西田敏行演じる寿三郎、またの名をジュディー、ジュネ、ジュマンジによる、観山家一同を巻き込んだ「浮名を流した男の最後の謝罪行脚の旅」は、太宰治の『グッド・バイ』に例えるほどカッコイイものではなく、どっちかと言うと『男はつらいよ』の寅さんか!と突っ込みたくなるような展開で、女たちはちゃんと、それぞれの人生を逞しく生きていたのであった。

それぞれに「わりきれない思い」を抱えた観山家一同は、旅先で、阿部サダヲ演じる強烈すぎるキャラクター、ムード歌謡グループ「潤 沢」のメンバー・たかっしと出会い、ますます混沌の域に達する。謎の曲「秘すれば花」(なかにし札作詞、筒美洋平作曲!)に合わせて歌い踊る三兄弟に、「マイウェイ」を朗々と歌う寿三郎。阿部サダヲ、長瀬智也、西田敏行という、エンターティナー3人による圧巻のパフォーマンスは必見である。

寿三郎の歌を聞いて感動して喜ぶ兄弟の中には、「宗家、俺もっと甘えていいかな。タメ口でもいいかな」と、実の息子と分かって以来絶賛反抗期中だった寿限無(桐谷健太)がいる。そして、本当に「絶妙な距離感」で陰ながら家族旅行をサポートしていた末広(荒川良々)によってカメラのシャッターは切られ、寿一(長瀬智也)が5話で言っていた「認知症とか相続とか隠し子とか、いろいろあった俺たちがいろいろ踏まえて笑う」ことができた彼らの「家族写真」は、25年前、母が亡くなる前の年に撮られた「家族写真」を見事に素敵に更新したのだった。

それが『俺の家の話』旅情編、第6話。愛と恋と混沌に満ちたスローなバラード。舞(江口のりこ)の言葉を借りれば「何、この多幸感」。そんな不思議な回であった。

見逃せないのは、寿一への「好き」が止まらない戸田恵梨香演じるさくらである。誕生日のプレゼントに「抱いて」と寿一にねだったさくらは、嬉しそうに「山賊だっこ」される。さくらのブーツを履いた足がゆっくりと持ち上がって、うっとりとした彼女の表情、そして、彼女の視界に映る、「回転する世界」が画面に映し出される。

恋によって、「好き」という感情によって、世界はグルっと回転し、まるで変ってしまう。「お金持ち」としか付き合ったことのなかった合理的な彼女は、今「力持ち」の寿一に夢中だ。何事もわりきって生きてきたのに、「わりきれない」から、帰ればいいのに寿一の部屋に佇み、仕事でもないのに寿一に会いたくて旅先にまで押しかけてしまった。

くるくると回り、変遷するのはそれだけではない。伝統芸能・能の大成者である世阿弥は、プロレスの「スーパー世阿弥マシン」となり、世阿弥の名言「秘すれば花」は寿三郎・寿一親子のさまざまな局面でさまざまな用途で引用され、散りばめられ、遂には大衆芸能であるムード歌謡グループ「潤 沢」の曲となり、散らばった観山家の心を見事一つにまとめ上げた。「優れた才能をもっていて世の中に認められているほどの修者はどの姿かたちを修しても『面白き』」とは世阿弥の『風姿花伝』の言葉であるが、能からプロレスへ、さらには伝統芸能から大衆芸能へと換骨奪胎していくこのドラマ、どこまでも大胆である。

また、秀生(羽村仁成)に事あるごとに「楽しいか」と確認しすぎて秀生を当惑させる寿一の「承認欲求」に加え、田中みな実演じるオーガニック栽培で農業を営む女性を除き、常に能面姿の寿一らの母親同様、終始マスク姿で顔が見えない、寿三郎が訪ねていくかつて浮名を流した女たち(池津祥子、紫吹淳)の思いを代弁するかのような「こんなマスクじゃ隠せない」と、彼らの歌う「秘すれば花」には、穏やかで和気あいあいとした第6話の中に密やかに込められた不穏な要素が隠されているようにも思えるのだった。

さて、最高の「家族写真」が撮られてしまった。小津安二郎監督作品はじめ多くの優れた「家族」を描いた映画・ドラマにおいて、「家族写真/記念写真」が幸せのピークを象徴するものとして示されていたことを思うと、6話とは打って変わって深刻そうな7話の予告が気になる。観山家、どうなる。

(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)

【第7話(3月5日[金]放送)あらすじ】
無事、家族旅行を終えた観山家一同。往路の息の詰まるような車中とは一変、大合唱をしながらの帰路となった。そして、寿三郎(西田敏行)は帰宅後すぐにリハビリを開始。忙しくなった舞(江口のりこ)と踊介(永山絢斗)はリモート介護に切り替え、稽古場では寿限無(桐谷健太)が体験入門のお弟子さんたちの稽古をつけるという日々が続いていた。

そんな中、ひとり暇を持て余していた寿一(長瀬智也)の元に、さくら(戸田恵梨香)がやってくる。旅行中にした告白の返事を聞いていないさくらは、寿一からの返事を待っていたのだ。しかし、寿一はその前にと、自分がスーパー世阿弥マシンであることをさくらに告白。話を上手くかわしたかのように思えたのも束の間、さくらから返事を催促され、寿一は返答に窮する。
日は変わり、元妻であるユカ(平岩紙)との秀生(羽村仁成)の親権を巡る話し合いのため、寿一はスーツ姿で踊介のミヤマ法律事務所へとやって来ていた。だが、寿一はその場でユカを怒らせてしまい・・・。

◆放送情報
金曜ドラマ『俺の家の話』
毎週金曜22:00よりTBS系で放送中。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信