動画配信サービス「Paravi」の完全オリジナル作品『東京、愛だの、恋だの』第3話は主人公・かえ(松本まりか)のジム仲間で化粧品会社勤務の39歳・本宮冬子(MEGUMI)が見せてくれる"バリキャリ女性"の悲哀がテーマだ。

ヒールで麻布十番を闊歩するいかにも"デキる女"な冬子がいかにして今のポジションを手に入れ何を犠牲にしてきたのかが描かれる。職場では感情的にならないように常に細心の注意を払い、「だから女は」という批判を寄せ付けないように鎧を纏い闘っている。仕事で成果を出せば出すほど、自分の給料が上がれば上がるほど恋人たちは勝手に傷付き、女性誌に書いてあった「仕事で疲れた彼を癒すためにいつも笑顔でいましょう」を実践すれば、馬鹿にしているのか、上から目線だと非難され、そこで冬子がはたと思い当たる「じゃあ私は? 仕事で疲れた私に向けられた笑顔ってあったけ?」があまりに切なくやるせない。

「仕事を頑張ることが相手を傷つけるなら、私は仕事ではなく恋人の方を要らないと思った」「ありのままの自分が愛されるなんて、あんなの幻想。でも仕事は裏切らなかった」と、どのようにして"バリキャリ女子"、別名"チャック女子"が出来上がったのか、その裏にある彼女の苦悩が明かされた。"チャック女子"とはチャックを開ければ中身はおじさんの意だが、本作では冬子本人をMEGUMIが、中身のおじさんを田中要次が演じ、2人が向き合って対話する様は冬子自身の心情のせめぎ合いを視覚的に見せてくれており、今までありそうでなかった試みで面白い。

仕事で傷つき疲れた冬子の前に屈託のない"笑顔"を向けてくれる存在が現れたことで物語が転がりだす。異動してきて冬子の下で働くことになった15歳下の佐伯陸(小関裕太)だ。化粧品や最新の美容情報も貪欲に収集し、男性高級化粧品を作る夢を持ち、素直に冬子にアドバイスを乞う。職業人としての冬子の姿勢や、これまでの頑張りを純粋にリスペクトし尊重しながらも、冬子を"バリキャリ"なんて言葉で括ってしまわずに、彼女の苦労や傷にも寄り添う。

彼女をスーパーマン扱いして崇めたり、"君なら大丈夫"だと無責任な一言で片付けたり、あるいは変に敬遠するのではなく、きちんと生身の人間として彼女の弱音の吐きどころになろうとしてくれる。佐伯には変なプライドの高さもなければ、"一緒に懸命に働く女性"と"恋愛対象としての女性"を元々フォルダ分けしてしまうようなカテゴリー癖もない。彼女のこれまでを"すごいね"なんていう簡単な一言で賞賛することも決してしない。とてもフラットな目線を持った若き男性だ。そりゃあ、冬子が彼を異性として意識するのに時間はかからないだろう。小関自身のキラキラした目やマイルドな雰囲気で相手との間に壁を作ってしまわない人懐っこさが正に今回の役どころと見事にマッチしている。

佐伯の言動に舞い上がりそうになる冬子を、彼女の中のおじさんが監視しストップをかけるのもまた切ない。職場で自身を守るために身につけてきた護身術や経験値が、プライベートで、こと恋愛面では何にも作用しないどころか足を引っ張ることもある。反対に、佐伯の経験値のなさから来る先入観や偏見のなさが、冬子の新商品の容器の代替メーカーを探す際にも大いに役立ち彼女を助ける訳だが、最後には彼女の望んだ展開通りにはならないところも含めてリアリティーがあり哀愁たっぷりな余韻が漂っていた。

ただ、彼の無邪気さや打算のなさが、彼女の「結局誰のことも愛してこなかった罪の罰を受けるんじゃないか」という不安を打ち砕き、呪縛を解き放ったのは間違いない。「私もまだ人を好きになれることが嬉しかった」という冬子の顔は晴れ晴れとしていて、とても可愛らしかった。

(文:佳香(かこ)/イラスト:たけだあや)

◆番組概要
Paravi オリジナルドラマ『東京、愛だの、恋だの』
動画配信サービス「Paravi」で第1 話~第3話配信中。
9月25日(土)12:00 第4話配信
10月2日(土)12:00 第5話配信
10月9日(土)12:00 第6話配信
10月16日(土)12:00 最終話配信