なんとお節介で優しすぎる「家族」たちだろう。なんと「でっかい愛」だろう。他人同士で身を寄せ合うように「家族」になった「にじや」の面々は、その住まいとなった「にじや」の2階を、本来住んでいた家族、つまりは銀治(石橋蓮司)の家族に明け渡した。
『#家族募集します』(TBS系)の最終回は、ひと夏の「家族」が、すれ違ってしまった何十年来の本当の家族の背中を押す回であり、「家」はなくなっても心は一つであることを誓い合った「にじや」の面々が、共に過ごした日々を通して学んだことを胸に抱きながら、それぞれの道を歩いていく姿が描かれた。
みどり(山本美月)の遺志を継いで完成した俊平(重岡大毅)の飛び出す絵本の主人公「海に囲まれた丘にポツンと立つ古い家」は、まるであの第7話において、黒崎(橋本じゅん)と子供たちが作った砂の城のようで、「写真」と同じように、永遠ではなかった彼らの幸せな時間を閉じ込め、反芻するためにそこにある。めいく(岸井ゆきの)の言う「思い出し甘みであと5年はいける」のは、メロンだけでなく、この3カ月私たち視聴者が見守ってきた、彼らの「にじや」で過ごした日々そのままだった。
最終回は、初回の反復でもあった。キャベツを切りながら涙していた蒼介(仲野太賀)を心配した俊平は「攻守交代」だと言いながら、かつて自分の悩みを聞いてくれた蒼介に対して、彼の抱えている悩みを聞こうとする。銀治と長いこと仲違いしていた息子・達也(宇野祥平)は、屋上で、かつて自分が使っていたグローブを見つけ、「これ、まだとってあるんだな」と呟く。屋上で再びキャッチボールする蒼介と俊平、それを見ている礼(木村文乃)、初回にはいなかっためいくは、それぞれに「ありがとう」と笑いながら、今度は悲しみではなく、喜びの涙を流す。
「家族ってさ、たくさんのありがとうに囲まれているんだな」「見たか、俺はありがとうに囲まれている」と蒼介は、会うことのできない本当の家族に向かって叫ぶ。俊平もまた、もうここにはいないみどりに向かって「次のページをめくること」、新たな日々が始まることを報告する。ここにいる家族と、ここにいない家族の、確かにあった/今もある/これからも変わらないだろう愛と、それに対する「ありがとう」が、画面いっぱいにこだまする。
このドラマの「家族」の物語は、「#家族募集します」で集まった「みんなんち」メンバーという「今」の家族だけでなく、亡くなったみどり含め、離れ離れになってしまった全ての家族の愛の物語でもある。
描かれたその後の彼らの物語も素晴らしかった。人は変わることができるのだ。たとえ同じ「家」で生活することがなくなったとしても、彼らの幸せだった日々が消えてなくなるわけではない。そこで培ったことは、彼らの心にしっかりと根付いている。あんなに頑なだった礼は、「なりゆきに任せる」ことができるようになって、中里(金子大地)と共に、子供たちと向き合っている。
平原綾香によるめいくの歌「君の声が聞こえる」のカバーにも驚かされたが、めいくが見事プロの歌手となり、「にじや」のラジオからめいくの歌が流れるというサプライズも嬉しかった。蒼介は再びカメラを構え、「にじや」の壁には新たな家族写真が並んでいる。そんな彼らの「その後」を、俊平がみどりと共に作った絵本の「家」の物語が包み込む。それぞれがまるで「家」自身であるかのような、彼らにぴったりのパートごとの朗読にもまた味があった。「私たちには帰る場所がある。だから、新しい1歩が踏み出せる」のであって「同じ虹の下、離れていても僕らは家族」なのだ。彼らの新しいページはめくられたばかり。新しい物語は、始まったばかりだ。
◆配信情報
『#家族募集します』
動画配信サービス「Paravi」で全話配信中。
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