TBS ドラマの主要キャストの出演権をかけ、約 9000 人のオーディションを勝ち抜いた10人の女優の卵が、様々な演技テストにチャレンジするTBSスター育成プロジェクト『私が女優になる日_』(TBS系/毎週土曜深夜0:58〜放送)。
毎回、ハラハラしながら見守っているのですが、ただのオーディション番組としての面白さだけじゃなくて、もうちょっと別の、なんと言うのでしょうか、DNA に染みついた何かが思わず反応しているような、そういうワクワクを感じていたのです。
そして、ここまで来てそのワクワクの正体がわかりました。そう、これはあの少女漫画の古典的名作『ガラスの仮面』を読んだときの興奮と同じなんだと。
『紅天女』の主役の座をめぐり、火花を散らす真の天才・北島マヤと、努力の天才・姫川亜弓。平凡な少女だったマヤがお芝居に出会い、眠れる才能を開花させていくあの感じ。そして、美貌と家柄に恵まれたサラブレッドの亜弓が、マヤという本物の才能と出会い、嫉妬心と敗北感に震えながらも、ひたむきに努力を重ねるあの感じ。
少女漫画のはずが、そのうち悟空とベジータを見ている感覚になるあの面白さが、『私が女優になる日_』にもあるのです!
中盤戦のカギを握るのは、いかに殻を破れるか
いよいよ中盤戦に突入した演技バトル。第5回戦のポイントは、審査員の根本宗子が脚本を務めること。10人の女優たちの演技を審査員席で見てきた根本だからできる役の振り当てと対戦の組み合わせがミソとなっている気がしました。
たとえば、距離が近すぎる母親への違和感を描いた「お母さんは友達じゃない」では、肱岡加那美と高倉萌香が対決。第5回戦開始時の獲得ポイントは4ポイント。順位も7位とあまりポイントを伸ばせていない肱岡。
演技は悪くはないと思うのです。が、言ってしまうと、やや丸くおさまりすぎ。なんとなくこう来るだろうなという予想の範囲から脱せていないため、いざ対決となったときに敢えて肱岡に票を投じるだけのインパクトが欠けているようなところがありました。
それは、今回も同様。対戦相手の高倉が終盤で変顔をしたり、のびのび演じているのに対し、肱岡はどうしても予定調和な印象に。単に「上手に演じられている」だけでは物足りない。いかに鮮やかなインパクトを残せるかという点が勝ち抜くためには大事なんだなと感じさせられます。
同じジレンマに足をとられている感があるのが、高橋七海。高橋も肱岡同様、一見すると真面目な優等生タイプ。演技も変なクセはなく、ソツなくできています。ただし、ポイントは伸び悩み、順位も肱岡と同じ7位。
今回は岡田里穗と対戦し、挽回を期しますが、高橋1ポイント、岡田2ポイントで敗北という結果に。高橋の演技の方向性が間違っているとは思いません。ただ、間近で芸能人を目撃した驚きや興奮を岡田が勢いたっぷりに演じているのに対し、高橋はやや縮こまっているような印象。それゆえコミカルさに欠け、実は芸能人じゃなかったというオチとの落差があまり効いてきませんでした。
ある程度、全員が演じることに慣れはじめてきたからこそ、差を分けてくるのは、どれだけ殻を破れるか。肱岡と高橋は、その壁の前で立ち止まっているように見受けられます。
飯沼愛は、姫川亜弓だと思う
一方、他の誰よりも力があるからこそ、別の苦しみにぶち当たっている者も。それが、現在1位の飯沼愛です。これまで負け知らずでポイントを重ね、やや独走状態の飯沼。実際、持ち前の華やかさと的確な演技、咄嗟の対応力含め、ひとり馬力の違う印象さえあります。
しかし、今回、赤穂華と対決し、赤穂2ポイント、飯沼1ポイントで初めて敗北。さらに2位だった武山瑠香が渋谷風花を完全勝利でくだし、3ポイント獲得したことで、同点1位に並びました。
言ってしまうと、この『私が女優になる日_』の姫川亜弓は飯沼愛。前回の演技バトル終了後、飯沼は「1回目の演技バトルから成長したって言える部分がなくて」と不安を漏らしていました。はじめから完成度が高い分、伸びしろが他の人と比べて少ないのではないか。どこか平均的なお芝居で終わってしまっているのではないか。そんな揺らぎが、今回迷走となって裏目に出た。力のある人間が、挫折を知る。その瞬間を目撃しているような苦さが残りました。それを面白いと言うのも悪趣味な話ですが、しかしその葛藤に、マヤに出会って焦りを覚える姫川亜弓的なものを感じずにはいられないのです。
北島マヤになり得るのは、誰か?
