一気に真実が浮かび上がってきたけれど、依然として肝心な部分は謎のまま。日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』(TBS系/毎週日曜21:00~)第7話は、霧があけた先もまた霧だったというようなストーリーだった。引き続き今回明らかになった事実を整理し、今後の展開を考察する。

※以下、<>内は入れ替わった後の人物名

【1】日高陽斗と東朔也は双子の兄弟だった

意外だったのが、日高(高橋一生)の実家だ。日高の腹の読めないキャラクターから、名家にありがちな複雑な家庭環境かと思いきや、父・満(木場勝己)は裏表のない好々爺。亡き妻・茜(徳永えり)を今も大切に愛し、血の繋がりはない連れ子の日高にも分け隔てなく愛情を注ぐ、太陽のような人物だった。

そんな父から明かされたのが、日高に双子の兄弟がいたという事実。それが、東朔也(幼少期:中川望)だった。本来は裕福な生まれだったはずの朔也は、バブル崩壊後、父・貞夫(浅野和之)が四方(小笠原治夫)から負債を押しつけられたことにより没落。その後、一度だけ身分を明かさず日高の前に現れたが、そこから消息がわからないままとなっていた。

つまり、両親の愛情を受け、父親のようなラーメン屋になることが夢だと無邪気に目を輝かせていた日高が天国なら、朔也は地獄。もしあのとき、母が家から連れ出したのが自分だったら、立場は逆転していたのかもしれない。朔也が、シヤカナローの花の伝説に自らを重ねても不思議ではない。

【2】東朔也は湯浅なのか

ここで思い出されるのが、第5話で湯浅(迫田孝也)が語った身の上話だ。

「俺の親父はいろいろ面倒な人でさ。でも、縁切るってのもどうしてもできなくて、結局死ぬまで振り回されっぱなしだったよ」

満と茜からの援助を拒む貞夫はいかにも面倒だし、茜の申し出を断り父についていくことを決めた朔也の性格も「縁切るってのもどうしてもできなくて」という湯浅の言葉と一致する。提示されているヒントだけを見れば、東朔也=湯浅和男と見て、ほぼ間違いないだろう。

【3】日高と朔也はどこで再会したのか

歩道橋で一度だけ出会い、お互いの乳歯を交換した日高と朔也。遠く離れた2本の線は再びどこで交わったのか。彩子<日高>(綾瀬はるか)が目の前の清掃員を何かを重ねるように見つめていたことから考えて、日高の会社に湯浅が清掃員としてやってきて、そこで2人は再会を果たしたのではないかと思う。

かたやベンチャー企業の経営者。かたや清掃員。職業に貴賎はないということを前提にしたとしても、収入や環境という面で差は否めない。湯浅は陸(柄本佑)にこう言った。

「てめえの手ェ動かして、汗水流してるやつが、ちゃんと報われなきゃいけねえってことだよ」

これが、肉体労働者である自分のことを重ねているとしたら。そして殺された四方が、父・貞夫を破滅へ追い込んだ張本人なら。理不尽な社会に対する湯浅の憤りが、殺意に変貌しても納得はいく。

五木(中村ゆり)の証言によると、日高と朔也は2人で奄美大島を訪れたらしい。第3話で登場した緋美集落とは、母・茜の故郷だろうか。そこで朔也は一連の殺人計画を日高に告白。ただ母から連れ去られたのが自分だったというだけで日なたの人生を歩いてきた負い目から、日高は朔也に協力することとなり、犯行後に証拠隠滅のための清掃作業を請け負うこととなった。田所(井上肇)殺しの凶器とされるあの石もこのとき日高と朔也がそれぞれ持ち帰ったのだろう。そして、日高は実家の自室に、そして朔也は凶器として利用した。

湯浅が倒れたとき、SDカードが落ちた。第1話で、田所殺害時に防犯カメラのSDカードが持ち出されていたと新田(林泰文)は言っていた。あのSDカードが田所邸のものだとしたら、ますます湯浅が実行犯という説が有力になってくる。

【4】本当に湯浅は人を殺したのか

だが、逆に納得のいかないことも多すぎるのだ。

仮に四方に対して恨みはあったにせよ、ならば四方だけを殺害すればいい。一ノ瀬(小山かつひろ)や田所を殺す必然性はない。もちろん四方をきっかけに社会全体に憎しみを抱くようになったと考えることもできる。しかし、少年時代の優しい朔也、そして陸が「師匠」と慕う湯浅から、どうしてもシリアルキラーの像がうまく結べない。

殺人の順番も、もし朔也が犯人なら、真っ先に殺すのは四方だろう。第一の殺人が2018年12月、第二の殺人が2021年1月と2年以上ブランクが空いたこともやはり引っかかる。この空白期間を埋めるピースが今のところまったく見つからないのだ。

