主人公の柿野正隆(北山宏光・Kis-My-Ft2)と妻・雪映(中村ゆり)がさらなる罪を重ねていく『ただ離婚してないだけ』(テレビ東京ほか)第7話。

不倫相手・萌(萩原みのり)の命を奪ってしまった取り返しのつかない罪の重さと佐野(深水元基)に追われる恐怖から追い詰められた雪映が自殺を図る。一命を取りとめたものの彼女に生き直すきっかけを与えてくれたのは、他でもないお腹の赤ちゃんが無事だったことだ。「生き直すの。私、必ずこの子を生む。今度こそ」と正隆を真っ直ぐに見据えて言う雪映の目にもう迷いはなかった。子どもの笑い声に溢れ、あったかい光に包まれたリビングルームで見られる家族団欒のイメージ映像は、ついこの間血の海に染まった場所と同じだとは思えない。

一方で、息絶えたのが柿野製薬会長である義父だ。危篤状態にある中で、どうしても正隆に話しておきたいことがあるとうわごとを言っているのだと会長秘書と、さらには弟の利治(武田航平)より連絡が入る。だが、正隆はここでも"もうこれ以上傷つきたくはない"という思いが先立ち、義父との確執を解消する、つまりは正隆が自分自身のトラウマを乗り越える最後の機会まで逃してしまうのだった。正隆は電話を受けて苛立ちをあらわにしていたが、時が止まったように家族の問題から逃げ続けいまだに消化し切れていない自分の不甲斐なさにこそ苛立っていたように思える。

利治から、義父は決して正隆を捨てた訳ではないこと、さらに正隆が会社を去った後の弟の苦悩、自分への羨望や焦り、自信のなさを初めて知る。正隆が柿野製薬の子会社をまとめてやってきたことは間違えていなかったし、そこでしっかり正隆は存在していたし生きていた。決して独りよがりでもなく、正隆を慕い信頼していた役員たちが確かにいたのだ。

自分は家族の中で蚊帳の外の存在で、それに対していつだって中心にいて大切にされているかに思えた弟だが、彼もまた正隆と自身を比較し一人苦しんでいたのだ。近くにいたのに、お互いに胸の内に抱えていたものに気付けなかったなんて。警察に連行される弟の背中に対してようやく「まだまだ聞きたいことがある。話をさせてくれ」と言葉が溢れ出す正隆の姿があまりに皮肉だった。

この思いもよらぬ事実に"何を恨んできたんだろう、俺は。自分の挫折ばかりにしがみついて腐って生きて、一体何だったんだろう、俺は"と正隆は打ちひしがれるが、彼の最大の弱点はその時にしっかりと傷つかないことだ。"痛い""傷ついた"と声を上げずに、最初からそんな傷などなかったかのように振る舞ってしまうところにあるだろう。だが、それはきっと彼が幼少期から"気付かない振り"をして何とか生き延びるために身につけた処世術に他ならないのがまた切ないところだ。

今話のラストには衝撃映像が待ち受けていた。遂に自宅を突き止め押しかけてきた佐野を恐る恐る縛りつける正隆に対して、雪映は何かが吹っ切れたように佐野に熱湯をかけ、顔を踏みにじった。自身の命ごと一度は手放しかけた赤ちゃんを守るため、子をもうけ改めて正隆とやり直す未来のために。目的が明確になった雪映の手段の選ばなさ、犠牲を厭わない姿、ある意味ピュアで真っ直ぐな思いゆえの豹変ぶりと狂気がどこまでも怖く悲しい。

おそらくここからどんどん感覚を麻痺させるしか生き抜く道のない柿野夫婦だが、これが雪映の思う"生き直す"ことなのだろうか。罪に罪を重ねて、嘘を上塗りして結びつきを深めていく彼らの夫婦関係、家族関係はあまりに取り返しのつかないところまで来てしまっている。

(文:佳香(かこ)/イラスト:まつもとりえこ)

【第8話(91[]放送)あらすじ】

家に押しかけて来た萌(萩原みのり)のバイト先のオーナー・佐野(深水元基)に、熱湯を浴びせた雪映(中村ゆり)。「もう後戻りできない」と言う雪映に、正隆(北山宏光)は「俺がトドメを刺す」と言うが・・・!?そして、凄まじく奇妙な共同生活が始まると同時に、二人はお腹の中の子供が育っていることを実感し、幸せを掴もうとしていた――。そんな中、雪映の妹・菜穂(西川可奈子)が娘・陽菜と一緒にやってくる。すると陽菜は家の異変を感じ・・・。

◆番組情報

『ただ離婚してないだけ』

毎週水曜深夜000からテレビ東京ほかで放送中。※91日(水)放送の第8話は深夜005から

地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信中。