いろんな人の心からの声"戻って来い"が飛び交った日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)第9話。

救命医療のプロフェッショナル集団MER(Mobile Emergency Room)が駆けつけたのは二酸化炭素中毒事故が発生した外国大使館。大使館の敷地内には大使からの許可がないと入れず、もし万一勝手に入れば国際問題にまで発展してしまうというまたしても政治が絡む局面に遭遇する。

本作がこれまで様々な角度から描いてきたことではあるが、目の前の命を救うのに法律や所定の手続き、政治など幾重にも杓子定規なハードルが立ちはだかるのだ。

赤塚都知事(石田ゆり子)は心臓移植のドナー待ちの状態で、このままではもって3ヶ月であることも明かされたが、彼女はこのTOKYO MER発足から正式承認までを自身の命がけの最後の仕事と考えているのだろうか。大使の立ち入り許可が取れない中、病室から自身の責任のもと、いつもと同様救助に当たるように指示を出す。

二酸化炭素が充満する地下駐車場内に閉じ込められながら、チーフドクターの喜多見(鈴木亮平)とレスキュー隊の千住(要潤)で患者の緊急処置にあたる。駒場室長(橋本さとし)が言う通り、自分のことよりも救助者の命を何より優先し最後まで決して諦めることのない"似た者同士の2人"だ。二酸化炭素濃度が上昇し意識も遠のく中、2人のいつも以上に切迫した演技が見られ、画面越しにも息苦しくなり酸素が薄くなる感覚を覚えた視聴者も少なくなかったはずだ。喜多見役の鈴木の足元もおぼつかず、目の焦点が定まらない様子は全く大袈裟ではなくあまりにリアルで圧巻だった。

前話で医系技官の音羽(賀来賢人)の必死の心肺蘇生によって九死に一生を得た喜多見が、今度は千住に呼びかける。「千住さん戻って下さい。あなたこんなとこでくたばるタマじゃないでしょ。帰って下さい。あなたがいなくなると俺たちは困るんですよ!」と。

また、駒場室長も病床の赤塚都知事に「あなたがいない間、私がMERを守ります。ですから必ず戻って来て下さい」と、強い覚悟と共に訴えた。

白金厚労大臣(渡辺真起子)の「目の前の命よりもっと大勢の人の利益を守らなければならない」というまるで自身にも言い聞かせるかのような発言があまりに恐ろしい。数の原理の前に、そもそも"命"と"利益"が比べられるなんてこと自体、決してあってはならないことだ。人の命を前に「国家間の問題」だの「国益」だのもっともらしい御託を並べ、どうして何事も簡単に二項対立のような構図を作り出してしまうのだろうか。主語が大きくなればなる程になぜこうも人は実態から離れていってしまうのだろうか。先日も某知事がSNSで発信していたが、"出来ない理由"ばかり並べるのではなくまずは"出来る方法"がないかどうか探すことから始めてみる、その姿勢こそが希望であり救いではないだろうか。

一方で、今話ではSNSで散見される自身の正義感を一方的に振りかざし何事も白黒はっきりさせ断罪しようとするネットの声の暴力、"手のひら返し"についても触れられた。
公安の月島(稲森いずみ)はこの様を「自分の命をかけて他の誰かを守ってきた人間が、ある日突然守ってきた人々から石を投げつけられる」と描写したが、少しの綻びも許さず常に他人に対して一貫性や聖人君主であることを当然の如く求める世界もまた大変窮屈で息苦しい。

次週、遂に最終章前編に突入となる。テロリストのエリオット・椿(城田優)が動き出すようだが、彼の目的は一体何なのか。予告編で流れた「死者1名」とは・・・?次話も固唾を飲んで見守りたい。

(文:佳香(かこ)/イラスト:たけだあや)

【第10話(9月5日[日]放送)あらすじ】

喜多見幸太(鈴木亮平)がテロ組織への関与を疑われ、出動禁止を命じられたMER。そんな中、ある大学で爆破事件が! 救助のため駆け付けた喜多見と音羽尚(賀来賢人)だったが、それは更なる爆破テロを仕掛けたエリオット・椿(城田優)の罠だった。爆弾を仕掛けた校舎内で重傷者のオペを行う2人だったが、SNSの噂を信じ込んだ学生達は喜多見をテロリストと疑い、とんでもない行動に・・・2人を襲う最大の危機。そしてついに、初めての死者が発生する・・・!?

◆放送情報
日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』
毎週日曜21:00からTBS系で放送。
地上波放送後には動画配信サービス「Paravi」で配信。
また、Paraviオリジナルストーリー「TOKYO MER~走らない緊急救命室~」が独占配信中!