お願いだから八巻(溝端淳平)が殺されませんように!
第2話で早くも彩子(綾瀬はるか)と日高(高橋一生)の魂が入れ替わったことに気づく者が現れた日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』(TBS系/毎週日曜21:00~)。終盤はじんわり胸が熱くなりながらも、ヒヤヒヤされっぱなしだった。

※以下、<>内は入れ替わった後の人物名

彩子<日高>はなぜあんなに化粧が上手なのだろうか

とにかく日高<彩子>と彩子<日高>の対決がスリリング。特に日高の自宅での駆け引きは、心臓が早鐘を打つ面白さだった。

刑事と容疑者。相反する立場のはずが、魂が入れ替わってしまったがために芽生えた奇妙な協力体制。日高<彩子>は彩子<日高>と連携をとり、なんとか家宅捜索を切り抜ける。しかし、その後も秘書の樹里(中村ゆり)の呼び名がわからなかったり、会議に出ても専門用語が多すぎてついていけなかったり、すっかりパニック状態だ。

基本路線はサスペンス。けれど、お風呂でつい体の大切なところを見てしまうという、入れ替わりものとしては定番のネタもきっちり盛り込んでくる。シリアスとコメディのバランスが絶妙なので、ケラケラと笑いながら観られるのが、本作の特徴だ。エッチなシーンを観て、つい体が反応してしまうところなど、高橋一生のキュートな演技と、ホイッスルの効果音が相まって、殺人容疑という差し迫った事情を一瞬忘れてしまいそうになるくらい面白い。

慣れない生活に一苦労の日高<彩子>に対し、彩子<日高>は堂々たるもの。マスクだけでデスクの位置を当て、雰囲気が変わったという周囲の指摘にも「路線変更」の一言で終了。同居人の陸(柄本佑)のこともすっかり手玉に取っているように見える。

ただ、ここで気になるのは、入れ替わり後すぐに彩子<日高>が化粧をしたことだ。一般的に考えて、男性は化粧に不慣れ。口紅を塗るのも覚束ないし、ましてやアイメイクなんて至難のワザ。けれど、見る限り彩子<日高>はメイクも手慣れたものだった。なぜ彩子<日高>はあんなに器用に化粧ができるのか。もしかしたら以前にも女性として生活をしたことがあるのかもしれない。

彩子<日高>のあの笑みは、日高<彩子>を認めた証か

そもそもこの入れ替わり生活は、圧倒的に日高<彩子>の方が分が悪い。もし日高<彩子>が逮捕されれば、その時点でゲームオーバー。けれど、彩子<日高>は本来の自分が捕まってしまうというバツの悪さはあるものの、無罪放免、自由に生活することができる。常にゲームの主導権は、彩子<日高>の手の中。日高<彩子>はそんな不利な状況から形勢を逆転しなければいけない。

そのアンバランスな構図が浮き彫りになったのが、日高の自宅での対決シーンだった。ナッツアレルギーであることを知らず、彩子<日高>が持ってきたナッツを口にしてしまった日高<彩子>は、アナフィラキシーショックを起こし、命の危機に瀕する。それを横目で見ながら、殺人の容疑をかけられた日高<彩子>が死をもって抗議したというふうに見せかけようかと笑う彩子<日高>。人の命など何とも思っていないような口ぶりだ。

だが、日高<彩子>も負けてはいない。非常ボタンに指をかけ、「こういうマンションってすぐ人が来るんでしょ。自殺に見せかける暇なんてないから」と彩子<日高>を脅し返す。決してやられっぱなしのか弱いヒロインなんかじゃない。そのしぶといほどのたくましさで、一気に彩子本来の魅力を視聴者にも植えつけたと思う。

このシーンは、綾瀬はるかの企みに満ちた笑顔が鮮烈だった。嬉々と死刑宣告を読み上げるような余裕漂う口調もさることながら、非常ボタンに指をかけた日高<彩子>を見るときの、ゾクゾクとするような笑みがたまらない。ゲームで言えばチェックメイトをかけたはずが、それを切り返された恰好だ。それなのに、悔しがるどころか、むしろ楽しんでいるようにすら見える。しかも、その楽しんでいる顔が、いわゆる典型的なサイコパスのそれとは違う。そう来なくちゃ面白くない。なんならば、この異常事態を共に乗り切るパートナーとして、日高<彩子>を認めたと思わせるような顔だ。

パブリックイメージは天然ボケ。演じる役柄も、『ホタルノヒカリ』(日本テレビ系)や映画『ハッピーフライト』のように愛嬌のある女性像が印象的な綾瀬だが、『白夜行』(TBS系)のような本心の読めない悪女を魅力的に演じられる幅の広さも持ち合わせている。そんな綾瀬の女優としての奥行きを、本作ではたっぷり楽しませてもらえそうだ。

彩子<日高>の正体は月か?それとも太陽か?

