早くも最終回を前にした『珈琲いかがでしょう』第7話。こんなにも身の毛がよだつ回を見ることになるとは、ドラマが始まったころは思いもしなかった。見終わった後、癒しを求めて即「おかわり」(=Paraviにて配信中の『珈琲"もう一杯"いかがでしょう』を視聴すること)をしてしまったほどだ。

 

「戸籍売っぱらっちまってるんで」自分の名前はないという衝撃の事実がここにきて明かされた、中村倫也演じる青山一は、なんとも罪な男である。孤独なぺい(磯村勇斗)に、寂しさを紛らわせるイチゴミルク味のキャンディの味を教え、一人眠れない夜を過ごす、当時10歳のヤクザの組長の息子、ぼっちゃん(長野蒼大)に、コンデンスミルクをたっぷり入れたコーヒー牛乳の「くらくらするくらい甘くて美味しい」味を教え、自分自身は、二人からすれば忌々しい「泥水」のような珈琲の味に魅せられ、忽然と姿を消してしまった。

第7話はそんな、青山のことが「大好きすぎて憎すぎてたまらない」ぼっちゃん(宮世琉弥)、「青山さんの珈琲が大好き」すぎて危険を顧みずどこまでもついていってしまう垣根(夏帆)、裏切られ、彼のためにどこまで痛めつけられても「ゴキブリみたいにしぶとい忠誠心」を持ち続けるぺいという、青山を愛してやまない人々が一堂に会する回だった。

かつてぼっちゃんは、父親である二代目(内田朝陽)に構ってもらえない寂しさを埋め、いざとなったら自分のことを颯爽と守ってくれる強い青山のことを、大好きなキャラクター「とらモン」に見立てて慕っていた。

初めて二人が会った時、彼らは互いを真っ直ぐに見つめ合っていた。青山が遠慮なく「バカですね」と言ったらぼっちゃんも「見てろよ、バーカ」と言い返す。二人の間だけで成立する関係がその時点で成り立っているのは、ヤクザの組長の息子と世話係という関係性において珍しいのではないだろうか。

最初はバカ呼ばわりしつつも、ぼっちゃんが逆上がりの練習に必死になる理由を知った青山は、彼に最大限の敬意を示すと同時に、協力を惜しまない。そうやって、相手が子どもであろうと、主従関係にあろうと、ちゃんと人として向き合おうとする青山の姿勢に、ぼっちゃんは惹かれていったのかもしれない。だが、そんな二人の関係は、父親と仲が良く、皆に慕われている青山への嫉妬と、自分ではなく珈琲を選んで自分の前からいなくなるのではないかという不安から、奇妙にねじれ始める。

幼いぼっちゃんは、青山の組抜けと珈琲屋への転身の噂を、青山自身にぶつける。その言葉とともに、おままごとのように穏やかに差し出されたのは、比喩ではない「泥水珈琲」。そして、「そんなことしたら(組を抜けて珈琲屋になったら)指切りの刑だぞ」だと告げる。それに対し青山は、「約束」したからと2本の指を残して組を去っていってしまう。どこまでも「応える」ことで、試してくるぼっちゃんの愛を受け止めようとしたのだ。

「黒くてドロドロしたものに飲み込まれて」しまったぼっちゃんの行動の底知れない恐ろしさは、その捻じれきった心の歪みにある。これまで青山がたくさんの人々の心を救ってきた移動珈琲屋のワゴン車の中で、彼が大切に使っている珈琲豆と道具で「お仕置き」をするのもまたそうだ。それだけで、ぼっちゃんは、これまでこのドラマが築いてきた全ての物語をも迫害し、否定しかねない脅威の存在となる。

さらに極めつけの行動は、父親・二代目の仏壇に供える「青山の指入りウィンナーコーヒー」だろう。「これから僕はとらモン(青山の愛称)みたくなるよ」と言いながら、彼はポトンポトンとそれを入れる。かつて彼が羨ましそうに見ていた、青山と二代目の、珈琲を交えた談笑シーンにおける「ウィンナーコーヒーっていうのは、ウィンナーがぶち込んであるコーヒーだと思っていた」という言葉に呼応した「これはウィンナーコーヒーじゃないよ」という全く笑えない冗談をさも笑えるかのように口にすることで、彼は、亡き父親と生前叶わなかった談笑の時間を本気で試みているのであった。

そんなぼっちゃんのサイコパス的な暴走を封じ込めたのは、彼の悪魔的な「珈琲版ロシアンルーレット」において、大好きな青山の珈琲のためなら、自分の死をも厭わないと、一瞬の躊躇もせずに毒入りかもしれない珈琲を飲み干した垣根の予想外の行動だった。

ぼっちゃんの歪んだ愛をあっけなく霧散させる垣根とぺいの、笑えてくると同時にちょっと怖くなるぐらい純粋で真っ直ぐな愛。

自分で仕掛けたゲームのはずれを引いたのは自分自身だと気づき「いつもそうだ」と狼狽する彼の頭の中にはきっと、幼い頃に見ていた「自分以外の人々は、皆コーヒー牛乳を美味しそうに飲んでいるのに、僕だけそれが飲めない」という怖い夢がある。

さて、来週はいよいよ最終回である。思えば、第2話における臼田あさ美演じる礼もまた、妬み僻み嫉みでドロドロした感情を自分の中に沈殿させていた。そんな彼女を救ったように、青山は、彼が変わってしまったために「変わらざるをえなかった」哀しき少年・ぼっちゃんを「黒くてドロドロしたもの」から解放してやることができるのか。どうか、愛すべき登場人物たちに幸せなラストが待っていますように。

(文・藤原奈緒/イラスト・まつもとりえこ)

【最終話(5月24日[月]放送)あらすじ】

「暴力珈琲」「ポップ珈琲」
ぼっちゃん(宮世琉弥)が執拗に青山一(中村倫也)を追っていたのは、信頼していた青山の裏切り行為に対する報復だった。垣根志麻(夏帆)やぺい(磯村勇斗)を巻き込んでまで追い詰めようとするが、暴力ですべてを制するようになったぼっちゃんに、青山は「そのやり方で手に入れたコーヒー牛乳はおいしかったか」と問いかける。

ぼっちゃんの脳裏に蘇ったのは、同級生を脅して好きなだけコーヒー牛乳が飲めるようになったのに、なぜかまったく味がしなかった頃の記憶・・・。さらにこれまで沈黙を貫いていた夕張(鶴見辰吾)が、見かねて裏切りの真相を語り始める。青山が大金と共に姿を消した裏には、息子を思う二代目(内田朝陽)とのある固い約束があった。時を経て事実を知ったぼっちゃんは・・・。ついに最終回。青山は「奥さんと同じ墓に入りたい」と願っていた、たこ(光石研)の願いを叶えることはできるのか?

◆番組情報
『珈琲いかがでしょう』
毎週月曜23:06よりテレビ東京系にて放送
出演:中村倫也 夏帆 磯村勇斗 ほか
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」では本編見逃し配信のほかに、Paraviオリジナルストーリー「珈琲"もう一杯"いかがでしょう」を独占配信中

【公式HP】https://www.tv-tokyo.co.jp/coffee_ikaga/
【公式Twitter】@tx_coffee
【公式Instagram】@tx_coffee_ikaga

(C)「珈琲いかがでしょう」製作委員会