罪を葬ることなどできない。犯してしまった過ちに蓋をしたまま、なかったことになどできないのだ。柿野正隆(北山宏光・Kis-My-Ft2)と妻・雪映(中村ゆり)が自分たちの過ちを必要に駆られて掘り起こす。自宅の庭に埋めた萌(萩原みのり)の遺体が腐敗臭を放ち、周囲が異臭に気づき始めた。急遽出来るだけ遠く、森の中に遺体を埋め直すこととなった"殺人共同生活96日目"の様子が描かれた『ただ離婚してないだけ』(テレビ東京ほか)第9話。
萌の遺体を掘り起こす途中、ふと空を見上げた正隆の目に飛び込んできたのはくっきりとした満月だ。暗闇の中どんなに隠そうとしてもその罪を逃すまいと差し込む月光のようにも思えるし、かの有名な文豪が"I LOVE YOU"を日本語訳する際に用いたのも月の美しさだったことをなぜかここで思い出してしまった。
この月夜が想起させる"愛"は、これっぽっちの愛情どころか関心も寄せてはくれなかった正隆に、自分は精一杯の愛情を差し出してきた萌からの?それとも、正隆のことをずっと静かに見守り、今また新たな罪に手を染めようとしている雪映からの?そのどちらもに真っ向から向き合ってこなかった正隆の目は、うっすら涙ぐんでいるように見えた。
死臭に耐え切れなくなり顔を背ける正隆に「行くよ」と声を掛け、担架に死体を乗せるのを促す雪映。雪映は「これからは何をするにも2人一緒が良い」と話していたが、いずれにせよ、この満月に"浄化"という意味はなさそうだ。
これとリンクして描かれたのが、森の中、死体の遺棄現場で正隆は何かの気配を感じ差し込む朧げな朝陽が差し込む中、萌の美しい残像を見る。改めて萌が見返りもなしに自分に一心に心を寄せてくれていたこと、そしてその好意に自分は真正面から応えることもなかった上、罪を犯してからも尚逃げ惑っていることに対して心底償うような表情を見せた。
罪の意識から逃れたいだとか、保身のためではなく、また何かのせいにするでもなく、本当の意味で初めて自分が全て間違っていたのだと心の底から思い知らされた瞬間だったように思える。そんな正隆を現実に引き戻したのもまた雪映の「行くよ」の一言だった。
「行くよ」なんて言ったって、その道はどこに繋がっているのだろうか。今のところ、本当の意味での「生き直し」の道はなかなか見えず、どう転んでも「破滅」の二文字がちらついている。その罪はどれだけシャワーを浴びたところで洗い流せるものでは到底ないし、いくら萌の死体と物理的距離をとったところで、この既成事実に侵食された心も体も生活もどうしたって元通りになどならず、彼女の死臭は彼らにこびりついて一生離れることはないだろう。
今話で、不気味さを助長させた存在として監禁されている佐野(深水元基)の異様な執着心も挙げておきたい。彼の素行はもちろん元々褒められたものではなかったが、それにしてもあまりの仕打ちに同情してしまう部分もあった。ただ、あの監禁生活下においても、いや、だからこそなのか、あの極限状態で笑える佐野はやはり狂っている。
柿野夫婦が萌の死体を掘り起こす様子を2階の窓から見ながら興奮気味に証拠写真を収めていたがガムテープで塞がれて口元が見えないため、最初は泣きながら恐怖に怯えながら"自分の身に何か起きた時にその原因を証明してくれるもの"として撮影しているのかと思いきや、彼は確かに笑っていた。柿野夫婦の殺人が確定したところで、通常であれば殺人犯に監禁されている自身を案じ"明日は我が身"だと怯えそうなものだが、監禁されてからそれなりの時間が経過している中にあっても、彼の不屈の精神には驚かされる。
いくら一度正隆が彼にトドメを刺し損ねた過去があったとしても、当然ながら自身の命の保証はない。予告編によると、そのデータを持ってしていまだ何かを企んでいるようだが、柿野夫婦はもちろん佐野の運命やいかに。
(文:佳香(かこ)/イラスト:まつもとりえこ)
【第10話(9月15日[水]放送)あらすじ】
正隆(北山宏光)と雪映(中村ゆり)の元に刑事の池崎(甲本雅裕)と萌(萩原みのり)の弟・創甫(北川拓実)がやってくる。2人は萌と佐野(深水元基)の失踪について問い詰めるが、雪映は冷静なまま、不倫相手だった萌を心配したフリをする。池崎は2人が殺されている可能性を指摘し、家中の部屋を見せるよう要求するが...?一方、正隆の仕事部屋に監禁されている佐野は結束バンドを切り、逃げ出す機会をうかがっていた...。
◆番組情報
『ただ離婚してないだけ』
毎週水曜深夜0:00からテレビ東京ほかで放送中。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
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