いよいよ今後の展開が完全に読めなくなってきた。
『最愛』(TBS系/毎週金曜22:00~)第4話のクライマックスで登場した、昭(酒向芳)の殺害現場が記録された映像。昭の首に伸びた腕には、優(高橋文哉)と同じ傷があった。
はたして昭を殺したのは本当に優なのだろうか。まったく予想のつかない今後の展開を考察する。
『最愛』から溢れ出す、美しさに似た切なさ
まず今回はっきりしたのは、情報屋=弟の優であったこと。名前を変え、生活感のかけらもないマンスリーマンションで、テイクアウトの牛丼をかきこむ暮らしをしている優。そこには人間としての豊かさはどこにも感じられなかった。友達もいない。家族もいない。優はただ姉の梨央(吉高由里子)を守るために、こんな生きているのか死んでいるのかわからないような人生を送ってきたのだろうか。
9年ぶりの弟からの「姉ちゃん」の響き。でもそのあとに続く言葉は、殺人の告白。まるで瞳が涙を張った湖みたいになっている梨央が、小さく首を振る。なんて残酷な再会なんだろう。でも、この美しさに似た切なさが『最愛』というドラマの魅力だ。
優の告白が真実だとすれば、康介(朝井大智)殺しの真相も昭殺しの真相もこれで解明されたことになる。となると、ここからの展開はどうなるのか。「最愛」の弟を庇うために、梨央が隠蔽に手を貸すのか。優のパソコンから犯行当時の様子が記録された動画を発見した大輝(松下洸平)はどう出るのか。『最愛』は犯人探しのサスペンスではなく、「最愛」の人が罪を犯したとき、人はどうするのか、そんな愛と罪を描いたドラマになっていくのかもしれない。
ただ一方で、ここだけではまだ判然としていない疑問がある。たとえば第1話の冒頭で、雨の中、白衣姿の梨央が手を血に染めて警察に連行されていた。このシーンは今後どのあたりで出てくるのだろうか。わかっているのは、今後まだ誰かの血が流れる展開が待っていること。そして、その事件に梨央が深く関わっていること。この血の主は、はたして誰か。梨央を敵視している後藤(及川光博)や政信(奥野瑛太)かもしれないし、事件の真相を嗅ぎ回るしおり(田中みな実)の可能性もある。ただ少なくとも最愛の誰かを守っての行為であることは間違いない。
また、ひねくれた見方をすれば、興奮したら記憶が飛んでしまう優の病気を利用して、別の誰かが罪をかぶせようとしている可能性もゼロではない。そもそも自分が人を殺した動画を撮っているという行為自体が不自然だ。梨央が昭に問いつめられているところを優が撮影する理由もない。もしこの動画が濡れ衣を着せるための犯人の罠だとすれば、黒幕は優の病気のことと腕の傷を知っている誰かに限られる。白山大学の陸上部関係者か、あるいは加瀬(井浦新)か。ここ最近まったく出番がない藤井(岡山天音)の再登場を待ちたいところだ。
また、ちょっと気になる謎も新たに浮上した。しおりは大学時代に1年間休学をしているという。期間は2006年9月から2007年8月まで。その頃に両親が離婚をした。大輝がくれたメールを確認したところ、梨央の大学受験の日は2006年9月23日。つまり、この物語の発端となった康介死亡の時期とぴたりと符合する。これは偶然なのか。それとも、まったく無関係に見えたしおりが何か事件の重大な鍵を握っているのだろうか。
ちなみに、しおりの在籍した法都大学は、選抜大学対抗駅伝で3連覇を果たした大学でもある。さすがにこれは何の関係もないと思うが、一応頭の片隅に入れておきたい。
このまま信号が変わらなければいいのに。2人だけの秘密の抱擁
美しさに似た切なさが持ち味の『最愛』だが、今回その真価が発揮されたのは、やっぱり梨央と大輝の横断歩道のシーンだろう。
「大ちゃん、私、やっとらんよ」
梨央が方言を使うのは、白川郷にいた頃の、どこにでもいる普通の女の子に戻るとき。ずっと疑惑の敏腕社長を演じ続けてきた梨央が、ついにその仮面を大輝の前で外した。それに「信じるよ。お前やないってこと」と大輝も方言で返す。大輝もまた事件を追う刑事ではなく、梨央のことを昔からよく知る1人の男として答えた。
ここで背中を向けているのが、美しくて、切ない。顔を見ては言えない。そんなところが、男っぽくて、シャイな大輝らしい。今、大輝がどんな顔をしているのか、梨央にも、視聴者にもわからない。だから余計に胸に迫ってくる。
「だからそっちも、薬、あきらめんな」
そう言われて、梨央の目のふちに涙がたまる。その吉高由里子の美しさに、言葉を失ってしまう。胸の温度が伝わってくるような透明な涙だ。大輝が振り向いた瞬間、梨央はその胸に飛び込んだ。なんとなくそれは、まだこの涙を大輝には見せられないからに見えた。泣いているのを"大ちゃん"には見られたくない。だから、その胸で涙を隠した。大輝は、小さな梨央の背を抱き返すことはできなかった。それは刑事だからか。それとも男としてのためらいか。
梨央も大輝もお互いに特別な感情を持っているのはわかる。でもそれはわかりやすい男女の恋愛とはまた違うようにも思える。15年前のあのとき、2人の道は違えてしまった。今は、お互いの夢を信じて、応援する存在。あの人がどこかで頑張っているから、自分も頑張れる。梨央は大輝からもらったお守りをなくしてしまったけれど、2人はずっとお守りみたいに心の中にお互いのことを置いていた。それが、この2人の「最愛」の形なのかもしれない。
孤独なランナーに声援を送るように。2人は遠く離れた場所でお互いの幸せを祈っていた。でも、ゴールテープの向こうには、抱きとめてくれる相手が必要だ。いつか2人はそんな存在になるのだろうか。誰もいない夜の横断歩道。信号が青になるまでの秘密の時間。また刑事と参考人として歩き出す2人を見ながら、いつか大輝の腕が力いっぱい梨央を抱きしめられる日が来ればいいのにと願わずにはいられなかった。
そして、もしこれが「最愛」の人を守るために、それぞれが罪を犯したり、秘密を背負う物語なのだとしたら、あの雨の夜、警察に連行される梨央が守ろうとしていたのは、他ならぬ大輝なのかもしれない。
(文:横川良明/イラスト:まつもとりえこ)
【第5話(11月12日[金]放送)あらすじ】
ついに再会を果たした梨央(吉高由里子)と弟の優(高橋文哉)。優は9年間自分がどのような人生を歩んできたか、そして携帯電話の記録動画から自らの罪を打ち明ける。
一方、イヤホン男の住居を割り出した警察は、誠と真田ウェルネスとの関わりや、誠と優が同一人物であることも突き止めていた。さらに、大輝(松下洸平)は15年前に大麻事件を起こした元陸上部員の長嶋(金井成大)のもとを訪ね、事件当夜に関してある重要な証言を得る。
そんな中、真田グループの情報を嗅ぎ回るしおり(田中みな実)について調査する加瀬(井浦新)は、後藤(及川光博)との接点を突き止める。
そして、9年ぶりに優と語り合った梨央は、ある大胆な行動に出るのだった――。
◆番組情報
『最愛』
毎週金曜日22:00からTBS系で放送中。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
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