主人公の柿野正隆(北山宏光・Kis-My-Ft2)と妻・雪映(中村ゆり)、そして佐野(深水元基)の奇妙すぎる共同生活が幕を明けてしまった『ただ離婚してないだけ』(テレビ東京ほか)第8話。
前話、佐野に熱湯をかけて顔を踏みつける狂気的な雪映の様子が描かれたが、雪映が本格的にどこか壊れてしまったようだ。
これこそもしかすると意図していなかった雪映から正隆への最大の復讐かもしれない。実家の柿野製薬の義父より後継ぎ候補を外されてからどんどん自暴自棄になっていった正隆を何も言わずただ近くで見守ってきた雪映が、今度は静かにただ確実に狂っていく。自分の近しい人のこれまで見たこともなかった一面を目の当たりにし、ただ見守るしかない者の苦しみに正隆もようやく気づいただろうか。
しかも、雪映が狂ってしまったのは自分のこれまでの行いが招いた結果、正隆の責任によるところが大きい。「だってここまで来てもう後戻りできないじゃない。子どもが生まれるのよ」と迫る雪映には、もはや"どうしてこうなってしまったのだろう"という後悔や迷いは振り払われており、残ったのは強烈な"自分たち家族の再生"への使命感と"家族の安全"を守るためには手段を厭わない縄張り意識のようなものだ。
正隆だってわかっているはずだ。かつては雪映という揺るがぬ"正義"があり、自分の帰る場所を常に守ってくれる存在がいたから、その基盤が盤石だったからこそある意味めいっぱい自分のことも周囲のことも傷つける破壊行為が出来たところもあるのではないだろうか。
そんな正隆にとってのある意味"道標"的な存在でもあった雪映が、監禁状態の佐野に対して人間とは思えぬ扱いで躾するような姿にはもはや戦慄を覚えるし、一方で我が子の胎動に感動する姿は同一人物とは思えない。正隆が本当の意味で罪を悔いたのは、他でもないこの雪映の豹変ぶりを目の当たりにした時ではないだろうか。もちろん本来の雪映の姿は後者で、後者の雪映を出来るだけ長く見ていたいからこそ、前者の雪映に本来の彼女が支配されてしまわぬように、正隆も「元気な子を産んで欲しいから」と言い、家族を守ることに誤った方法で加担していくのだろう。
正隆が最後の最後にとどめを刺すことが出来ず、オムツ姿で鎖に繋がれ口元もテープで塞がれてただそこに存在するだけ、ただ生きているだけの飼い殺しの佐野の醜態は、もはや罪と向き合う機会も失い、場当たり的な行動の結果招いた地獄のように続く日常に正気を失い日々をなんとか生きているだけの正隆の姿に重ならなくもない。
「俺たちは立ち向かうこともできず月日を過ごしていった。ずっと蓋をしたままに・・・俺たちの日常はおかしい。このまま麻痺していって雪映はどうなってしまうのだろう?」という正隆のアフレコの無気力さが切ないが、そもそも正隆自身が変わりゆく雪映に立ち向かえていないように感じる。
一方で柿野夫婦の周囲が動き出し騒がしい。不倫相手・萌(萩原みのり)の弟・創甫(北川拓実)は刑事と一緒に行方不明の姉を探し始めるし、雪映の妹からの追求も始まった。佐野のバックにいた仁科(杉本哲太)と彼に取り入るほのか(大原優乃)が柿野夫婦に辿り着くのも時間の問題だろう。もう隠し通すことも難しい柿野夫婦はまた罪を重ねていくのか、それでも隠し通そうとするのか。第4話の恐ろしき血の海が序章だったなんて、彼らは一体どこまで堕ちていってしまうのだろうか。
(文:佳香(かこ)/イラスト:まつもとりえこ)
【第9話(9月8日[水]放送)あらすじ】
正隆(北山宏光)と雪映(中村ゆり)の元にやって来た雪映の妹・菜穂(西川可奈子)。不審な物音に気付き、佐野(深水元基)を監禁している部屋に入ろうとするが、その時見た光景とは・・・!?
また「近所で異臭騒ぎになっている」と、市役所の男が訪ねて来る。庭に埋めてある萌(萩原みのり)の死体が原因だった。
焦った2人は萌の死体を別の場所に移すことにするが・・・!?
一方、萌の弟・創甫(北川拓実)は刑事の池崎(甲本雅裕)と共に萌の行方を追っていた。
◆番組情報
『ただ離婚してないだけ』
毎週水曜深夜0:00からテレビ東京ほかで放送中。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
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