TBSドラマ『俺の家の話』第4話。破天荒にもほどがあった父・寿三郎(西田敏行)に対する、兄弟たちによる渾身の「くそジジイ!」が4回繰り返された、超ヘビーな第4話であった。

それもそのはず、寿一(長瀬智也)の無二の親友であり、これまで寿三郎の芸養子として、観山家に尽くしてきた寿限無(桐谷健太)が、実は寿三郎の本当の息子だったことが判明したのである。死を前に、長年の罪の意識に耐えられず、寿限無の母・栄枝(美保純)と共に寿限無に真実を打ち明けた寿三郎。里帰り出産中の不倫、小池谷(尾美としのり)との『蒲田行進曲』を地で行くエピソード。視聴者的にも「くそジジイ!」と叫びたくなる展開である。

また、筋の良い秀生(羽村仁成)と比べられ、ひねくれる大州(道枝駿佑)に、かつての自分の姿を重ね、一肌脱ぐ寿一の回でもあった。本来なら兄弟が母の前で舞う『小袖曽我』を、親子である寿一と秀生が母・ユカ(平岩紙)の前で舞い、そこに、かつて寿一と寿限無の兄弟で舞った記憶が重なるのもまたよかった。

そして、車椅子の寿三郎と、それを押すさくら(戸田恵梨香)が表参道を『ビューティフルライフ』パロディで巡り、続いて寿一と大州が池袋を『池袋ウエストゲートパーク』パロディ(最高!)で巡り、さらには『逃げるは恥だが役に立つ』(共にTBS)がテロップで通過するオマージュ尽くしのお祭り回でもあった。

今回最大のテーマは、能の定期公演を前にした大州と秀生、そして、異母兄弟であることが判明した寿一と寿限無(桐谷健太)を通して描かれた「逃げる」ことについてである。寿一はかつて、寿限無と比べ自分が劣っていると感じ、「家を継ぐ」ことへの違和もあり、鬱屈した感情を抱いていたが、一旦「能からプロレスに逃げる」ことで自分の人生を切り開いた。「逃げるのも才能」だったのである。

今回扱われた能の演目『道成寺』は、本作の中でも触れられたように、「鐘の中から女が大蛇に化けて出てきて暴れだす」のがクライマックスなのであるが、そうなる根底には「ある娘に追われ逃げてきた山伏を、寺僧が撞き鐘を下ろして匿ったところ、毒蛇となった娘に見つかり、鐘もろとも焼き尽くされてしまった」という、住職によって語られる昔話がある。

『俺の家の話』第4話はこの『道成寺』を下敷きにした「逃がそうとする」寿一と秀生と、「うまく逃げることができた」大州、そして「逃げることができずに蛇になった」寿限無の物語なのではないか。

秀生が小道具の鐘の中に大州が隠れていると思って庇おうとし(本当は寿限無が隠れていた)、実際に寿一が大州を「逃がした」ことから、『俺の家の話』において、逃がす役割である「寺僧」を担ったのは、寿一と秀生の親子だった。

寿一と同じく「逃げる才能」があった大州は見事に「ダンスに逃げ」大会での優勝を果たした。
一方、「逃げる才能も勇気もないからコツコツやるしかなかった」寿限無は、育ての父ゆずりの「承知しました」の一言で全てを受け入れ、定期公演の日に積年の思いが爆発したのか、鐘の中に隠れ、密かに泣いていた。そして、出てきた瞬間、これまでの優しい笑顔を封印した寿限無は、誰よりも凄みのある声で「うるせえ、くそジジイ」と呟いたのであった。まるで、男を信じどこまでも待ち続けて、裏切られたばかりに、大蛇に変貌した『道成寺』の娘が乗り移ったように。

思えば4話は序盤から「哀しい女」の影がちらついていた。ガールズバーの女の子たちをドン引かせた、寿三郎がなぜかLINEで送りつける「浮舟」「御息所」の謡。そして、初回冒頭で「控えめ過ぎて顔も思い出せない」と寿一に切り捨てられて以来、ことごとく面をつけていて、素顔が隠されたままの寿一の母。この徹底した「母親不在」も気がかりである。

(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)

【第5話(2月19日[金]放送)あらすじ】
寿一(長瀬智也)と腹違いの兄弟であることが発覚した寿限無(桐谷健太)は、これまでの態度とは一変、遅めの反抗期を迎えていた。そして同じ頃、さくら(戸田恵梨香)は、スーパー世阿弥マシンの正体が寿一であることに確信めいたものを感じ、頭からそのことが離れない。

そんな中、寿一は寿三郎(西田敏行)との家族旅行の計画を立てていた。家族全員を参加させたい寿一は、卑屈になっている寿限無を連れ出し、無理矢理プロレスのリングに立たせる。そして、兄弟喧嘩と称し、寿限無のサンドバックになる寿一。だが、2人を追いかけてきたさくらが、寿一にあることを告げて・・・。

◆放送情報
金曜ドラマ『俺の家の話』
毎週金曜22:00よりTBS系で放送中。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信