では、この『私が女優になる日_』における北島マヤは誰か。ひとりは、渋谷風花でしょう。今回の「母、万引きをする」は、母親が万引きをしたという非常事態を題材にした、舞台を主戦場とする根本らしい「ズレ」が笑いになる台本。これをモノにするには、馬力と技術の両方が必要です。そのどちらもが、渋谷には欠けていた。結果、1ポイントも入らず、周りのライバルとさらに差をつけられる結果に。
ここだけ見ると、北島マヤとはまったくかけ離れた存在なのですが、そんな状況にも「(ポイントが)0だったときにいつもはちょっと『わーっ』てなっちゃうんですけど、今日はいつもより『あっ』みたいな感じになってました」と不思議コメント。演技の才能とは別に、人の注目を惹きつける才能に北島マヤ的なものを感じるのです。
そしてもうひとり北島マヤの片鱗を覗かせたのが、三浦涼菜でした。新型コロナウイルス 濃厚接触者と認定されたため、これまで演技バトルを3回欠場。絶対的に不利な状況にいた三浦ですが、この第5回戦で覚醒の瞬間を迎えました。
これまでずっと同じ道を歩んできた幼なじみとの微妙なすれ違いを描いた「わたしをモチベーションにしないで欲しい」。三浦が演じたのは、親友のさっちゃんに依存気味の高校生・えっちゃん。さっちゃんから「子どものときからずっとそう。私、別におそろいのもの買われるのとか全然うれしくないし、真似されるのもいやだよ。まして一生懸命決めて選んだ将来の道まで真似されるの気分悪いよ」とはっきり拒絶されたえっちゃん。三浦はそこで「ごめん。さっちゃんの言う通りだね」と謝りながら涙をこぼしたのです。
別に泣けたら演技がうまいとは思いません。ただ、その感情の発露があまりに瑞々しくて。気持ちをつくって泣いているというよりも、役として自然に反応した結果が涙となった。そんなリアリティのある演技に思わず目を見張りました。
さらに、台本に書かれていた台詞を「さっちゃんが求めてる言葉が全然言えない」と自分の判断で変更。これも決められた台詞を自分のやりたいように変えることは役者として褒められたことではありませんが、自分はこうしたいという意志の強さと台本の読解力があることは間違いありません。そんな俳優としての豊かな感性と鋭い勘を、三浦の演技に感じました。
結果、2ポイント獲得で一気に躍進。もしかしたらこの演技バトルの台風の目となるのは三浦ではないかという存在感を示したのです。
視聴者全員が、紫のバラの人です
そして、そんな三浦に触発されるように、持てる力を出し切ったのが飯沼です。今回、根本の要望により、演技バトルの参加者のひとりでありながら、相手役を務めることとなった飯沼。他の人よりも多くの台詞を覚え、演技プランを考えなければいけないディスアドバンテージを抱えながらも、自立心の強い聡明なさっちゃんを見事に演じ切りました。
正直、今までのどの課題よりもこのさっちゃんが最も飯沼にハマっていた役どころだったのではと思うぐらいの力強い演技で、「面白みがないというか、自分の強みとか個性とかがない」という悩みをここで吹っ切ったようにすら感じました。そして、そのきっかけを与えたのが、三浦の持っている未知数の可能性だったのではないかと。そんな構図はまさに北島マヤVS姫川亜弓です。
優等生の殻を破りつつある飯沼。まだまだ苦戦気味の肱岡や高橋にも同じように殻を破る瞬間は訪れるのか。そして、気になる上位争いの行方は...? 紫のバラの人になったつもりで引き続き見守っていきたいと思います!
(文・横川良明)
◆番組情報
TBSスター育成プロジェクト『私が女優になる日_』
毎週土曜日深夜0:58からTBSで放送。
動画配信サービス「Paravi」で初回放送分から見逃し配信中。
(C)TBS
- 1