東朔也が湯浅であることは断定してもいいのかもしれない。だけど、真犯人は湯浅ではない別の人物なのではないだろうか。

【5】実は朔也は誰かと入れ替わっているのではないか

そこで改めて浮上するのが、入れ替わりの謎だ。そもそもなぜこの物語に入れ替わりの必要があったのか。今のところ、刑事と容疑者が入れ替わったことにより謎とスリルが深まるという作劇上のアクセントにしかなっていない。だが、そこは脚本・森下佳子。ただの飛び道具として入れ替わりというトリッキーな設定を用いるとは思えない。それこそ、彩子<日高>の言葉を借りるなら、「反則だろ」だ。

つまり、この事件全体の謎を解く上で、何かしら入れ替わりは意味を持っているはず。そのヒントとなるのが、奄美大島の石だ。優菜(岸井ゆきの)曰く「いろんなところを転がっていっても、最後は私のもとへ無事転がって戻ってきますように」という奄美のお守りだという。この言葉から考えるに、奄美のお守りこそが入れ替わりためのマストアイテムではないだろうか。満月の夜に、この石を持っている者同士が、歩道橋から転落するような何かしらのアクションが起きたときに、入れ替わりが発生する。

そう考えると、日高だけでなく、奄美から石を持ち帰ったと推測される朔也にも誰かしらと入れ替わりが起きている可能性は十分にある。つまり、湯浅の体に宿っているのは確かに朔也の人格だが、本来の湯浅の人格は朔也の体に乗り移っていて、いわば朔也<湯浅>というべき人物が本当の犯人なんじゃないだろうか。

【6】湯浅が犯行現場に接近した理由は何なのか

第7話の回想シーンで朔也が何かあると拳を握りしめる癖があることが見受けられる。この癖を以前見せたことがあるのは、第6話で久米家の前に張り込む日高<彩子>と八巻(溝端淳平)を見つけて引き返した男だ。背格好からして湯浅と思える。そして、久米家周辺の公園で彩子<日高>が見つけた薬と、湯浅の薬も一致した。つまり、湯浅が犯行現場周辺に出没しているのは間違いない。

最初はどちらも犯行に及ぶための行為だと考えていたが、もし湯浅の中身が別人であるという説をもとに考えると、様相は一変する。公園で張り込んでいたのも、夜中に久米家へやってきたのも、犯行のためではなく、元の体に戻るため(あるいは真犯人の犯行を阻止するため)という構図になるのだ。また、彩子<日高>があれだけ犯行をひた隠しにするのも、犯行に及んでいる体は朔也のもので、何かしらの証拠が出て朔也が捜査線上に浮上するのを庇うためかもしれない。

ただ、どのタイミングで朔也と湯浅が入れ替わったのはまったくわからない。単純に考えるなら、十和田(田口浩正)の遺品から『暗闇の清掃人 φ』を手に入れた後に、何かしらの理由で入れ替わりが発生した。そして朔也<湯浅>は朔也の所有していた『暗闇の清掃人 φ』をヒントに犯行を計画。日高と湯浅<朔也>はそれに翻弄されながら今日に至ったという筋書きだ。

【7】結論:全然わからねえ!!!!

とはいえ、それでも謎の部分は多い。たとえば、多くの人が指摘している日高は女性と入れ替わったことがあるのではないかという説も宙ぶらりんのままだ。また、第4話で優菜が話していた、高校時代の日高がよく交流をしていた近所の足の悪い老人も関連性はまったく見えてこない。今回のことを考えると、その老人は貞夫ではないかという見方もできるが、近所に貞夫が住んでいれば、満も黙ってはいないはずだ。

また、『暗闇の清掃人 φ』は日高のマンションから発見された。日高が犯人でないとしたなら、どのタイミングで『暗闇の清掃人 φ』を日高が手に入れたのかもわからない。彩子<日高>の様子を見る限り、東朔也と連携がとれているようには思えず、彩子<日高>も東朔也もそれぞれ自分の意思で単独行動を起こしていると考えられる。

つまり、これだけ頭をこねくりまわしてもまるで明快な一本の線が見えてこないのが現状。はたして最終回までに視聴者の納得がいく真相へ辿り着けるのか。今、全国から森下佳子にすさまじいプレッシャーがかけられている・・・!

(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)

【第8話(3月7日[日]放送)あらすじ】
※<>内は入れ替わった後の人物名

新たな猟奇殺人が発生─。現場検証が行われる中、彩子<日高>(綾瀬はるか)は東朔也が担ぎ込まれた病院へと再び向かう。

事件に日高の生き別れの兄が関わっているのではと考える日高<彩子>(高橋一生)。同じく、現場への返り咲きを狙う河原(北村一輝)も、日高と東朔也の関係、また彩子に対し推理の的を絞り始めていた。

一方、陸(柄本佑)は、病気で倒れた師匠・湯浅(迫田孝也)を放っておくことができないでいた。そんな陸に、湯浅はある頼みごとを持ち掛ける・・・。

その後、八巻(溝端淳平)とコ・アース社に訪れた彩子<日高>は、日高<彩子>から思わぬことを告げられる。

◆放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
毎週日曜21:00よりTBS系で放送
地上波放送後には動画配信サービス「Paravi」でも配信。