「俺たちは何と戦ってるんだろうな」

香取慎吾5年ぶりの民放ドラマ出演作となるドラマ『アノニマス~警視庁指殺人対策室~』が面白い。プロデュースを手掛けたのは、『バイプレイヤーズ』シリーズ、『GIVER 復讐の贈与者』、『フルーツ宅配便』、『40万キロかなたの恋』(共にテレビ東京)など挑戦的で良質な作品を多く手掛ける濱谷晃一。毎話回想シーンにおいて強烈な印象を残す、シム・ウンギョンの特別出演に加え、NHK大河ドラマ『新選組!』(2004年)以来の香取の盟友である、山本耕史との迫真の対立シーンも見ものである。

映画『凪待ち』に続き、香取慎吾のパブリックイメージである「明るさ」を完全封印した主人公・万丞渉は、彼自身も相棒・倉木(シム・ウンギョン)を守れなかったという自責の念を抱えながら、インターネットの誹謗中傷により起こる悲劇の連鎖、そして、そこにいる人々の苦しみと対峙する。

タイトルの「アノニマス」とは「匿名」のこと。日本はネット上の匿名比率が7割と、他国に比べて顕著に高い匿名大国であることが、初回冒頭アナウンスされる。匿名だからこそ、見えない悪意が巨大な化け物となって、特定の人を攻撃する。このドラマは、インターネットの誹謗中傷や炎上などが、人の心を壊し、命を奪ってしまう、キーボードによる殺人「指殺人」が社会問題となる現在、それらに対応するために警視庁に新設された「指殺人対策室(通称・指対)」という架空の部署を舞台として、見えない悪意の根源を追ったドラマだ。

野木亜紀子脚本のドラマ『フェイクニュース』(NHK)や、井上由美子脚本のドラマ『炎上弁護人』(NHK)など、インターネットによる誹謗中傷や炎上をテーマにした良質な特別ドラマは多いが、1クールの連続ドラマとしてガッツリ向き合ったテレビドラマは本作が初めてであると言えるだろう。

SNSによる誹謗中傷を苦にした有名人の自殺、親族なりすまし動画、土下座強要動画と画像分析による人物特定とそれが生むデマ情報、人気「検索ワード」を繋げることで1記事200円(実質160円)の記事を量産するこたつ記事ライター等、視聴者の記憶に新しい、リアルタイムで起きているさまざまな事象が物語の中に織り込まれているのも興味深い。

また「上級国民」「年収1000万円以上」というワードに過剰に反応するネットユーザーや、悪意なく、デマ情報を多く織り込んだ量産記事を作るライターが「今日は頑張ったから唐揚げ弁当にしよう」と思うだけというギリギリの現状を語り「文句を言うなら再就職先見つけて」と返すシビアさから浮かび上がってくる、日本の貧困、分断もまた深刻である。

匿名による悪意の裏には、それを捌け口にしないと生きていけない、現代を生きる人々の現状がある。事件の真相を追えば追うほど深くなっていく現代の闇を前に、新設された部署であるためにまだ手探り状態の主人公たちは時に途方に暮れ、「俺たちは何と戦ってるんだろうな」と呟く。

そんな底知れぬ現代、及びデジタル社会と対峙する、香取演じる主人公・万丞渉は、アナログ人間である。ペーパーレス化を推進する社内において、頑なに印刷して紙の資料を読み込み、タブレットや地図アプリを用いず、使い古した分厚い手帳と紙の地図を持ち歩いている。1話において、街を歩く人々が皆スマホを向いて俯いている中、夜道を颯爽と歩く万丞の姿は、インターネットの情報に左右されてばかりの私たちに見えていないものが見えているかのようだ。

常に「逮捕しましょう!」と息巻く、万丞の相棒であり本作のキュートで、ちょっとばかり危なっかしいヒロイン、碓氷咲良(関水渚)との、ベテランと若手、静と動の「凸凹コンビ」としての絶妙なコンビネーションも見どころだ。碓氷だけでなく、特定担当・菅沼(MEGUMI)やホワイトハッカー・四宮(清水尋也)、気弱な上司・越谷(勝村政信)と、「デジタル」に強い個性派の「指対」メンバーに対して、元捜査一課のキレ者刑事ならではの、時に「アナログ」で真っ直ぐな視点と的確な指示は、常に事件の本質を見抜く。

「強い人間なんていない。あなたが思っている以上に人は脆いものなんだ」。万丞は1話においてそう言った。このドラマが描くのは「人の脆さ」だ。1話では、誹謗中傷に苦しんで自殺したモデルの卵・梢(八木莉可子)の両親(松平健/床嶋佳子)が、ネット上の謂れのない「母親犯人疑惑」に追い詰められ、自責の念に駆られる姿が描かれた。2話においても、ネットで拡散されたデマ情報を発端に、平穏に暮らしていたカップル(深川麻衣/田中俊介)のそれぞれ隠していた過去が明るみになり、それによって追い詰められる姿が描かれた。誰もが人には言えない過去を、「あの時もっとこうしていれば」という負い目を抱えて生きている。

それは、各話の登場人物たちに限らない。相棒を救えなかった過去とその負い目を抱える万丞と、笑顔が陰り、一瞬過去がフラッシュバックして立ち止まるほどの深い悲しみと何らかの負い目を抱えているのだろう碓氷という、事件と向き合う側の主人公たちも同じだ。

彼らの過去含め、このドラマには全体を通した謎が多い。例えば、万丞の元相棒・倉木の事件の真相。万丞が殊更大切そうに持っている、倉木から手渡されたと思われるルアー。警察内部でしか知りえない情報をインターネット上で明るみにすることで私的制裁を行う「アノニマス」の正体は誰か。

そして、現代社会に蔓延る底知れぬ悪意と対峙する主人公たちが「心の殺人」をいかに裁くのか。
このドラマは問いかける。「考えろ、自分で考えろ」と。

(文・藤原奈緒)

【第3話(2月8日[月]放送)あらすじ】

高校生・片山蓮(青木柚)によるホームレス殺害事件・・・1カ月後、蓮の個人情報が特定、ネット上で晒されたことで大きな話題となっていた。事実とは異なるひどい中傷も多く、蓮の父・遼太郎(戸田昌宏)は、「指殺人対策室」に最初に情報を晒した犯人を捕まえてほしいと依頼。万丞渉(香取慎吾)と碓氷咲良(関水渚)は早速捜査にあたるが、交友関係を調べるうちに蓮の本性が浮き彫りになっていく。

◆放送情報
『アノニマス~警視庁"指殺人"対策室~』
毎週月曜22:00からテレビ東京系で放送中。
放送終了後には「Paravi(パラビ)」で配信中。
また、「Paravi」では、オリジナルストーリー『アノニマチュ!~恋の指相撲対策室~』が独占配信されている。