これまで、メインキャストでありながら一堂に会することはなかった中村倫也演じる青山、夏帆演じる垣根、磯村勇斗演じるぺいがようやく集った第5話。いつもの癒し要素は少なめで、青山の凄絶な過去と、中村倫也が魅せる様々な表情にひたすら息を呑む回だった。そして、これまで視聴者を翻弄してきた危なげな男ぺいの人生と、「俺の兄貴」青山への切なる思いに心を震わせずにはいられなかった。
1杯目の「ほるもん珈琲」の由来は、「昔は食えねえってゴミとして放るもんだったんだぞ。関西弁で捨てるもんっていう意味だ」と、焼き肉屋でホルモンについて語る花菱(渡辺大)の言葉からきている。「依頼者様がいらないって判断したゴミをきれいにきれいに片づける」血生臭い「清掃業」をしていた青山が行ってきたことが「放る(捨てる)」ことだったとしたら、2杯目の「初恋珈琲」で青山とぺいが出会ったホームレスのたこ(光石研)は、「ゴミでも丁寧に磨けば、大抵のものがなんとかなる」という言葉からもわかるように、「拾う」ことの大切さを知る男だ。
「放る」ことを生業にする男・青山が、奇跡のような珈琲を淹れる「拾う」男に出会い、ド底辺にいた魂を拾われた。もう一方の男・ぺいは、それをきっかけにみるみるうちに変わっていった青山に置きざりにされて(彼の言葉を借りれば「ほるもんにされて」)、途方に暮れて、寂しい思いを紛らわすために、イチゴミルク味のキャンディを舐めている。
第1話のぺいが、食べ終わったキャンディの包み紙で「青山」という文字を形作れるほど大量にキャンディを食べ散らかしていたのが、かつて青山が言った「寂しい時、口の中入れとくんだ。紛れるから」という言葉からきているのだとしたら、なんと切ないのだろう。青山に言われて、失恋の傷心を紛らわせるために口に入れたキャンディの甘さに、少し前に飲んだ珈琲の苦さを和らげる効果も相まって、まるで萎んだ風船が膨らんでいくような表情をするぺいがどうにも愛おしかった。
1杯目2杯目を通して描かれるのは、ぺいの「変われない」悲劇だ。第4話で描かれた、青山とゴンザ(一ノ瀬ワタル)を変えた5年という歳月に対しても、彼は疎外感を抱えている。「その頃にはもう人生にしっかり絶望していた」小学生の頃から、彼はずっと変われなかった。もっと言えば、変わる機会を与えられなかったのだろう。
そしてなにより、彼から、初恋の人ひとみ(駒井蓮)と、尊敬する兄貴・青山という、大好きな人たちを「絶対に手が届かない遠くに」連れて行ってしまったのは、他ならぬ「珈琲」だった。
彼は珈琲の味が分からない。過去の青山が仕事終わりに「一区切りつける」ために飲んでいる自動販売機の珈琲は「まじ泥水」な味だし、青山の運命を変えた、ホームレスのたこの淹れたとびっきりの珈琲の味も、到底理解することはできなかった。
また、小学生の時、ひとみの家でご馳走になった生クリームたっぷりのコーヒーゼリーは忘れられない味だが、大人になったひとみが「美味しい」と言って飲んだ800円のブラックコーヒーは意味がわからないほど苦かった。
「俺は馬鹿だから」と何かにつけて彼は言う。「崇高な価値のあるお珈琲」を彼は忌み嫌う。でも、第3話において、飯田(戸次重幸)が馬鹿にしていた「コーヒー牛乳しか飲めない」同僚(小手伸也)が、出世していく姿が描かれていたように、珈琲の味がわからないからぺいの人生は悲しいのではなく、彼が「珈琲」を通して感じてしまう「大切な人との心の距離」が悲しいのである。
『珈琲いかがでしょう』がこれまで描いてきた物語は、青山の淹れた特別な「一杯の珈琲」を飲んで何かが変わりそうな人々の話だった。ある人は一杯のカフェオレで生きる気力を取り戻し(第1話)、ある人は一杯のエスプレッソで、以前は我慢して飲んでいた苦味を美味しいと感じるようになった自分の成長を知った(第2話)。一杯の珈琲が、一人の男の止まっていた時計の針を前に進める手伝いをした(第4話)。だから余計に、変われないぺいは孤独だ。
第6話は、光石研演じるホームレスのたこと出会ってからの青山の話が描かれる。「ほるもん、ほらんもん」と呟きながら、対象を殺す・殺さないを選別し、無感情に相手を殴り続ける時の「いろんなもんが欠落してる、なんも映ってない目」が、どうしてたくさんの人の心を救う優しい眼差しに変わったのか。いよいよ、全ての謎が解き明かされる時である。
(文・藤原奈緒/イラスト・まつもとりえこ)
【第6話(5月10日[月]放送)あらすじ】
「たこ珈琲」
垣根志麻(夏帆)が淹れた珈琲を味わいながら、青山一(中村倫也)は珈琲の道に進むきっかけとなった、ホームレスのたこ(光石研)との出会い、そして青山が珈琲を淹れながら各地を巡っている本当の理由を打ち明ける。
たこの淹れた珈琲に魅了され弟子入りを懇願した若き青山。その申し出を受け入れたたこは、ただ単純に「珈琲を美味しく淹れる」だけではない、青山自身に足りていない何かを気づかせるための修行を始めるのであった。今まで自分が過ごしてきたヤクザな世界とは真反対な、穏やかな日常を過ごしたり、ちょっとしたシアワセに気づくような日々を送る青山。珈琲の腕前が上達していくのと比例するかのように、青山の中でも小さな変化が起き始めていた・・・。
とある雨の日、青山がいつものようにたこの家にいくと、そこには寝込んでいるたこの姿が。たこの淹れた珈琲を飲む青山は「いつか俺も誰かに美味しい珈琲を淹れることができるんだろうか」と問いかける。するとたこは青山に一番必要で大事なものが何なのかを語り始めるのだが・・・。
垣根を家まで送り、ぺい(磯村勇斗)から託されたメモを手掛かりに、本当の目的を果たすべく車を走らせる青山。最終地点に辿り着いたと思ったその時...。
◆番組情報
『珈琲いかがでしょう』
毎週月曜23:06よりテレビ東京系にて放送
出演:中村倫也 夏帆 磯村勇斗 ほか
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」では本編見逃し配信のほかに、Paraviオリジナルストーリー「珈琲"もう一杯"いかがでしょう」を独占配信中
【公式HP】https://www.tv-tokyo.co.jp/coffee_ikaga/
【公式Twitter】@tx_coffee
【公式Instagram】@tx_coffee_ikaga
(C)「珈琲いかがでしょう」製作委員会
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