いよいよ最後の演技バトルとなった『私が女優になる日_』(TBS系/毎週土曜深夜0:58~放送)。最終バトルはその場で対戦結果は明かされず、9月11日(土)にオンエアされる新ドラマキャストセレモニーにあわせて順位と共に発表されることとなりました。
ということで、せっかくのですで、最後は全バトルを振り返りながら、僕ならどちらに投票するかを書いてみたいと思います!
第1戦:高橋七海VS岡田里穗
今回の脚本は、総合プロデューサーである秋元康によるオリジナルストーリー。10人がそれぞれ松本涙という女子高生に臨み、鈴鹿央士扮する祖父江くんとの淡い恋模様を演じます。
第1戦は、高橋七海VS岡田里穗。どちらも正統派の美少女タイプ。これが実際のオーディションでも同じ役を争いやすいタイプであり、ランキングも6位と7位と伯仲しています。
が、その演技の内容は非常に明快な違いがありました。最後まで内に秘めたような演技だった高橋と、会話のキャッチボールを重ねながら多彩なニュアンスを見せた岡田。個人的には、岡田に軍配をあげます。
「O型だっけ? 祖父江くん」という突然の話題転換もナチュラルにこなし、「自分のことカッコいいと思っているでしょ?」というちょっと間違えると嫌味になる質問もコミカルに演じることで、松本涙と祖父江くんの普段の関係性が説明せずとも浮かんできました。
その上で、努めてミーハーな「祖父江くん、カッコいいって」と、緊張感溢れる「私、好きだもん、祖父江くんのこと」のギャップ、最後に振り返ったときの真剣な目と、短いお話の中でいくつもの表情を見せてくれました。恋する女の子を演じると抜群に光る岡田里穗らしい演技だったと思います。
第2戦:赤穂華VS高倉萌香
こちらも3位の赤穂華と、5位の高倉萌香という、結果次第では順位がひっくり返る立場の2人がぶつかり合うこととなりました。
この対戦のポイントは、ラストの「あと5秒でキスしそうだった」でしょう! 非常に胸キュンラブストーリーらしい台詞。そこをどう演じるかでぐっと印象が変わります。あえてふざけた会話の延長線上に徹した赤穂も良かったのですが、よりドラマティックに響いたのは、高倉でした。
そのトリガーとなる「それ、告ってる?」からの緊張感を「今、ヤバかったよ~」でしっかり緩和させたあと、「あと5秒でキスしそうだった」でぎゅっとまた締め直す。しかもシリアス一本でいくというより、「キスしそう」の瞬間に若干笑うようなニュアンスを込めたことで、より複雑な感情を織り交ぜることができていた気がします。そして大事なのは、台詞をどう言うかより、その台詞を言ったあとの表情の変化。そこも高倉の方がより恋する女の子の照れが見えました。
違いを述べるとしたら、赤穂の演じた松本涙はまだ恋を知らない女の子、高倉の演じた松本涙はいい意味でちゃんと駆け引きをわかっている女の子でした。どちらの解釈がふさわしいかは人によって様々でしょうが、恋する女の子特有のちょっと相手を振り回す感じもキュートに見せた高倉萌香に一票を投じたいです。
第3戦:渋谷風花VS出口真帆
第3戦は、現在10位の渋谷風花と8位の出口真帆。この演技バトルの見どころは、祖父江くんから「これから松本のこと、涙って呼んでいい?」と聞かれて、「え?」と聞き返すシーンです。この短い一言と、そのあとに「涙」と呼ばれ、「祖父江」と返すときのドキドキ感をどう見る人に伝えられるか。より僕の胸に響いたのは、渋谷でした。
渋谷の「え?」には不意打ち感がよく出ていましたし、そのあとの「祖父江」も真面目に答えようとしてズレている愛らしさが感じられました。そこを祖父江くんからツッコまれて、「なんか、恥ずかしくなっちゃって」で素に戻ったところも微笑ましかったんですよね。何気ない会話が多かった分、最終的には本人の持っている素の魅力が問われる戦いになった気がします。
それはそれとして、この対戦でいちばんグッと来たのが、一瞬だけ映った舞台裏の場面。演じ終えた渋谷がセットの裏に戻ってきて、出番の控える出口と手を重ねるのです。女優デビューを争うライバルであると同時に、同じ夢を追う仲間でもある。そんな連帯感と、2人の性格の良さが感じられて、もっともっと応援したくなりました。
第4戦:武山瑠香VS肱岡加那美
次なる対戦カードは、2位の武山瑠香と8位の肱岡加那美。最終戦は、これまで比較的順位の近いメンバー同士で展開してきましたが、ここに来て初めてやや順位の離れたメンバーが雌雄を決することとなりました。
