「何もなかったの、この家で悪いことは何も。私たちが不安になるようなことは何も起きなかった」
主人公の柿野正隆(北山宏光・Kis-My-Ft2)と妻・雪映(中村ゆり)の転落劇が止まらない『ただ離婚してないだけ』(テレビ東京ほか)第5話。
不倫相手の萌(萩原みのり)を殺めてしまい、ようやくその罪を正面から受け止めるようになった正隆はこれまでの虚勢が嘘のように、自身の弱さや怯えを隠すことができなくなる。少し前までの"クズ男"っぷりはすっかり鳴りを潜め、もはや雪映に一心にすがろうとする子どものようだ。
今話では、雪映サイドの家族の事情も描かれた。妹から正隆と別れて第二の人生を歩むことを勧められるも、「私、妊娠した。だから私たちやっとやり直せるの」と自分自身に言い聞かせるように言い返す。それでも尚心配する妹が言った「何かあってからじゃ遅いんだよ!」が空虚に響き渡る。もう、時すでに遅しである。
これまでは自分の意志で正隆の側を離れなかった雪映だが、夫婦はとんでもない秘密を抱えある意味共犯者になってしまった今、彼女にはもう正隆の側にいる以外に選択肢がなくなってしまっている。皮肉なことに2人は今、いつになく誰よりも強い絆で結ばれた運命共同体として、見事なまでの歪な"共依存"関係を成立させてしまっている。
中村ゆりと言えば、本作に限らず使命感が強く自分一人で何かと抱えこみがちな"訳あり"な役どころが多い。何も出来ずに巻き込まれるか弱い女性ではなく、むしろひたむきで責任感の強さ、打たれ強さを併せ持つキャラクターゆえに、だからこそ不測の事態に巻き込まれてしまいがちだ。
『私たちはどうかしている』(日本テレビ系、以後『わたどう』)では主人公の亡き母親で和菓子職人役を演じ、あらぬ罪をかけられながら亡くなってしまう役どころだった。また、自身より実年齢で年下の男性と違和感なく同世代の夫婦や恋人役を演じられるのもそんなひたむきさが滲む彼女だからこそだろう。(『わたどう』での相手役の鈴木伸之とは実年齢は10歳以上離れている。)『パーフェクトワールド』(カンテレ・フジテレビ系)では、樹(松坂桃李)のヘルパーで彼に恋心を寄せる葵役を好演し、彼女の中にある"強さ"と"脆さ"の両面を見事同居させ表現していた。
本作での雪映の泣きのシーンでも実に様々なバリエーションを見せてくれており、ただ単に悲しくて手放しで泣くのではなく、雪映は涙を流しながらもいつだって自分の覚悟や決意をその間に固めていっている。自分を叱咤激励するために泣くのだ。
遂に萌のバイト先のガールズバーのオーナーで借金に追われている佐野(深水元基)とさらに萌の弟・創甫(北川拓実)が、彼女と正隆の関係に辿り着いてしまう。
次話の予告編では"「最悪」の殺人共同生活"との不吉なテロップが並び、「夫婦が背負う もうひとつの十字架」とさらなる罪を重ねていくことを予感させる。どうやらこれ以上の最悪な事態が彼らを待ち受けているようだ。そして、ある意味最も恐ろしいことに柿野家の良心を担っていた雪映の方が"生きるために"吹っ切れ狂気じみていく様子も描かれそうで、真の恐怖はまだこれから始まりそうだ。
(文:佳香(かこ)/イラスト:まつもとりえこ)
【第6話(8月18日[水]放送)あらすじ】
萌(萩原みのり)の残していたメモから、佐野(深水元基)に正体がバレてしまった正隆(北山宏光)。慰謝料として1000万円を要求される。佐野もまた、ヤクザの仁科(杉本哲太)への借金に追われているのだった。そんな佐野は、雪映(中村ゆり)の小学校にまで押しかけてくる。夫婦に最大のピンチが訪れるが...!?また、雪映は萌の弟・創甫(北川拓実)と接触する。萌が正隆の子供を堕胎していたという事実を知り...!?
◆番組情報
『ただ離婚してないだけ』
毎週水曜深夜0:00からテレビ東京ほかで放送中。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
- 1