と言っても、最初はどんなドラマなのか正直、想像しがたかった。大人が小学三年生を演じるというのは、どういう意味なのか。いまどきの子役はたいてい演技が達者なのに、なぜあえて大人が? しかも、「入れ替わり」でも「タイムスリップ」でもなく、普通に小学生を演じるということ?
ところが、実際にドラマを観ると、彼らが普通に小学生に見えることに、思わずクスリとさせられる。大きな体に小さすぎるランドセルを背負っているのに、場合によってはヒゲすら生えているのに(※竹原ピストル)、この違和感のなさは何なのだろう。
杉野が演じる直ちゃんは、純粋で真っすぐで、子どもらしい子どもだ。だからこそ、ときどきKYさを発揮してしまう。
身体のことを男子たちにからかわれた同級生の女子に対して、「目立たないように」と自分の母親のブラジャーを渡す気配りには、思わずクラクラしてしまった。これはもちろん直ちゃんにとっては良かれと思ってのことであり、なんなら紳士的な気配りなのだろうけれど、同級生男子にそのお母さんのブラジャーを目の前でヒラヒラされる女子の立場だったら、あまりのデリカシーのなさにぶっ飛ばしたくなることだろう。
また、水泳をサボりたくて、「行ったフリ」として公園で海パンを履いたまま濡らすという浅はかな作戦を思いつくも、海パンのヒモがきつく結ばれてしまっていて、脱げなくなり、冬なのにずっと海パンで過ごすようなアホくささもある。
また、渡邊圭祐が演じるきんべは、金持ちで他の子たちより賢く、時折難しい言葉を使ったりするが、おそらくおバカなケンカ経験値が乏しいために、真新しいスニーカーを友人・てつちん(前原滉)に貸してと言われても、断れず、挙句ドロドロにされてしまい、うまく怒りを表現できずに「絶交」してしまうような面もある。
また、貧乏な少年・てつちん(前原)は、デリカシーの欠片もないガサツな性格で、借りたモノも汚すし、人に言ってはいけないことをサラリと口にするような面がある。しかし、絶妙な愛嬌があって、みんな怒りもせずに許していることが多い。
また、ヒゲの竹原ピストルが演じるのは、一番優しく泣き虫な少年・山ちょだ。その優しさにつけこまれ、多数決で女子側につくようお菓子などで買収するターゲットにされたり、ジャングルジムから飛び降りる対決を見ながら、本気で「死んじゃうよ!」と心配して泣きそうになったりする。
かと思えば、将来の夢が「お花屋さん」というだけで、きんべやてつちんに「男らしくない」「気持ち悪い」と言われてしまうこともある。
他にも、大金が入っているかもしれないICカードを拾って駄菓子屋で使おうとしたり、親たちの電話に聞き耳を立て、給食費を払わないという同級生の家について「貧乏じゃないのに、払わなくて良いって言ってるんだって」と噂話をしたり、山ちょやクラスメイトの「名前が途中で変わったこと」を「親がスパイ」「親が離婚」などと噂したり・・・。
この作品の魅力は、「子ども=天使」として描いていないこと。実際の小学三年生は確かに、無邪気で可愛いところがある半面、はしゃいでいた直後にテンションがダダ下がりして帰ってしまうようなややこしさがあったり、他者に対して悪気なくズケズケ思ったことを言ったり聞いたり、ときどき軽い「モンスター」だったりする。
だからこそ、観ながら「ああ、聞いちゃった・・・」「やっちゃった・・・」と思うこと、しばしば。しかし、そのどれも、自身の記憶の中でうっすら身に覚えがあったり、今思うと胸がチクチクして懺悔の気持ちになることがあったり。
なんなら、いじめっこのクラスメイト「タケモン(平埜生成)」が、親の離婚で苗字が「郷」にかわり、下の名前が「ヒロミチ」であることから「ゴウヒロミチ」になったくだりなどは、大人である今もやっぱり心の中で「ゴウヒロミチ・・・(絶妙に惜しい!)」と思ってしまいそうでもある。
そして、視聴者にそうしたさまざまな思いを喚起させるのは、直ちゃんたちが子どもではなく、さまざまな経験を経ている大人が演じているからこそのことだろう。
そうしたさまざまな失敗・失言・失態を繰り返しながら人は大人になっていくものだということを、恥ずかしさや反省を伴いつつも思い出させてくれる『直ちゃんは小学三年生』。
天使を描くわけではなく、ノスタルジーでもなく、笑いと気づきと、ときに反省と、懐かしい日々への愛おしさとがごった煮になってさまざまな感情が呼び覚まされる、いとも不思議な物語なのだ。
(文・田幸和歌子/イラスト・まつもとりえこ)
【第5話(2月5日[金]放送)あらすじ】
公園で、水鉄砲で遊ぶ直ちゃん(杉野遥亮)たち4人。しかし鼻水が止まらなくなった山ちょ(竹原ピストル)はひとり帰ってしまう。その後、直ちゃんたち3人が駄菓子屋に行くと、店主"パリばあ"の訃報の知らせが。そして翌日、きんべ(渡邊圭祐)が飼っていたハムスターが亡くなり、さらにてつちん(前原滉)の金魚も・・・。嫌な予感が止まらない直ちゃん。これはパリばあの呪いなのか・・・?3人は胸騒ぎがして、山ちょの元へ向かう――。
◆番組情報
『直ちゃんは小学三年生』
毎週金曜深夜0:52からテレビ東京ほかにて放送
動画配信サービス「Paravi」では先行配信中。
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