益田ミリの同名人気漫画を原作とし、原田知世が主演を務める連続ドラマ『スナック キズツキ』(テレビ東京)が10月8日にスタートした。傷ついた客だけがたどり着く不思議なお店"スナック キズツキ"。ふんわりした柔らかな魅力の原田知世がいるスナックなんて、絶対に癒しのドラマだと確信した視聴者は多かったろう。しかし、実際に観てみると、癒しだけじゃない。不思議と脱力してしまうおかしさと、ドキッとさせられるほろ苦さとがある。

初回ゲストは、コールセンターのオペレーターとして、日々クレーム対応に追われる中田優美(成海璃子)。ある日、電話をとったクレーム相手はこれまでも対応したことがある安達よしみ(平岩紙)だった。組み立て式の北欧風ローテーブルを購入し、組み立てたものの、脚が1本短く、ガタガタしてしまうという。

返品のお願いをすると、「段ボール、捨てちゃいましたけどー」「もう組み立てちゃったんですけどー」「脚1本送ってくれればいい話でしょう?」とキレている。

しかも、代わりの商品を手配しようとすると、同商品は在庫切れのため、すぐに送れない。上の人に代われと言われるが、上の人も対応しない。ようやくひと段落ついてお弁当を食べ始めると、今度は年下の彼氏(小関裕太)から連絡があり、仕事で遅れるという。

実際会っても自分の話ばかりする彼氏にモヤモヤしつつ、自分が食べたいものすら主張できずに合わせてしまう中田。そこでたどり着いたのが「スナック キズツキ」だった。

ママ・トウコ(原田)がアルコールを飲めないという理由で、スナックなのにアルコールはなく、昭和レトロの喫茶店のような店で、頼んだソイラテもキーマカレーも美味しそう。その時点ですっかり癒された気分になるが、本題はここから。トウコは唐突に言う。

「ところであんた、キーは低めかな?」。意味がわからず聞き返すと、「カラオケ」と言い、ギターを構え、マイクを渡して、さらに謎の言葉を投げかける。

「テキトーに合わせるから、好きにやっちゃって」

テキトーにと言われても何を歌って良いかわからず困惑する中田に、「今のあんたの気持ちだよ」。「あんた」という言葉をこんなにもふんわり優しく軽やかに言う人をこれまで見たことがない。原田知世の声のトーンって何なのだろうか。
 
そして、中田の日々のクレーム対応への愚痴ソングがヘタウマなミュージカルテイストで始まった。「何て~?」など、本当にテキトーに合いの手を入れるトウコ。調子が出てきた中田はまさかの「2番」を自分からリクエストし、今度は彼氏についての愚痴を歌う。決して怒りに震えるような出来事でもないし、涙ながらに語る苦悩でもない。でも、普段の日常の中で起こる出来事で傷ついてきたことを歌にのせるだけで、翌日、中田の表情は実に軽やかで、職場でも鼻歌が出るほどだった。

ところで、ここまでの展開を見終えて、「いや、でも、クレームをつけた安達の主張は別に間違っていないよな?」「こういうクレーム、自分もしているかも。気をつけなきゃ」とちょっとドキリとする。と思ったら、エンディングでは安達の日々がサラリと映像で描かれ、たどり着いたのは「スナック キズツキ」だったのだ。ちなみに次回の主役は安達だ。

本作のコンセプトでもある「人はみな、傷つきながら、傷つけながら生きてる」は、実に益田ミリらしく、優しさに溢れている。つい自分の痛みには敏感なのに、他者の痛みに鈍感になっていないかと考えてしまう。

ちなみに、エンディングテーマは7月クールにテレビ東京で放送された『うきわ―友達以上、不倫未満―』に出演していた森山直太朗で、サプライズのナレーションは大和田伸也。何かと良いセンスなのに、「センス、いいでしょ」感を前面に出さず、まるで最初からそこにあったかのようにさりげない提示の仕方をするのが、実にテレ東らしい技アリのドラマだ。

(文:田幸和歌子/イラスト:たけだあや)

【第2話(10月15日[金]放送)あらすじ】

傷ついた客だけがたどり着く"スナック キズツキ"。コールセンターにクレーム電話をしていた安達さん(平岩紙)もまた、傷ついている。わがままな客や同僚、電車での迷惑行為・・・いつも、自分ばかり損していると嘆く。しかし、スナック店主のトウコ(原田知世)と一緒にピアノを弾きながら、自らの愚痴を歌にすると、不思議と心が晴れやかに・・・。今日も又、トウコの不思議な癒しの力で、誰かの心が救われます!

◆放送情報
『スナック キズツキ』
毎週深夜0:12からテレビ東京で放送。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信されている。