待って。あんなに無愛想で失礼で、人との距離感がバグってて、とんちんかんだった百瀬(坂口健太郎)がいい男に見えてきた...?
でもこれがラブコメの面白いところ。『婚姻届に判を捺しただけですが』(TBS系/火曜22:00~)第7話は、ハマるはずのなかった百瀬沼に突き落とされた回でした。
あのクライマックスは、『ロミジュリ』のバルコニーのシーンみたいだった
沸きに沸いた、前回ラストの明葉(清野菜名)からのネクタイキス。これに百瀬がどうリアクションするのか。1週間、楽しみに待っていたら、エラーを起こしたロボットのように寝室へ直行。そして翌朝は、「明葉さんがそこまで離婚したがっていたなんて...」と謎の思い込み。円満離婚に向けて不仲計画を立案するなど、期待を裏切らないとんちんかんっぷりで明葉を置き去りにします。ほんまに親は百瀬にどういう情操教育をしたんや...。
もはや「こじらせている」を通して、ただの変わり者な百瀬。だけど、「僕の場合、キスされたことに嫌悪感がなかったので」と本音をポロリ。私が永瀬正敏なら、今すぐ百瀬にその気持ちは「愛だろっ、愛。」と言ってあげるところです。
そもそもが不毛な恋の隠れ蓑として始まったこの結婚。偽装の夫婦だから、条件さえ合えば誰でも良かった。実際、百瀬は明葉と結婚する直前に、麻宮(深川麻衣)にもプロポーズしているわけで。気持ちなんてものは、百瀬にとっていちばんどうでもいいものだったはず。
でも、そうじゃないんだということに気づくのが、今回の肝。そして、それを百瀬に気づかせてくれたのが、想い人である美晴(倉科カナ)にそっくりのインフルエンサー・香菜(倉科カナ/二役)でした。
明葉に代わって偽装結婚の相手に名乗りを上げる香菜。でも、百瀬は決して首を縦に振らない。他人と関わるのが苦手だった百瀬が、明葉との共同生活を「わずらわしくなんかないんです」と言う。相手の気持ちなんてそっちのけで、誰彼構わずプロポーズしていた百瀬が「僕は、明葉さんじゃないとダメなんだって」と言う。それは、ほとんど「好き」と同義語で。明葉と百瀬の間には、この2人にしかない特別な感情が生まれていた。その事実に胸が高鳴る。
結局、百瀬は火曜の夜は一緒にご飯を食べるという約束を守れなかった。部屋にこもった明葉との間を隔てる扉。その前に立って、百瀬は自分の今の正直な気持ちを伝える。あれはたぶん顔が見えないからこそ言えた気持ちだ。不器用な百瀬には、今はまだこれくらいの距離がちょうどいい。
そんな百瀬の言葉を受けて、明葉は部屋を飛び出す。閉ざされたドアが開くのは、その人物の心模様の暗喩でもある。そして、2人は1階と2階という異なる階層で向き合う。それはなんだか『ロミオとジュリエット』のパルコニーのシーンみたいだった。
『ロミオとジュリエット』では、バルコニーにいたジュリエットがロミオへの愛を語った。『ハンオシ』では2階にいる明葉が告げた、「私、百瀬さんのことが好きです」と。そう想いをぶつけたあとの明葉が一瞬泣きそうな顔をして笑う。その顔がすごく良かった。人に気持ちを伝えたときの顔だった。
そんな明葉の精一杯の告白に、百瀬が「ありがとうございます。僕もです」と答える。無表情がお決まりの百瀬は、わかりやすく頬を赤らめたりしない。でも、かすかに瞳が艶めいている。ずっと人を想うばかりで、人から想われることを知らなかった百瀬が、誰かから想われる喜びに、体温がじんわり上がっている。それが、透き通った眼差しから伝わってくる。
「明葉さん、これからも一緒にいてください」
こんなの、もうほとんどプロポーズじゃないか。「はい」と答える明葉を見て、幸せを噛みしめるように唇をきゅっと結んだ百瀬。その顔が最高級に愛らしくて、この世のキュンボタンというキュンボタンを押したわ。『ストⅡ』のボーナスステージのときくらい連打したわ。
