ラジオパーソナリティーでコラムニスト、ジェーン・スーのエッセイを原作に据え、吉田羊×國村隼のW主演で家族の愛憎物語を描いた『生きるとか死ぬとか父親とか』(テレビ東京)の第9回が、6月4日(金)に放送された。
今回は、第1、2話に続いて山戸結希監督により、原作のまだ描かれなかった記憶が「過去篇」として展開された。
トキコ(吉田羊)は父・哲也(國村隼)と共に母(富田靖子)の墓参りに行く。今回は弁当持参で、おにぎりは哲也が、味噌汁と卵焼きなどはトキコが担当することに。ピクニックじゃあるまいし、墓参りに弁当持参とは不思議にも思えるが、これは第一話で哲也が「いつもサッと来てすぐに帰るのは良くないよなあ」「ママが寂しがってる」と思いついたところから導き出された、二人の墓参りのスタイルだった。
隣のカワモトさんのお墓に水をかける一連の流れも、「人があまり来ていない」という理由で、哲也が始めた習慣であることが第一話で明かされているだけに、なんだか微笑ましい。
墓参りを終え、東屋で弁当を食べる二人。味噌汁の具は哲也の大好物である細く切った大根で、「俺が入院してるときにママがよく作ってくれた」と思い出を語ったところから、トキコの中でフタをしてきた記憶の扉が開いてしまう。
それは、父が肝炎の治療で入院していたときのことだ。ガンの疑いで検査を受けることになった母に、若き日のトキコ(松岡茉優)は動揺しつつも冗談めかしながら言った。
「お母さん、お願いだからお父さんより先に死なないでね」
続けて、ワガママで好き勝手をやっている父と二人きりはキツイと笑ってみせ、「お願い!」と手を合わせると、母も笑って「わかった」と言っていた。
そんなやり取りの後、ふと「初めての病院で(検査するのは)心細くて・・・」と呟く母。検査の日、一緒に病院に行ってほしいと頼まれたトキコだが、楽しみにしていたライブがあるという理由で断ってしまう。母親の一大事なのに・・・しかし、他の誰でもない、母親の一大事だからこそ、正面から現実と向き合うことが怖くてできなかったのだろう。
結局、母のガンが検査で明らかなものになり、急いで入院・手術をすることに。そして、それをトキコが入院中の哲也に伝えた途端、父の心は壊れてしまう。
「行かなきゃ」とパジャマに上着を羽織り、止める娘を振り払い、病院スタッフたちに押さえつけられながらも暴れる哲也。普段は調子が良く、自分勝手な哲也がこんな風に変わってしまうのを見るだけでも、その衝撃はすさまじいものだろう。
しかし、その衝撃すらも忘れてしまうような出来事がその後に待ち受けていた。6時間もかかった母の手術は無事成功し、翌日トキコは哲也の大好物の大根の味噌汁を作り、哲也に報告に行く。しかしそこで、看護師から「昨日はお母さんがいらっしゃってたわね」と声をかけられたのだ。
トキコが病室へ行くと、哲也のベッド脇には赤い花が飾られていた。白いカラーの花を好む母が苦手としていた「赤い花」だ。これまで何度か挟み込まれてきた、若き日のトキコと、父の病室、赤い花、赤い服の女性・・・断片が点在していた不穏な記号が積み重なり、一気に結びついてくる。哲也の妻の手術の日、おそらく娘が来ないことを確信し、わざわざその日を選んで哲也の見舞いに来たのであろう女性の毒々しさが、眩しい赤い花と重なる。
妻のガン発覚で哲也の心が壊れたのは事実だし、「正直、その頃(妻のガン発覚)から記憶がないんだよ」と語ったのもおそらく事実だろう。それに、妻を深く愛していたこと、亡くなった今も大切に思っていることも見えるし、適当で自分勝手だが優しい人ではあることもわかる。
しかし、だからこそ完全に父と縁を切ることもできず、憎み切ることもできず、強引にフタをした記憶の底に「許せない」の思いが澱(おり)のように溜まり続けているのではないだろうか。
そして、許せない思いにフタをしてきたために、母の記憶まで風化していることに気づいたトキコは、母の光だけでなく影の部分も描くことを決意する。これは苦しく辛く、しかしトキコ自身にとっても非常に大事な一歩である。
(文・田幸和歌子/イラスト・月野くみ)
【第8話(6月11日[金]放送)あらすじ】
父(國村隼)のことだけでなく、亡き母(富田靖子)のことについても、ありのままを書こうと決めたトキコ(吉田羊)は、お互い今まで触れてこなかった話を父に持ちかける。20代のころのトキコ(松岡茉優)は父と母を同時に介護する過酷な日々を送っていた。そしてある日、双方に決定的な事件が起こる。事態を1人で抱えることに限界を感じたトキコは、父の元に密かに通う「あの人」を頼るしかないと苦渋の決断をするのだった・・・。
◆放送情報
番組名:ドラマ24『生きるとか死ぬとか父親とか』
放送日時:毎週金曜深夜0:12~
放送局:テレビ東京、テレビ大阪、テレビ愛知、テレビせとうち、テレビ北海道、TVQ九州放送
※テレビ大阪のみ、翌週月曜深夜0:00から放送
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信
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