これはちょっと悩む戦いでした。確かにはっとさせられた場面があったのは、武山の方です。見知らぬ人に付き合うとは何かを尋ねる場面は、その突拍子もない感じに武山の強みであるコミカルさがよく出ていて、松本涙の性格をより強調づけることができていました。
これがコメディなら迷うことなく武山に票を入れます。ただ一方で、これはあくまでラブストーリー。恋するときめきやもどかしさを伝えるものであるという前提を大切にするのなら、よりそれが伝わってきたのは肱岡の方でした。
親友も、祖父江くんが好き。板挟みになる苦しさや、嘘は言いたくないけれど、友達を傷つけたくはないという葛藤。そうした繊細な心の揺れが肱岡の台詞や間にはこもっていました。ラストの「特別な人だもん」の眼差しにもドキッとさせられましたね。
丁寧に演じすぎた分、逆に言うと、武山が印象的に演じた見知らぬ人に付き合うはどういうことかを聞くくだりは、完全に肱岡は浮いてしまっていて、そこがマイナスポイントになったのも確かです。
ただ、あくまでこれはラブストーリーであることを大切にするということで、この勝負は肱岡加那美を勝者としたいです。
第5戦:飯沼愛VS三浦涼菜
運命を決めるラストバトルは、1位の飯沼愛と4位の三浦涼菜。常に1位をキープしてきた常勝・飯沼に対し、序盤のバトルを3回欠場するという逆境を跳ね返し、勢いに乗る三浦が挑むという、最も面白いカードとなりました。
が、この勝敗は、この5戦の中で個人的に最も明確でした。胸を打たれたのは、飯沼です。その演技の見せ場は、倒れた父と電話をする場面。こうした電話のシーンで大切なことは、台詞と表情にどう違いをつけるかです。対面の芝居とは違い、相手に顔が見えないのが電話の肝。言葉では強がっているけれど、本当は傷ついている。そうした心の動きをわかりやすく見せられるのが電話のシーンであり、だからこれまでも多くの作品で電話はドラマを担う重要な場面に位置付けられてきたのです。
飯沼の演じた松本涙は、たぶん家でもすごくしっかり者なんだと思います。きっと人に気安く弱いところを見せられるタイプじゃない。そう感じられたのは、電話をしているときの飯沼の目です。口では父親に対してちょっと注意をするような強いことを言ってるんだけど、その黒目がまったく動かず、でもどこを見ているわけでもない虚ろな色を浮かべていました。
その表情をそばで見ているのは、祖父江くんだけ。だから、祖父江くんは電話が終わったあと、思わず涙を抱きしめたくなる。松本涙の気持ちを表現するだけでなく、祖父江くんの心も動かす素晴らしい芝居になっていました。
三浦ももちろん良かったとは思うのですが、これまで追う者の強さというか、無欲でやってきた三浦が最後の最後でやや緊張に飲まれたような印象が否めませんでした。ある意味、ずっとプレッシャーと戦ってきた飯沼の心の強さと確かな演技力を改めて思い知らされたような一戦だったと思います。
すべての結果は9月11日に・・・!
泣いても笑っても、あとは結果を待つばかり。勝敗がついてしまうのは残酷なことですが、バトルである以上、それは仕方のないこと。でもその前にまずは一生懸命走り抜いた10人の女の子たちに「お疲れ様でした」と「ありがとう」の言葉を伝えたいです。
夢が叶う人もいれば、破れる人もいる。だけど、本気でやり遂げた経験は、間違いなくこれからの人生の財産となる。できるなら、10人全員にメダルをかけてあげたい。そんな戦いになりました。
残るは審査結果の発表です。改めて確認ですが、1位はこの秋からオンエアされるドラマ『この初恋はフィクションです』(TBS系)のヒロインに決定。2位・3位と、4位以下の中から1名も特別枠で出演します。
『この初恋はフィクションです』の脚本は、『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)や『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)を手がけた徳尾浩司。出演者には、坂東龍汰、窪塚愛流、矢田亜希子、坂井真紀が発表されています。
誰がドラマ初出演にして初主演を射止めるのか・・・!? 9月11日の放送を心して待ちたいと思います!
(文・横川良明)
◆番組情報
TBSスター育成プロジェクト『私が女優になる日_』
毎週土曜日深夜0:58からTBSで放送。
動画配信サービス「Paravi」で初回放送分から見逃し配信中。
(C)TBS
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