自分で選んだはずの道なのに、それなりに幸せで満足もしているはずなのに、自分とは全く違う道を歩む同性の姿を見ると眩しく、時に胸に痛みが走る。彼女と自分の違いは何なのか、どこから違ってきたのか、思わず過去の分岐点まで辿りたくなってしまう。動画配信サービス「Paravi」の完全オリジナル作品『東京、愛だの、恋だの』第5話はサブタイトル"隣の芝生は青い"の通り、そんな女性2人の対比が見応えたっぷりに描かれた。
大学で同じ写真部に所属していた横山涼子(臼田あさ美)と羽柴夏希(市川由衣)は39歳。互いに"選ばなかった(選べなかった)方の人生"を歩んでいる2人は合わせ鏡のようにお互いのことを意識し合う。涼子は結婚10周年、夏希はフォトグラファーとしてデビュー10周年。前者は結婚を機に広告代理店でのアートディレクター職を辞め専業主婦として家事と育児に追われている。戸建て一軒家で朝から忙しく2人分のお弁当を作る涼子と、同じく一軒家をアトリエ兼自宅として使いマイペースな一人暮らしを送る夏希、それぞれの選択について物足りなさと後悔、不自由さが時折顔を覗かせる。
涼子はパートの面接を受けるも、10年間のブランクと夫の不理解がネックとなりなかなか社会復帰できないでいる。一方、夏希は有名なギャラリーでの個展も決まり、仕事は順風満帆に見えるが、同窓会では唯一の独身で内心肩身の狭い思いをしている。
互いに、「あの時仕事を辞めていなければ...」「当時の彼氏と結婚していたら今頃どうなっていたんだろう?」と、"もしもあの時..."を反芻してきたのだろう。ただ、他人の考えていることなど本当のところは外からSNSを通して見ているだけではわからぬものだ。
涼子からすれば「選ばれた人」に見える夏希も、本人からすればそれはあくまで"今"仕事上でのことであって、この仕事もいつなくなるかわからないし、引越し先も見つからず"安定"しているものは何一つない。
"安定"はしているかもしれないが、「夫が運転する車の助手席にずっと乗ってる」しかなく行先を自由に決められないとこぼす涼子に、「学生時代の延長みたいな生活で、自分のためだけに時間使うのも飽きてくるんだよね」としみじみ話し「誰かに左右される生活」に憧れるという夏希。どれも本音で、嘘はないのだろう。
涼子と夏希の素敵なところは、互いを嫌悪してしまうのではなく、それぞれ相手の魅力を認め合えることだ。互いの生活を「羨ましい」と口にできたことで、そして自分に持っていないものを全て手に入れているかに見える"対岸の彼女"が自分の今の生活を肯定してくれたことこそが「自分の今の生活も悪くはないのかも」と思えるところだ。違う道を選べば当然異なる痛みや苦悩がある訳で、どっちが楽でどちらが正解ということもない。
皆、何かしらに悩み、空洞を抱えているものだ。涼子と夏希の間に分断を生んでしまわなかったことが何よりで、2人が自身の"今の生活"を認めながらも、その生活圏内で可能な限り変化感をもたらそうとしていたことも、あまりに理想の同性間の繋がりの在り方だった。涼子も夏希も幸せであってほしい。だって、涼子は選ばなかった方の夏希で、夏希も同じように選ばなかった方の涼子なのだから。
人はいつだってどこまでいってもないものねだりだ。特に、結婚、妊娠・出産と人生が分岐し幾通りもの選択肢が目の前に広がり、その取捨選択を早い段階から迫られる女性には誰しも必ず"選ばなかった方の人生、幸せ"が存在し、時にその"選ばなかった側"の幻影が付き纏い、飲み込まれそうになることもある。
ただ、夏希も言っていた通り「結局はさ、自分が望んだ方を選択してきてるんだよね。もっと今の自分を信じてあげようと思って」というのは、自身の尊厳をゴリゴリに削られそうになったり、あろうことか自分が自分自身のことを否定してしまいそうになった時に思い出したい言葉だ。どんな時にも女性が"自分らしく"歩み続けられるように、躓いたってまた起き上がれる道標になってくれるだろう。
その裏で、主人公・かえ(松本まりか)は恋人・達也(梶裕貴)からのプロポーズを断り、別れを切り出すが、この別れがかえと芦屋(毎熊克哉)の関係にどう影響を与えるかも気になるところだ。
(文:佳香(かこ)/イラスト:たけだあや)
◆番組概要
Paravi オリジナルドラマ『東京、愛だの、恋だの』
動画配信サービス「Paravi」で第1 話~第5話配信中。
10月9日(土)12:00 第6話配信
10月16日(土)12:00 最終話配信
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