刻み付けた芽衣が家でスマホを見ていると、母が帰ってきて、今日はご飯を作らない宣言をする。まさか前回のラストがここで逆の視点から描かれるとは。しかも、通り雨の中、芽衣が来店し、 通り雨が去った後、仕事帰りの母が立ち寄っていたわけだ。
さらに、前回ラストの母のご飯を作らない宣言には、続きがあった。「なせばなる！ 冷蔵庫に食材はある！」と言われた芽衣は、チョコレートとバナナを使ったホットサンドを作り、母にもあげ、初めてパティシエになりたいという「将来の夢」を言葉にするのだ。母子のそれぞれのキズツキを「通り雨」がつなぐ構成が実に見事だった。
（文：田幸和歌子／イラスト：たけだあや）
【第10話（12月10日[金]放送）あらすじ】
瀧井潤（小関裕太）は兄の和也（八嶋智人）と久々に再会しお酒を飲みながら近況を語らう。兄は家庭を支え、祖母の面倒も見、弟想いである。帰り道、瀧井はスナック キズツキを見つけて驚く。そこは亡き父が営んでいた場所だったからだ。昔と変わらぬ佇まいに父との思い出が蘇る。すると現在の店主トウコ（原田知世）が昔から備え付けてある電話を指差し「天国の父親と話してみれば」と提案する。瀧井が恐る恐る受話器をとると...。
◆放送情報
『スナック キズツキ』
毎週深夜0：12からテレビ東京で放送。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信されている。
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