なんだかいつの間にか日高(高橋一生)という人間に魅力を感じるようになってきた。表面上は、サイコパスのシリアルキラー。だけど、知れば知るほどそれだけではなくて。冷戦沈着な判断力。用意周到な計算力。ピンチが訪れるたびに、日高ならどう切り抜けるか。その鮮やかな機転に頼もしさと痛快ささえ抱くようになってきた。

彩子(綾瀬はるか)と日高の心理戦が視聴者を惹きこむ日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』(TBS系/毎週日曜21:00~)。第4話は、ついに彩子と日高がタッグを組み、絶妙な連携プレイを見せる回となった。

※以下、<>内は入れ替わった後の人物名

窮地に追い込まれた日高<彩子>が正義の心を取り戻した

「この際、2人仲良く地獄行きといきましょうよ」

覚悟を決めた日高<彩子>は、そう彩子<日高>に告げた。この言葉こそが、第4話のハイライトだろう。

元の体に戻ったところで、あなたはもう殺人者。地獄まで一蓮托生と言うように不敵な笑みを浮かべた彩子<日高>。日高<彩子>もまた自分の身を守るため彩子<日高>の言いなりにならざるを得なかった。

けれど、元来の彩子は無鉄砲だが使命感にあふれた正義の徒。悪は絶対に許せない人物だ。魂が入れ替わったことによって見失っていた正義の心を、日高<彩子>は取り戻した。そして証拠となる片手袋を材料に、彩子<日高>に交渉を持ちかけた。

「それが、あるべき世の姿なんだから」

日高<彩子>はそう続けた。口癖だった「べき」という言葉。彩子<日高>はそれを逆手に取り、このまま野放しにできないと怒りに燃える日高<彩子>を「じゃあ、私はむしろこのまま捕まるべきだと?」「世のためにはきっとそうするべき、なんですよね?」と嘲笑った。

そのとき、咄嗟に返答に窮した日高<彩子>が、やっとここで切り返せた。しかも、お得意の「べき」論で。そこに、姿形は変わっても決して変わることのない強情なまでの彩子の正義の魂が見えて、思わず快哉を叫びたくなった。

また、そうした日高<彩子>の心模様の変化を、町の警察官の姿にオーバーラップさせる演出もうまかったと思う。自分が逮捕されることしか頭になかった日高<彩子>は、街角で容疑者を連行する警察官を見たとき、手錠をかけられた容疑者の姿につい自分を重ねてしまった。

だけど、そのあと、道で倒れている老女を助ける警察官の姿を見たときに、日高<彩子>は思い出したのだ。自分は何がしたくて警察官になったのかを。困っている人を助けること。人の命を守ること。それこそが、自分の目指した警察官の姿だ。

だからもう一度、彩子<日高>と真っ向から対決する勇気を取り戻した。そしてその気迫が「だから私はあなたと入れ替わったんですよ」という彩子<日高>の声を引き出した。そう口にした彩子<日高>の目はかすかに光るものをたたえていて、ずっと探していた旧友に再会したような表情だった。

やっぱり日高は運命を共にするパートナーを探していたのではないかという気がする。そこからの、河原(北村一輝)が仕掛けた罠を返り討ちにする2人の作戦はもはやバディもののドラマを観ているような気持ち良ささえあった。

こうした彩子<日高>の頭脳は目を見張るものがあり、「では、あえてばっちり私だと証言してもらうことにしましょうか」と閃く表情は、シリアルキラーというより、名探偵さながら。河原の前であえて狼狽した様子を見せるなど白々しい猿芝居を売っているさまに、ついニヤニヤしてしまいそうだった。

それでいて、歩道橋の下で日高<彩子>を見つけたときの虚をつかれたような顔は、「日高陽斗という人間を知りたいからよ」と言われたときの、寂しさがほんの一瞬こぼれたような表情は、初めて彩子<日高>が見せた人間らしさにも見えた。

私たちの知らない重大な何かを抱えている日高。彩子の存在は日高を救うものとなるのか。この先の展開を楽しみに待ちたい。

名前に隠された数字の秘密と、コインロッカーの目的は?

一方、彩子<日高>が歩道橋で見つけた「4」の数字は、殺された四方忠良(小笠原治夫)の「4」を意味していたようだ。第1話で殺された田所仁志(井上肇)は「2」、そして3年前に発生した横浜法務省官僚殺人事件の被害者・一ノ瀬正造(小山かつひろ)は「1」とどれも数字がついている。あの「4」は、日高のリストの中から「4」のつく者を殺すという殺人予告だったのか。

となると、やはり気になってくるのは、各登場人物に振り当てられた数字だ。河原三雄、八巻英雄(溝端淳平)、五木樹里(中村ゆり)など、メインキャラクターの名前には何かしら数字が含まれている。陸(柄本佑)も「六」の大字なので、「6」と見ていいだろう。もしかしたらいずれこの中の誰かが黒幕の手にかかってしまうのか。

そして、今回大きくクローズアップされたのは、彩子<日高>が利用しているコインロッカーだ。最初はただ証拠品を隠すためにあのコインロッカーを利用しているのだと思っていたが、今回、彩子<日高>は青い矢印型の付箋をコインロッカーのヘリの部分に置いた。

他の誰かが扉を開ければ、あの付箋が落ちる。つまり、誰かが扉を開けたかどうかをチェックするための仕掛けだと思うのだけど、そもそも鍵を持っているのは彩子<日高>自身。他の誰かが開けられるはずがないので、そんな小細工をする目的がわからない。やはり彩子<日高>には、誰か他につながっている人物がいるのだろうか。

そして、彩子<日高>がコインロッカーに何か隠しているのを目撃してしまった陸。彩子<日高>にいちばん近い存在だけに、今後の身がちょっと心配だ。どうでもいいけど、ちょっと陸は都合よくなんでも目撃しすぎじゃないだろうか。『家政婦は見た!』よりよく見てる。陸には便利屋を辞めて、今すぐ大沢家政婦紹介所に就職することをお勧めします。

(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)

【第5話(2月14日[日]放送)あらすじ】
※<>内は入れ替わった後の人物名

彩子(綾瀬はるか)は周囲から話を聞くうちに、日高(高橋一生)という人間がわからなくなっていた。彼の評判はサイコ・キラーとは程遠いものばかりなのだ。もしかして彼は誰かを守るために殺人を犯しているのか? それとも、そもそも犯人ではないのか──。

そんな日高<彩子>を訪ねて、陸(柄本佑)が突然やって来た。陸は同居人である彩子<日高>の最近の行動を不審に思い、偶然見てしまった彼女が利用しているコインロッカーが気になり、中を勝手に調べたところ、日高宛の手紙を見つけたため会いに来たという。

同じ頃、コ・アース社は大騒ぎになっていた。日高社長が連続殺人の容疑者であることや事件に関する詳細など、警察が公表していない情報がSNS上に拡散され、ネガティブキャンペーンが巻き起こっていたのだ。捜査情報を漏洩したのは一体誰なのか?

一方、強引かつ不当な捜査が上司にバレて第一線からはずされていた河原(北村一輝)は、相変わらず彩子と日高のつながりを疑っていた。そのつながりを調べる過程で、ある漫画のキャラクターに行きつき・・・。

◆放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
毎週日曜21:00よりTBS系で放送
地上波放送後には動画配信サービス「Paravi」でも配信。