ドラマ『アノニマス』もいよいよ佳境である。人の心の弱さにつけこみ、彼らを利用して正義を示し、悪に制裁を下す「アノニマス」を名乗る人物の危険な手法が明らかになってきた。そして、共に過去に「大切な人を守れなかった」という痛みを抱える主人公・万丞渉(香取慎吾)と、碓氷咲良(関水渚)はいい相棒になりつつある。そこに、かつての万丞の相棒・倉木(シム・ウンギョン)とのやり取りが重ねられるのが、微笑ましいと共に、碓氷と同じく真っ直ぐすぎるところが仇となったと思われる倉木の現在を思うと、不安が残る展開だ。

5、6話は、人々の心の弱さが浮き彫りになる回だった『アノニマス~警視庁"指殺人"対策室~』。つくづくこのドラマは、暗い海の底にいるようなドラマだ。主人公・万丞らがいる、「指殺人対策室」という警視庁の中にあるとはとても思えない、まるで地下室のような空間もそうだが、事件に巻き込まれる人々の心象風景を思わせるように、どの場面も暗い。

だが、海の底にも、光はある。思い悩む彼らの表情を、光がいつも照らしている。時に柔らかく、時に不規則に点滅しながら。事件を追う側である「指殺人対策室」のメンバーが必ずしも正しいのではなく、彼ら自身も悩みながら捜査をしているところが面白い。誰かの心を照らす光になることもあれば、彼ら自身がネットの闇を追いかけるあまり、その闇に沈んでしまう危険性もある。

「アノニマス」を名乗る人物は時に正義でもあり、悪でもある。インターネットを利用する人々の「善意」の大きなうねりは、気づいたら誰かを殺す「悪意」のうねりに転じていることもあるし、その逆もあり得る。ネットの海は憎悪で埋め尽くされているかというとそうではなく、ふとしたところに真実が転がっていたり、誰かを救う手立てが残されていたりする。常に光と闇は紙一重であり、ネットの世界にも現実世界にも居場所がないと感じていた星野(萩原利久)の心を、図書館司書の山名(鞘師里保)が救ったように、どんな場所にも光は射すのである。

5話は、『日本近海における甲殻類の生態』という本を通して心を通わせる男女、星野と山名の物語だった。一心に星野を思い走る、鞘師里保演じる山名の儚げな姿は、まさに深い海の底にいる星野に射した一筋の光そのものだ。

星野は、大人気動画配信者さわてぃ(橋本淳)を脅迫したとして、警察(依頼を受け事件解決に向けて動き出した万丞ら)に追われ、ネットでも大バッシングを浴び、逃げ続ける。動画配信だけでなく、オンラインサロンと、サロン内いじめなど、今回も時流をうまく汲み込んでいて、興味深かった。

さわてぃ脅迫の加害者である星野は、実はさわてぃを中心にして行われていたネットいじめの被害者でもあった。現実世界だけでなくネット世界においても居場所を失くし、孤立無援状態の星野にさらなる大バッシングが襲い、追い詰められた星野は、ネット掲示板「裏K察」に情報を提供する「アノニマス」に焚きつけられるかのように、「俺がお前らに必ず報いを受けさせる。それが多くの人のためだ」と宣言し、星野は憎むべき相手に包丁を向けるのではなく、自分自身に矛先を向けたのだった。

自分自身を傷つけることで悪を糾弾しようとしたのは、5話の星野だけではない。6話における川島鈴遥演じる末松香もそうだ。彼女の場合は、動画配信中に、屋上から飛び降りようとした。

彼女は、恋人・椚(田中偉登)に対する匿名の中傷で悩んでいると指対室を訪れるが、本当は椚の恋人というのは嘘で、彼女の目的は、かつて恋人・荒井慶太(岩上隼也)の死の原因を作った椚と、何も知らないのにネットで恋人を糾弾した、日本中の顔も知らない人々への復讐だった。彼女の嘘と、ネット上での情報拡散によるミスリードによって、「皆の善意が大きなうねり」となり「指殺人対策室」の面々含め日本中が踊らされてしまう。

6話における香の自殺は万丞によって止められたが、5話の星野の自殺は止めることができず、星野は大きな怪我を負うことになった。なぜ彼らは「悪を糾弾し、報いを受けさせる」と言いながら、自分自身を傷つけるのか。そこに、このドラマのタイトルであり、ドラマ全体を覆う謎の根源である「アノニマス=顔の見えない犯罪者」という言葉の意味があるのだろう。

星野、香の一番の敵は、さわてぃであり、椚である。だが、それと同時に、彼を傷つけ、彼女の恋人を死に至らしめた、自覚なく「指で殺した」、顔の見えない匿名の人々もまた、彼らが復讐しなくてはならない敵なのである。だから彼らは、その途方もない数の敵を前に、自らを殺すことで彼らの心に傷を負わせようとすることしかできない。

そして、なにより怖いのは、この「顔の見えない指殺人の犯人」に誰もがなり得るということである。

警察組織である「指殺人対策室」の公式SNSに「善意の情報」だからと言って裏付けのないネット情報を転載する6話の四宮(清水尋也)や、義憤にかられ、感情的に「謝罪」を求めにいき事態を悪化させる5話の碓氷といった、本来なら常に正しいはずの、事件を追及する側の「指殺人対策室」の面々が、時折思わぬ暴走で事態を悪化させることがあることに驚かされる。

インターネットから距離をとり、自らの足で事件と対峙する万丞を例外として、彼らもまた、危うい。そのことは、彼ら自身も私たちも、気づいたら「顔の見えない指殺人の犯人」になりうるのだということを暗に告げているのではないか。また、被害者であると同時に加害者でもある、自分自身を殺そうとした星野や香自身もまた「顔の見えない犯罪者(アノニマス)」であるとも言える。

さて、時には捜査に有益な情報をもたらし、迷える人々を利用することで、悪に制裁を下す「正義」を語る「アノニマス」と名乗る人物は一体何者なのか。最終章、我々はこのドラマの先に何を見ることができるのだろうか。

(文・藤原奈緒)

【第7話(3月8日[月]放送)あらすじ】
社員をパワハラで自殺に追い込んだブラック企業だとの噂で大炎上したある食品会社。そのSNSに「罪を告白しないなら爆破する」という爆破予告が届く。万丞渉(香取慎吾)らが突き止めた予告犯・小柳祐平(塩野瑛久)はアノニマスの信望者だった。するとアノニマスから裏K察に新たな動画が投稿される。「次に告発するのはこの国最大の巨悪・警察」。同じ頃、万丞は刑事部長・城ケ崎明文(高橋克実)から、アノニマスの正体を突き止めるよう指示を受けた・・・。

◆放送情報
『アノニマス~警視庁"指殺人"対策室~』
毎週月曜22:00からテレビ東京系で放送中。
放送終了後には「Paravi(パラビ)」で配信中。
また、「Paravi」では、オリジナルストーリー『アノニマチュ!~恋の指相撲対策室~』が独占配信されている。