どうやらこのドラマは本気で私たちに夢を見せようとしてくれているらしい。現実はいろいろあるけれど、このドラマを観ている時間だけは華やかな気持ちになれる。『着飾る恋には理由があって』(TBS系/毎週火曜22:00より放送)第3話は、このドラマそのものが最高のデトックスであることを証明してくれた。

川口春奈&横浜流星がすっかり黄金カップルに

気がつけば、いつも軽口を叩き合っている。だけど、いつの間にかいちばん落ち着く相手になっている。まさにラブコメの王道中の王道だけど、くるみ(川口春奈)と駿(横浜流星)もすっかりそんな黄金カップルになりつつある。

「心の声漏れてますよ」
「わざと漏らしたんですよ」

相手の皮肉を、皮肉で返す。まるで中学生みたいだ。1本とったという顔で大喜びしている駿に、「物悲しいねえ」と以前言われた嫌味を持ち出してくるくるみ。目をギョッと見開く川口春奈のコメディ演技も可愛いし、「それ・・・あの・・・俺の・・・」とまごつく横浜流星のリアクションも微笑ましい。覆いかぶさるようにして車のドアを閉めたり、そういうわかりやすいキュン仕草もいいんだけど、より幸せな気持ちになれるのは、こんな2人の素っぽいやりとり。その空気感に、あたたかいものを感じるのだ。

それにしても、駿は寝起きからあんなにテンションが高いのか。ソファでまどろんでいたところをくるみに起こされた駿は、さっきまで見ていた夢の話を始める。それも車が転落したり、ジャンボクワガタと格闘したり、という荒唐無稽な内容を、身振り手振りつきで。

高い。寝起きからテンションが高すぎる。「寝起きハイテンショングランプリ」なら確実にチャンピオンだ。ふとした瞬間に憂いや翳(かげ)りを見せるくせに、こういうところはどこまでも子どもっぽい。横浜流星のこの男子感が絶妙にツボになってきた。

能天気で、陽気で、飄々としていて、おちゃらけたことばっかり言っているくせに、こちらがあえて仕掛けてみたら、余裕綽々という顔を見せる。そういうところが、すごくいい。

ナイトキャンプ。2人きりの時間。おしゃべりな駿がなぜか無駄話をしてこない。夜の静寂を埋めるのは、パチパチという焚き火の音だけ。その空気をごまかすように写真を撮ろうとするくるみの手を、駿が力強く握る。横浜流星の指は長い。川口春奈の華奢な手と重なると、その引き締まった大きな手がより美しく見える。すでにキスもしているのに、手を握るだけでこんなにドキドキするのは、横浜流星の手の魅力にあると思う。あの大きな手に、自分も包み込まれたような気持ちになって、きゅっと心臓が跳ね上がるのだ。

夢には、自分の中の無意識が表れるのだと言う。「最近、変な夢見るんだよね。真柴さんが出てくる夢」と試すように見つめる駿に、くるみはわざと茶化したような口調で「もしかして、私のこと好きなのかもね」とけしかけてみる。くるみなりの、イジワルだ。だけど、駿はその上をいく。余裕たっぷりの笑顔で「どうかなあ。・・・ちょっと待って。考える」と気を引き、「そうだね、たぶん好きだね」と笑う。あのキッチンカーではくるみの方が一枚上手だったけど、ここでは駿が完全にリードしている。それが、いい。やっぱり男の子にはこんなふうにちょっと振り回されながらドキドキしたいのだ。

いつになく澄んだ目の横浜流星と、「たぶん好きだね」と言われて、大きな黒目を泳がせて、しきりにまばたきをする川口春奈。どちらの演技も鮮度が高くて、毎回この2人のシーンになると、頬が緩んでしまう。そこからキスをするわけでもなく、すぐにいつもの軽口に戻るところも、この2人らしい。くるみは、「好き」の返事はしていない。でも、その手を振りほどかないことが、答えと見ていいだろうか。

誰かに追いかけられる夢や、地獄で釜茹でされる夢ばかりを見ているというくるみは、きっとこの夜はいい夢を見たはずだ。そこに駿も出てきて、夢の中でも2人でああだこうだ言い合っていたらいいな、なんて想像を膨らませるくらいには、この2人に夢中になっている。

空と、水と、空気があれば、私たちはいつでも蘇生できる

それにしても、今年のGWは本当に何もなかった。本当ならくるみたちみたいにどこか空気のおいしいところへ遊びに行きたかったし、お気に入りの服をおろしたかった。家の中にずっといるのは、やっぱり息がつまる。この3話は、どこにも行けない私たちをほんの少しでもどこかへ出かけた気分にさせてくれた、という意味でも楽しかった。

