連ドラを観ることを日常の楽しみにしている人たちにとって「プロデューサー:新井順子×演出:塚原あゆ子」の組み合わせは、もはやひとつのブランドだ。そしてこの2人のタッグには3つの路線がある。

『アンナチュラル』『MIU404』(共にTBS系)など脚本に野木亜紀子を迎えた社会派ヒューマンミステリー路線。『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』『中学聖日記』『着飾る恋には理由があって』(いずれもTBS系)など脚本に金子ありさを迎えたラブストーリー路線。『夜行観覧車』『Nのために』『リバース』(いずれもTBS系)など脚本に奥寺佐渡子、清水友佳子を迎えたサスペンス路線だ(『Nのために』は奥寺の単独執筆)。

これまでイヤミスの女王・湊かなえの人気小説を原作にしてきたサスペンス路線で、ついに奥寺、清水脚本によるオリジナル作品を世に放つ。それが、期待の新ドラマ『最愛』(TBS系/毎週金曜22:00~)だ。

ヒロインには、同じく新井プロデュース&奥寺、清水脚本による『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)で主演を務めた吉高由里子。そして、『MIU404』にゲスト出演し鮮烈な印象を残した松下洸平。『アンナチュラル』の中堂さんで新たな魅力を開花させた井浦新と、キャストは鉄壁の布陣。ドラマファン注目の新作がいよいよそのヴェールを脱いだ。

事件の最重要人物は、弟・優か?それとも陸上部部員か?

すべての始まりは、2006年。緑豊かな岐阜県・白川郷で、ある1人の青年が姿を消した。失踪した男の名は、白山大学大学院薬学部2年・渡辺康介(朝井大智)。康介の消息が掴めぬまま15年の月日が流れたある日、山中で康介の白骨遺体が発見された。そして、それから10日後、今度は康介の父・昭(酒向芳)の遺体が見つかる。

渡辺父子を手にかけたのは誰か。捜査線上に浮かんだのは、新薬開発会社・真田ウェルネスの若き社長・真田梨央(吉高由里子)だった――。

第1話を観る限り、康介殺しの背景に梨央が絡んでいることは確定だろう。康介は何かしらの薬を飲ませて梨央の気を失わせ、襲うつもりだった。このことから考えられる康介殺しの容疑者は、梨央の父・達雄(光石研)が妥当だ。だが、康介を山中に埋めたのは達雄かもしれないが、手にかけたのはおそらく達雄ではない。

現時点で考えられる殺人のシナリオは2ケース。1つめのシナリオは、弟・優(柊木陽太)が犯人というパターンだ。優は転落事故により、興奮すると記憶を失うという症状を抱えている。そして、事件当夜に携帯電話を紛失している。康介が寮を訪ねた夜、優もその場にいた。姉を救おうと、優が康介を襲った可能性は十分にある。

2021年現代のシーンで、真田ウェルネスの専務・後藤(及川光博)に命じられ、梨央の身辺を探っている情報屋(高橋文哉)はその容姿・年齢から見て、優であると推測できる。なぜ優が姉を陥れようとしている後藤についているのかは謎だが、この事件の鍵を握る重要人物であることは間違いないだろう。

そしてもうひとつのシナリオが、白山大学陸上部による集団犯罪というパターンだ。事件の夜、陸上部員の長嶋(金井成大)やマネージャーの青木菜奈(水崎綾女)は薬物を使用していた。このことが明るみに出れば、全国駅伝出場の道が絶たれる。それを恐れた陸上部の何人かが康介を殺害し、隠蔽を図ったのではないだろうか。

現代では刑事となった藤井隼人(岡山天音)も、寮を訪ねた昭に対し、警戒している様子を見せた。もしかしたら隼人が事件隠蔽の首謀者なのかもしれない。また、達雄が本当にただのくも膜下出血による死なのかも疑問が残る。優が達雄が死んでいるのを見つけたとき、続々と部員たちが駆けつけたが、なんだかその様子がおどろおどろしかった。部員たちの犯行を知った達雄が自首を呼びかけ、そこで何かしらのトラブルが起きたのではないか。少なくともこの陸上部がただの清く正しく美しいスポーツマン集団ではないことは明らかだ。

また、達雄の葬儀の支度をしている中、「大変なときにすみませんでした」と訪ねた男性は誰だったんだろうか。梨央の反応から見ると知り合いのようだが、はっきりとは明かされなかった。もしかしたら何か今後につながってくるのかもしれない。

これらの謎を踏まえた上で、康介と昭を殺したのは誰なのか。その真実を、視聴者は追いかけることになる。しばらく金曜は、頭の中で膨らむ考察で眠れぬ夜を過ごすことになるだろう。

