「俺なんか一度も、一度も褒められたことないのに!」

なんだか、男たちがかわいい。長瀬智也演じる主人公・寿一と、西田敏行演じる父・寿三郎、そして、羽村仁成(ジャニーズJr)演じる寿一の息子・秀生、3人の物語だったTBSドラマ『俺の家の話』2話である。

2話において何よりの問題は「お金がない」ことだった。

ワキ方、狂言方、囃子方、裏方への報酬はシテ方が支払うのが通例である能の世界において、シテ方の流派である観山家は、宗家が倒れたことにより赤字続きであり、一番弟子の寿限無(桐谷健太)がこっそりフードデリバリーのアルバイトを始めなければならないほどに財政が逼迫していた。

プロレスラーを引退し、父の介護を始めたことにより収入ゼロの状況にある寿一も同様であり、息子の養育費も支払えない。困った末に、疑惑の女・さくら(戸田恵梨香)から10万円を借りてしまう。その借りた10万円への後ろめたさから、代打として再びのリング出場を果たしてしまい、その間一人になった寿三郎が家で転倒、帰宅した寿限無がそれを発見するというスリリングな展開で終わった。

さて、今回如実に見えてきたのは、純粋な男たちとシビアな女たちという構図。さくらは、踊介(永山絢斗)が目撃したネットでの疑惑の通り、余命幾ばくもない老人たちに寄り添い、献身的な介護をすることで、結果的に多くの遺産を受け取っていた。「さくらちゃんがいるから頑張れる」と、さくらへの恋を原動力に日々を過ごす寿三郎に対し、さくらは彼が複数いた老人の中の一人に過ぎないことをあっさりと認め、自分のことを「寂しい老人を慰めてそれに見合った対価をいただくだけの女」と言い放つ。得たお金は全部自分のために使ったというのも清々しい。

一方の寿一と元妻・ユカ(平岩紙)とのやり取りも興味深かった。「ユカちゃん、かけようか?寿固め」とユカが喜ぶことを期待して微笑む寿一に対して、スルーを決め込むユカ。恐らく「ブリザード寿」のファンだっただろう元妻に対して離婚した今も尚甘いムードを期待する「変わらない」寿一と違い、寿一の「0からの出直し」の覚悟を「自分に酔っているだけ」とバッサリ切り捨て、養育費の猶予を頑として認めないシングルマザーのユカの時計は、前へ前へと進んでいるのである。

そして、そんな女たちに傷つく父親を慰める息子たちもまたいい。風呂場で父・寿三郎の失恋を慰める息子・寿一(10分後には失恋したこと自体忘れているのだが)。そして、ユカに結婚を想定した新しい恋人がいることを、父・寿一を気遣って内緒にしている秀生。

多動症と学習障害を抱える秀生が、能に興味を示し、寿三郎がその才能を見出していくのも興味深い展開だった。息子の才能を喜ぶ一方で、幼い頃から一貫して変わらず、父・寿三郎に褒められたい盛りの寿一は、息子が寿三郎に手放しで褒められていることに対して、嫉妬に近い感情も抑えきれない。

親でありながら親離れできていない「いびつな大人」。寿一がそんな自分に対して言った言葉は、どんなに年を取っても心の根っこは変わらないままの、大人たちの誰もが思っていることなのかもしれない。「元気なのか元気じゃないのかはっきりし」ない、「多少元気」な老人・寿三郎もまた、同じであるように。

「高砂」を見事に舞い、門弟たちに認められ、寿限無に「おかえりなさい」と言われた二十八世観山流宗家の継承者としての寿一。一方、代打でリングに再び立ち、プリティ原(井之脇海)に「おかえりなさい」と言われた、元プロレスラーとしての寿一。血縁である観山家と、血の繋がりはなくとも、「俺の求める完全な家族の姿がそこにあった」というほど結びつきの強いプロレスの仲間たちとの間で、彼は何を思うのか。3話を楽しみにしたい。

(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)

【第3話(2月5日[金]放送)あらすじ】

観山寿一(長瀬智也)はさくら(戸田恵梨香)に借りた10万円を返すため、スーパー多摩自マンに扮してリングに上がる。試合を終え、急いで帰路につく寿一の元に、寿限無(桐谷健太)から一本の電話がかかってきた。それは、寿三郎(西田敏行)が廊下で転び病院へ運ばれたという内容で、寿一は慌てて病院に駆けつける。自分が目を離した隙の出来事に言い訳できない寿一は、さくらや踊介(永山絢斗)、舞(江口のりこ)からの追及にただ謝ることしかできなかった。

そんな中、寿三郎は残りの人生を楽しむため、さくらとエンディングノートを作る。エンディングノートから父の願いを知った寿一は、家族に内緒でプロレスラー復帰を決意し・・・。

◆放送情報
金曜ドラマ『俺の家の話』
毎週金曜22:00よりTBS系で放送中。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信。