主人公の柿野正隆(北山宏光・Kis-My-Ft2)と妻・雪映(中村ゆり)に待ち受ける不穏な将来を確信させる不協和音が鳴り響きまくった『ただ離婚してないだけ』(テレビ東京ほか)第6話。

不倫相手・萌(萩原みのり)のバイト先のガールズバーのオーナーで借金に追われている佐野(深水元基)が、柿野夫婦に辿り着き、不倫をネタにゆすりをかける。しかも恐ろしいことに、雪映の働く小学校にまであの風貌で押しかけてくるのだ。

義父から後継者候補を外され自暴自棄になる正隆を支えると覚悟し、これまで何をされても彼の側から離れることはしなかった雪映も、さすがに"夫婦間の問題"の域を超えて、どんどん周囲を傷つけ、迷惑をかけ巻き込んでしまう様子に、精神的に限界を迎えていく。

佐野に自宅を突き止められるかもしれない恐怖から、事件当時に血の海になったリビングの床掃除に何かに取り憑かれたかのように一心不乱になる姿は、いたたまれない。

どうにか自分を保つために"(お腹の子も)誰の子かなんてわからない、あの子はそんな女。いつかこんな目に遭うような女だった"と自己暗示をかけようにも、そもそも自己暗示をかけなければならない時点で真実はその正反対のところにあることに雪映は薄々気付いている。萌の弟・創甫(北川拓実)から姉弟の決して恵まれているとは言えない生い立ち、そして2人支え合って生きてきた様子、さらには「姉貴とやり直したい。今度は俺が姉貴を助けたい」という彼の夢を聞き、自分たちが彼らの「やり直せたかもしれない未来」を奪ってしまったことに絶望するのだ。自身は正隆との関係性修復のために子を宿し、どうにか「やり直そう」としてきたものの、それ自体許されることではなかったのだと思い詰めていく。

第4話で亡くなってからは正隆の幻覚の中か回想シーンでしか登場しなかった萌だったが、今回創甫との思い出の中での健気な彼女の姿に出会ってしまうと、改めてこの悲劇はどこまで時を巻き戻せば回避できたのかと思いを馳せずにはいられない。雪映も萌の傷に触れ、女性同士、かつ正隆という同じ男につけられた痛みだからこそ共鳴し合えてしまうものがあるのも辛いところだ。雪映の涙には心からの後悔と懺悔が滲んでいた。

正隆にとって、萌との件だけでなく、これまで散々目を背け続けてきた2つの関係性からこれ以上は逃げ切れないことを突きつけられた回でもあった。1つは雪映との関係。一時は改善には向かっていたものの、やはり肝心なことは言わない誤魔化しの関係の継続は難しい。そもそも彼は自身の口から萌との一件について説明しておらず、正直に話せば良いという内容でもないものの、今さら「落ち着いたら新婚旅行に行こう」なんて言われてもあまりに調子が良すぎるだろう。雪映は遂に自殺を図ってしまうが、これが雪映が出したケジメの付け方であり、正隆との関係性に改めて覚悟と決意を持ち直したようにも思える。

そしてもう1つが、実家の柿野製薬との関係だ。社長である弟の利治(武田航平)は新薬の認可を巡る贈賄疑惑の渦中にいるようだ。正隆を構成してきたこの大きな2つの要素が根幹からグラつき壊れそうになっているのを前に、彼はどう向き合い、乗り越えるのか。それとも最後まで向き合い切らず、乗り越えることもしないのか。もうこれ以上"手遅れ"にならないように、正隆にこそ覚悟と決意が求められている。

(文:佳香(かこ)/イラスト:まつもとりえこ)

【第7話(8月25日[水]放送)あらすじ】

雪映(中村ゆり)が自殺を図った。病院へ運びこまれ一命はとりとめたものの、翌日も意識の戻らない雪映を心配して正隆(北山宏光)は病院へ向かう。しかし、雪映の妹・菜穂(西川可奈子)から追い返される。頭の整理がつかない正隆の元に贈賄疑惑の渦中にいる弟の利治(武田航平)から連絡が来る。柿野製薬の会長で父の利通(団時朗)が危篤状態だという知らせだった...。そんな折、佐野(深水元基)が自宅に押しかけてきて...!?絶体絶命の大ピンチ!!

◆番組情報
『ただ離婚してないだけ』
毎週水曜深夜0:00からテレビ東京ほかで放送中。※次回の放送は8月25日(水)深夜0:05から
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信中。