吉高由里子×松下洸平×井浦新が紡ぐ最愛のラブストーリー

そして、このドラマは『最愛』というタイトルの通り、ラブストーリーとしての顔も持っている。茅葺き屋根が並ぶ合掌造りの家々と、目の覚めるような青い田園風景を借景に描かれる甘酸っぱくせつない初恋は、それぞれの叶わなかった恋の記憶を呼び覚ますような純度があった。

歩道橋での別れのシーンは、『Nのために』のフェリーのシーンを彷彿とさせたし、お守りの中に隠した「必勝合格!百戦百勝!」のエールは、『Nのために』で成瀬(窪田正孝)が切符の裏に書いた「ガンバレ N」を思い起こさせた。そのうち梨央と宮崎大輝(松下洸平)は自転車で2人乗りをすると思う。

梨央を演じる吉高由里子は、屈折したところのない女子高生時代と、ミステリアスな女社長で鮮やかに対比をつくり、視聴者を釘付けにした。同じ微笑みなのに、こうも印象が変わってしまうのはどうしてなんだろう。

競技場で大輝に告白しようとしてくすぐったそうに鼻をひと撫でする仕草は初々しく、再会を果たした大輝に「初めまして」と言ったあと、一度、視線を下げてから、再び大輝を見たときの目には女のたくましさと底知れなさが宿っていた。ひとりの女性に内在する聖女と悪女の面をドラマティックに見せる吉高由里子の表現力に初回から唸らされた。

そして、大輝を演じる松下洸平の一途さが、このドラマにせつなさとノスタルジーをもたらしている。ソフトな語り口で紡がれるナレーションが哀愁を呼び、素朴な岐阜弁が親しみを醸し出す。気持ちのやり場に困ったとき、思わず頭に手をやるのは、松下が考え出した大輝の癖なんだろうか。梨央に告白されかけたとき、髪をかきむしりながら口を尖らせる表情は愛らしく、梨央の家を訪ねた夜、困ったように髪をさわった仕草からは、男の不器用さが伝わってきた。

きっとこれから松下は、刑事として事件を追いかける大輝の顔と、最愛の女性に再び胸を熱くさせる大輝の顔を、自在に使い分けながら、視聴者をときめかせていくことだろう。あの『Nのために』の成瀬くんに並ぶ、一途で、健気で、だからこそ胸が苦しくなる魅力的な男性像を、松下洸平ならつくり上げてくれそうだ。

そこに井浦新がどう絡むかも注目のポイント。今のところ、井浦演じる加瀬賢一郎は、非常に物腰柔らかく、思慮に富んだ好人物に見える。立ち位置的に考えて、康介殺しに関連している可能性は低い。あるとするなら、昭殺害に何か関わっている線だが、そのあたりは今後の展開を見守りたいところ。刑事となった大輝がどこか野性味を感じる動的なキャラクターになっている分、加瀬は梨央を陰になり日向になって支える静的なキャラクターなのかもしれない。松下と井浦がどう視聴者の支持を分け合うかも興味深い点のひとつだ。

さらに、新境地開拓になりそうな田中みな実、渋みのあるイケボとビジュアルでファンを増やしそうな津田健次郎、相変わらずおいしいポジションをかっさらいそうな及川光博と、脇を固めるキャストも強力。その顔見せも非常にテンポ感があって、このあたりは塚原演出の妙を感じさせるところ。次回へと期待をつなぐ終盤の約8分だった。

身を焦がし、胸灼けるようなドラマが今、スタートの号砲を鳴らした。

(文:横川良明/イラスト:まつもとりえこ)

【第2話(10月22日[金]放送)あらすじ】

思わぬ形で15年ぶりに再会した梨央(吉高由里子)と大輝(松下洸平)。大輝は梨央に任意同行を求め、遺体で発見された昭(酒向芳)との関係や、昭の息子・康介(朝井大智)の遺留品について尋ねる。

会社に戻った梨央に、専務の後藤(及川光博)はフリー記者・しおり(田中みな実)から入手した写真を見せ、昭との関係を追及。梨央を心配した弁護士の加瀬(井浦新)は、今後は一人で警察と会わないよう約束させる。

一方、捜査資料から、梨央が今も変わらずに新薬開発の夢を追いかけていることを知る大輝は、刑事として今回の殺人事件と15年前の事件のつながりを調べはじめる。

さかのぼること14年前の2007年――。真田家での生活になじめずにいた梨央。兄・政信(奥野瑛太)との対立や弟の優(柊木陽太)と自由に連絡が取れないなど、慣れない生活を送っていた。そのような中でも加瀬の支えによって何とか大学には通っていた梨央だが、久しぶりに再会した優から衝撃的な真実が明かされるのだった・・・。

◆番組情報
『最愛』
毎週金曜日22:00からTBS系で放送中。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。