あのハニカミ顔で完全に百瀬沼に堕ちた。ただ笑っただけなのに、なんであんな愛らしいんや。ちょっと目元が柔らかくなるところも、浮き出るエクボも完璧。坂口健太郎のハニカミを、国の重要文化財として保護すべき。あのハニカミシーンの3秒を延々ループ再生するだけで、仕事へのやる気も出るし、GDPも上がります。
さじ加減を誤ればただの変人になる百瀬という男が、コメディとしての珍妙さは保ちつつ、人に対して純粋で、実はすごく人が好きな青年として成立しているのは、坂口健太郎の力があってこそ。第1話ではキテレツ白アスパラ呼ばわりだったのに、もう完全にこの白アスパラに恋している。乙女、白アスパラに感動やわ。
次回の百瀬と唯斗の同居生活は、ほとんどSSRみたいなものです
ということで、もはや今日が最終回?というクライマックスだった第7話。え? このあとまだ続くの? だって2人の気持ちは通じ合ったじゃん、と思ったらどうやらそうでもないらしい。百瀬にとってこの「好き」は"ラブ"ではなく"ライク"の方だと思い込むのだとか。
って、あのキテレツ白アスパラめ〜! 百瀬、恋愛偏差値低すぎひん...? そして本格参戦するようで今いち蚊帳の外感のある唯斗(高杉真宙)が百瀬家に転がり込んでくる展開に。
今回も一緒にランチをしながら、明葉が百瀬のことを本気で好きなのだと知り、胸痛めるような表情を見せていました。ふざけた調子を取り繕っているけれど、戸惑いがちゃんと伝わってくるあたり、高杉真宙のうまさが光っています。
こういう普段はチャラい子が本気の恋に余裕を失う展開は、ラブコメ好きには大好物。本当は明葉を奪いたいのに、わざとけしかけるようなことを言って明葉を百瀬のところに向かわせ、最後までチャラい態度を装いながら、ひとり失恋の涙を流す、そういう未来まで見えたので、ぜひスタッフのみなさまは高杉真宙を存分に活かしきってほしい!
『ハンオシ』もいよいよ佳境へ。明葉と百瀬の恋の行方を見守りつつ、次回は百瀬と唯斗のレアすぎる同居生活をSSRを引いたつもりで楽しませていただきたいと思います。
(文:横川良明/イラスト:まつもとりえこ)
【第8話(12月6日[火]放送)あらすじ】
一世一代の告白をし、明葉(清野菜名)は晴れて百瀬(坂口健太郎)と両思いに!
・・・と思いきや、百瀬は自分の気持ちも明葉の気持ちも"ラブ"ではなく"ライク"だと思い込み、お互いの恋心に全く気付いていない!
雲行きがどんどん怪しくなる中、百瀬は明葉の"本当の気持ち"を全く理解していないことが分かり、我慢の限界を迎えた明葉は家出してしまう。
行くあてもないまま出社した明葉に、新しいコンペの仕事が舞い込む。選考委員の中に丸園ふみ(西尾まり)の名前を見つけ、前回のリベンジを決意する明葉。家出中ということもあり、会社に泊まり込んで作業を進めるのだった。
一方、百瀬のところへ、ルームメイトと喧嘩した唯斗(高杉真宙)が突然やってくる。しばらく泊める代わりに、百瀬は明葉の気持ちを教えて欲しいと頼み込むのだが・・・。 果たして、百瀬は明葉の気持ちに気付くことができるのか、そして百瀬自身の気持ちは一体・・・!?
◆番組情報
『婚姻届に判を捺しただけですが』
毎週火曜日22:00からTBS系で放送中。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
また、Paraviオリジナルストーリー「とにかく婚姻届に判を捺したいだけですが」が独占配信中。
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