康介(朝井大智)を殺したのは、やはり優(柊木陽太)だった。
早くも考察膨らむ『最愛』(TBS系/毎週金曜22:00~)。だが、視聴者の推理を嘲笑うように、第2話にして重大な真実が明かされた。ここからどう展開するのか。今後のストーリーを考察する。
梨央を守ろうとしているのは、弟の優か?母の梓か?
薬で眠らせた梨央(吉高由里子)を襲おうとして、優に刺されてしまった康介。揉み合った末の事故とはいえ、幼い弟が人を殺してしまった事実を知った梨央は、証拠の動画と共にその事実を抹消した。
優は自分が守る。そう改めて決意した梨央は、弟を東京に呼び寄せ、共に暮らすことを決める。だが、5年後、弟は姿を消した。なぜ弟は梨央の前からいなくなったのか。
考えられる最も大きな理由は、優自身が康介を手にかけた記憶を何かしらの拍子で思い出したためだろう。自分が犯罪者であると知った優は、最愛の姉に迷惑をかけられないと、自ら梨央のもとから立ち去った。
情報屋(高橋文哉)が優であることは、ほぼ確定でいいと思う。問題は、隠しカメラまで仕掛けて梨央を監視する目的が何なのかだ。おそらく後藤(及川光博)の命令は隠れ蓑。本来の目的は姉を見守ることなんだと思う。自分が犯した罪を知った弟が、姉に再び危機が迫ったときのために盾になっているとしたら・・・。目深にかぶった帽子のつばに隠されたあの瞳にどこか純粋なものを感じる理由がわかる。
康介殺しの真相が明らかになった以上、気になってくるのは、誰が康介の父・昭(酒向芳)を殺したかだ。昭の遺体が発見された公園の近くに、事件当夜、梨央がいたことが防犯カメラの映像によって明らかになった。やはり昭の死に何かしら梨央が関わっていることは疑いようがないだろう。
そこで脳裏をよぎるのが、今回何度となく出てきた「隠しごと」「嘘」「本音」といった言葉だ。
「私たちは家族。隠しごとはなし。悩みごとは分け合う」
梓(薬師丸ひろ子)はそう言った。また、梨央と加瀬(井浦新)の間で「嘘ついてない?」「私が加瀬さんに嘘言ったことある?」という会話も。
このドラマの中では、家族こそが唯一本音を分かち合える存在らしい。つまり、梨央が隠し持っている、人には言えない昭との事情を知りうる相手がいるとしたら、家族のみ。そしてそれは、優と梓、そして梓いわく「もうひとりの家族」である加瀬の3人だけだ。
この3人のうちの誰かが梨央を守るために昭を殺したと考えるのが、現時点での妥当な推理だろう。情報屋が優であるなら、梨央に危機が及んでいることは当然知っていたはず。しかも、昭が梨央に迫る理由は、自分が康介を殺してしまったからだ。その責任を背負い、優が再び凶行に及んだと考えるのが最も自然なストーリーだし、「私、親をやるのが下手なのよね」と自嘲するように告白した梓が、最愛の娘のために唯一やった親らしいことが人殺しという筋書きも、いかにもドラマティックだ。
藤井の存在が、この事件の鍵となる
ただ、この『最愛』は単に犯人推理のためだけのドラマではない。事件の裏にひそむ人間ドラマこそが、この作品の最大の魅力だろう。そういう意味で、まだ解せないのが、やはり藤井(岡山天音)の存在だ。前回のレビューで指摘した、達雄(光石研)の葬儀の支度をしている中、訪れた男性だが、「大変なときにすみませんでした」という台詞はよく聞くと岡山天音の声のようだ。そう思うと、ちょっと聞き取りづらかった梨央の台詞も「藤井さん」と言ってるように聞こえる。
やはり藤井は、達雄の死に何かしら関わっている可能性が高い。そこで深読みするとしたら、マネージャーの菜奈(水崎綾女)の存在だ。菜奈は、大輝(松下洸平)に対し、自らも康介の性的暴行の被害者であると告白した。もし藤井が菜奈に想いを寄せていて、そのことを何かのきっかけで知ったとしたら。康介殺害、そして死体遺棄の裏側に、藤井が一枚噛んでいるという推測も現実味を帯びてくる。藤井は、達雄が死ぬ前に何か話をしていたのではないだろうか。