そして、緊迫感ある心理戦で視聴者の心を揺さぶりながら、今回最大の見せ場となったのは直後の八巻の"事情聴取"のシーン。日高の自宅を訪ねた八巻は、2人しか知り得ないことを日高<彩子>に尋ねることで、彩子と日高の魂が入れ替わったことを確認する。

このシーンの、孤独と不安がほどけていくような日高<彩子>の涙が、同じようにきゅっと体を強張らせていた視聴者の背筋を優しく解きほぐすようだった。誰にも本当のことを言えない。誰も自分を助けてくれない。その状況はどれほど心許なかっただろうか。直前にナッツを壁にぶつけて叫ぶ日高<彩子>のシーンを入れることで、より一層、このインターフォン越しの"事情聴取"が胸に迫った。

高橋の喉がきゅっと締まったような泣き方もリアルだったし、溝端の忠犬感も視聴者の心をじんわり温かくさせた。「お手柄だよ、八巻」も第1話の「八巻、お手柄」とリンクしていてうまい台詞だったし、インターフォンの画面を撫でる演出もいいアイデアだった。あれは、そんな意図はないのかもしれないけれど、Zoom越しで会話をすることが増えた最近の僕たちの心に一層響く名演出だったと思う。

ただ、ここで気になるのが、入れ替わりを知ってしまった八巻の命運だ。インターフォン越しに会話をしているときも、突如後ろから誰かに襲われるんじゃないかとヒヤヒヤしてしまった。いい愛され感を発揮しているので、なんとしてでも八巻には無事に生き延びてほしい。

気になると言えば、なんだかんだ言いつつも日高<彩子>に協力的な彩子<日高>の本心だ。化粧をした後に太陽を見上げ、それをコンパクトの鏡で反射させたときの、何かすがるような顔。歩道橋の上で少し欠けた月を見上げたときの想いを馳せた顔。彩子<日高>にとって太陽と月はどんな意味を持つのだろうか。

奄美大島に伝わる「月と太陽の伝説」では、シヤカナローの花は月のお腹の上に咲いたという。しかし、太陽はそれを月から盗み、昼に輝く権利を得た。彩子<日高>は太陽と月、どちらに自分を見ているのだろうか。本来は太陽になるはずだったのに、それを奪われてしまった月の嘆きなのか。太陽からシヤカナローの花を盗み、偽りの昼に輝く月の罪なのか。彩子<日高>の過去が今後の焦点となる。

そして、日高<彩子>が自宅で見つけた『暗闇の清掃人』は誰が描いたものなのか。はたして「清掃」したものは何なのか。考えれば考えるほど、迷宮に迷い込んだ気持ちになる。どうやらすっかり制作者の術中にはまっているようだ。

(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)

【第3話(1月31日[日]放送)あらすじ】
※<>内は入れ替わった後の人物名

彩子(綾瀬はるか)と日高(高橋一生)の魂が入れ替わったことに八巻(溝端淳平)が気づいた。味方ができた日高<彩子>は、藁にもすがる思いで今後どうするかを八巻に相談する。

まず急がなければいけないのは、日高が捨てた革の手袋を河原(北村一輝)ら警察よりも先に手に入れることだ。もしも手袋から日高の指紋と被害者のDNAが検出されれば、自分が捕まってしまう。

そこで、警察が手袋を見つけた段階で、八巻がこっそり別の手袋とすり替える作戦を立てる。入れ替わってもなお日高を捕まえることを諦めない彩子。しかし、彩子<日高>はそんな日高<彩子>の考えなど見抜いていたようで・・・。

警察では、河原が拾得物の中から革手袋を集めていた。そして、集まった大量の手袋を鑑識部屋に持ち込むと、そこにはなぜか彩子<日高>の姿が。鑑識の新田(林泰文)を手伝いに来たというが、はたして真の狙いは・・・。

そんな中、「太陽と月の入れ替わり伝説」に出てくるシヤカナローという花を見つければ、自分も元に戻れるかもしれないと考えた日高<彩子>は、その伝説が言い伝えられている奄美大島へと渡る。そして、その奄美で日高に纏わる意外な足跡をつかむ。

◆放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
毎週日曜21:00よりTBS系で放送
地上波放送後には動画配信サービス「Paravi」でも配信。