今回登場したキャンプ場はオシャレで素敵だったし、駿のつくる料理はどれもおいしそうだし、くるみのファッションはいつ見ても可愛い。思わずあのROSE BUDのワンピースがほしくなったし、ニジマスの生ハム焼きが食べたくなったし、ロケ地の杓子山ゲートウェイキャンプのHPを延々眺めてしまった。あんなふうに渓流で釣りをしたり、のんびり温泉に浸かったり。今はなんだか遠い世界の出来事みたいだけど、この事態が落ち着いたら、いつか行ってみようとメモをする。そういう楽しみ方ができるのも、ドラマの良さだ。だって、ドラマはギリギリ手が届く夢だから。

実際にデジタルデトックスをするのは難しい。スマホが普及したせいで、出先でメールが確認できない、という言い訳も通用しなくなった。便利さと引き換えに、首輪をつけられているのが現代人の生活だ。マニキュア、ヒールの高い靴、と1話ごとに何かをやめたくるみは、第3話にして一夜限りだけどスマホを手放してみた。おかげで心ゆくまで温泉を楽しめたし、羽瀬(中村アン)との仲直りを野暮な通知に邪魔されることもなかった。何もかもやめてしまうのは難しい。実際、靴だって通勤のときはスニーカーだけど、オフィスに着いたらパンプスに履き替えている。でもそうやって切り替えることが大事なんだと思う。

今日はオフだと決めたら、何もがんばらない。電話にだって出なくていいし、いちいちSNSもチェックしなくていい。自分の時間を慈しみ、目の前にいる人とのおしゃべりを大切にする。それだけで、自分の内側にたまっていた不純物がすーっと消えて、いつもより呼吸が楽になる。

「外の世界でどんなに落ち込んでも、うまくいかないことがあっても、これさえあればいいのよ。空と、水と、空気」

そう考えたら、私たちはいつだって蘇生できるのかもしれない。息が苦しくなったとき、視界が灰色に見えたとき、思い出したい名台詞だ。

傷つく横浜流星も見たいから、向井理よ早く戻ってきてください!!

一方、陽人(丸山隆平)と羽瀬の間にも恋心が芽生えはじめているようだ。10年間挑戦し続けた「ART NEW WAVE2021」の大賞を逃した羽瀬。箸にも棒にもかからないより、こうやって最終選考まで残って、あとほんの少しのところまで来て夢を逃す方が、ずっとずっと辛い。悔しさを口にする羽瀬の背に、陽人は黙って手を当てる。それは安っぽい慰めの言葉より、ずっと沁みたことだろう。こみ上げるものをぐっとこらえるクールな中村アンの横顔と、丸山隆平の穏やかな雰囲気、そして富士山の絶景が重なって、とても優しい場面になっていた。

だけど、明らかに陽人のことを男性として意識しはじめた羽瀬に対し、陽人の目線は保護者のそれに近い気もする。誰にでも向ける優しさは、時に誰かを傷つけることになる。職場の同僚と恋人とは言えない関係を維持している羽瀬が、本当に誰かを好きになったらどうなるのだろう。明らかに陽人に依存している相談者・舟木千春(黒川智花)も気になる存在だ。ちょっとひと波乱が起きそうで、くるみがデジタルデトックスで伸びやかな気持ちを取り戻したように、何でも背負い込みがちな陽人にも肩の荷を全部降ろせる時間があればいいなと思う。

そして、葉山(向井理)はいったいどうなったのでしょうか。言ってしまうと、くるみの気持ちが駿に傾いているのも、葉山という存在が目の前から消えて、その穴を代わりに埋めてくれるのが駿だったからというのが大きい。もし再び葉山がくるみの前に現れたとき、くるみの気持ちはどうなるのだろうか。

想像するだけで胸が痛くなるけれど、横浜流星は傷つく演技もとってもうまいので、葉山の存在に嫉妬したり、かき乱されている駿もめちゃくちゃ見たい。深刻な向井理不足の問題解決と、さらなる横浜流星の魅力爆発のために、一刻も早く葉山が戻ってくることをお待ち申し上げております!

(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)

【第4話(5月11日[月]放送)あらすじ】
キャンプの夜、駿(横浜流星)から「好きかもね」と言われ、真柴(川口春奈)は気持ちが揺さぶられるものの、駿の真意が分からないまま帰路につく。真柴と駿が帰宅すると、香子(夏川結衣)から陽人(丸山隆平)と羽瀬(中村アン)も交えた4人に話があると切り出される。

そんなある日、羽瀬が体調を崩してしまう。急に気分が悪くなってしまった羽瀬の具合を聞くうちに、真柴はある思いを巡らす。

同じ頃、「el Arco Iris」の広報課では来期のコレクションに向けたプロジェクトが始動し、急遽、デザイナーとの打ち合わせに真柴が指名されて・・・。

◆放送情報
『着飾る恋には理由があって』
毎週火曜日22:00よりTBS系にて放送中
地上波放送終了後、動画配信サービス『Paravi』にて配信。
Paraviオリジナルストーリー『着飾らない恋には理由があって』も独占配信中。

(C)TBS