吉高由里子だから演じられる、不敵で無邪気なヒロイン
そんな謎が深まるストーリーと共に、キャラクターの魅力も一層際立ってきた。今回、視聴者をイライラさせたのが、クズ兄貴の政信(奥野瑛太)。陰険な兄に、梨央が報復のカウンターパンチを喰らわせたくだりは胸のすく思いがしたし、梨央がただのやられっぱなしの可哀相なヒロインではない、強くたくましい女性であることを見せつけた。この流れは、『Nのために』(TBS系)で、養育費を払わないクソ父親(光石研)に捨て身の作戦で恥をかかせ、学費を勝ち取った希美(榮倉奈々)の雄姿を思い出させるものがあった。やっぱり新井順子、塚原あゆ子、奥寺佐渡子、清水友佳子の描く女性像は、非常に爽快だ。
そして、それを不敵に演じる吉高由里子が実に美しい。赤い紅をひいたときは、腹の底が見えない敏腕社長の顔。でも、化粧を薄くすると、たちまち田舎育ちの無邪気な女の子の顔に戻る。吉高由里子の演技が、地位と名誉で固められたその内側にある梨央らしさを伝えてくれる。
それを最も強く感じたのが、クライマックスの大輝とのシーンだろう。追いかけてくる車から庇うように、梨央を抱き寄せた大輝。そのはずみで、大輝のシャツに抹茶クリームがついてしまう。その瞬間、15年分の時間と距離がまるで溶けてなくなったように、あの頃に戻る梨央と大輝。そのあまりに自然なやりとりに、つい悶えるような声が出てしまった。2人は、あの頃から何も変わっていない。一緒にクスクス笑い転げながら電車に乗って帰ったあの頃から。
でも、実際はそんなに単純でもない。2人は、今、容疑者と刑事という立場だ。それをわかっているように、梨央は「これって罪になるのかな? 何罪?」といたずらっぽく尋ねる。やっぱり梨央はただ運命に翻弄されるだけのヒロインじゃない。自分の足で立って、獣道を行くヒロインだ。
そんな梨央に想いを寄せる加瀬の存在を含め、梨央、大輝、加瀬のトライアングルが、ここからどう物語を動かしていくのか。ある意味、事件の真相以上に大きな見どころだ。
とりあえず今回の加瀬は政信の嫌味を「ざーっす」と軽くスルーしたところが、最高に痛快だった。井浦新だから見せられる大人の男の魅力で、ここから視聴者をもっと鷲掴みにしてくれることだろう。
闇夜に背後から迫ってきたあの車は、間違いなく梨央を狙っていた。乗っていたのは中年の男性に見えたが、一体あれは誰の差し金か。またひとつ謎ができてしまい、ますます考察が止まらない。ちなみに優が祖母(茅島成美)と観ていたアニメは『探偵学園Q』だった。優、まさかアニメで推理力を養ってたりしないよね・・・?
(文:横川良明/イラスト:まつもとりえこ)
【第3話(10月29日[金]放送)あらすじ】
大輝(松下洸平)から「友達として話をしたい」と言われた梨央(吉高由里子)は、近所の馴染みの鉄板焼き店へ。ぎこちないながらも昔のような空気が2人の間に流れ、梨央は事件当夜のことを話し始める。
署に戻った大輝は、梨央の足取りを付近の防犯カメラで確認。彼女の話に矛盾はなく、相棒の桑田(佐久間由衣)も梨央は犯人ではないと感じるが、同時にどこか煮え切らない大輝の態度がひっかかる。
そんな折、「真田ウェルネス」に一通の脅迫メールが届く。後藤(及川光博)は事業説明会の中止を進言するが、新薬開発をなんとしても成功させたい梨央は「中止はしない」と断言。説明会がアナリストやメディアに評価されて新薬が承認されれば、自分の前から突然姿を消した弟の優が戻ってきてくれるかもしれないという思いもあった。物々しい警備体制のなか、事業説明会が始まる・・・。
◆番組情報
『最愛』
毎週金曜日22:00からTBS系で放送中。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
- 1