――"主演・長瀬智也、脚本・宮藤官九郎"というタッグは、TBSドラマでは、『池袋ウエストゲートパーク』(2000年4月期)、『タイガー&ドラゴン』(2005年4月期)、『うぬぼれ刑事』(2010年7月期)がありますが、改めてこのタッグでの今作にかける想いをお聞かせください。
どんなときも一緒だったけど、どんなときも自分が"面白いな"と思えるものを作りたいと思っていて。宮藤さんもその想いは一緒で。タッグとしては20年ぐらいの時間を経てきたので、"今回はどんなものができるのかな"と自分たちが宝箱を開けるような・・・そんな想いがあります。だって、こういう形でプロレスが題材になるドラマって、俺は日本では見たことなかったし。良くも悪くも、何かが壊せるような気がしてるので、そういうところが楽しみな気持ちはあるかな。
また宮藤さんとできるというのは何かの縁だと思うし、このタッグを少なからず面白いと思ってくれてきた人たちがいると思うので、そういう方たちのためにやるのかなと思ってます。その中に、僕も宮藤さんもいるのかなとも。自分たちが面白いと思えるようなそんなドラマができればいいと思ってます。
――宮藤さん、長瀬さん、磯山晶プロデューサーで時間をかけて打ち合わせをしたと伺いましたが。どんな流れで『俺の家の話』の土台ができあがったんでしょうか?
僕がまず宮藤さんに言ったのは、「(宮藤さんとの作品で)親子の役はやったことないな」ということでした。僕の年ぐらいになると、仲間にはみんな子供がいるんですよ。自分もそんな年になったんだなって。僕なりに親になった仲間を見て、その子供と自分が接したりもする中で、教育とかね・・・そんな社会的なことが言いたいわけじゃないんだけど(笑)。
テレビのニュースを見ていても、教育について少なからず思うことがあって。その思ったことを言葉にするのは、僕の中ではタブーなんですよ。メッセージって、ドラマやお芝居や歌とか、そういうことで表現するから、活きるんだと思う。伝えたい何かっていうのは、言葉にしちゃったら元も子もない。ドラマであれば、お芝居で、見た人に感じてもらうことが役者の一番の仕事なんじゃないかなって。
僕が思うこと、伝えたいメッセージは、ドラマの中のレスラーであり1人の子の父でもある寿一が、自分の子を立派に育て上げることによって、乗ったらいいよねと。これを最初に宮藤さんにお伝えしました。
――寿一の小5の息子、秀生(羽村仁成)には学習障害がありますね。
学習障害、発達障害・・・ハンディキャップっていうのはマイナスに限らず、考え方によっちゃプラスになるんじゃいかなって思うんです。例えば、発達障害で算数はできないけど、引き算だけは他の誰にも負けないぐらいできるヤツがいたとして、引き算だけを追求していったら他の計算ができるヤツ以上に計算のスペシャリストになるんじゃないかなって。「引き算やろう!」という気持ちがあれば、そういうこともあるんじゃないかって。
その子の気持ちは、言葉で言うことではなくて。秀生のことも、彼とその家族のお芝居を見て、どう思うかどうか。そこは全く突き刺さらない人もいるだろうし、突き刺さる人にとっては120%ズドーン!!って胸を打つんじゃないかなと思うんです。
宮藤さんとの作品ってそれでいいんじゃないかと思ってるんです。お互いそういうふうに思いながらやってきたところがあるんですよね。『俺の家の話』は、その、集大成のような・・・今の自分の年でできること、伝えられることなんじゃないかなと思います。
僕のそんな話から宮藤さんが肉付けしてくれて、そんな作品を「ドラマでやろう!」と言ってくれたのが磯山さんだけだったんです(笑"。・・・ありがたかったですね。僕の気持ちを汲んでわかってくれる人、面白いと思ってくれる人が近くにいたんです。宮藤さんと磯山さんが。少数でもいてくれたことが僕には嬉しかったし、心強かったです。
――(長瀬さんが演じる)寿一の実家は、全国に一万人以上の門弟を持つ二十七世観山流宗家。父・観山寿三郎(西田敏行)は重要無形文化財「能楽」保持者の、いわゆる人間国宝ですよね。プロレスラーの寿一は、父の危篤の知らせに、家に戻りますが。能とプロレス、一見、何の交わりのない真逆の世界が、ドラマの中で共存することについてはどう思われますか?
そこはもう、宮藤さんの素晴らしいところだと思います。僕は宮藤さんから聞かされる設定にハッと気づかされることが多々あるんですけど、。おっしゃったように、"能"と"プロレス"、真逆なんですよね。まさに静と動。でも、どちらもエンターテイメントである1つの軸で。方や600年、700年前に生まれた伝統芸能、方や60年70年前に生まれたプロレス。生まれた国も文化も違うけど、人を楽しませるということだけは一緒なんですよ。そういう意味では、僕らがやってることも一緒かなと思うんですけど。
いろんなことを考えさせられる題材、設定ですね。能ひとつ取っても、"何であんな台詞の言い方なんだろう?"とか。極力動かないことで何かを表現するってことについても、興味深い。方やプロレスは、感情剥き出しにして、動きまくるけど、もしかしたらパワーとしては能のほうがあるんじゃないか、なんて思ったりもしました(笑)。どれだけ動かないで止まっているか・・・その人間の中身のエネルギーを考えたら、発散してる人間よりも内面で沸々としてるパワーのほうがすごいのかも、って。
――確かに。動かないでいることも、体力が要りそうです。
ですよね。伝統芸能って伝承していくことも大事だし、伝承を続けていくことも大事。今、そのどちらも大事にしなきゃいけない時代だと思っていて。今の若い子たちは能をよく見に行くかって言ったら、そうじゃないと思うけど・・・僕自身もね、今回、能という伝統芸能に改めて触れてみて、僕なりに受けた感動をドラマで表現できたらいいと思っているんです。それはもちろんプロレスも。
そういうところにドラマを作る、宮藤さんのセンス! だから、能とプロレスと言われても、僕は何も言わずに"なってやろう"って思いました。アイドルプロダクションに所属してるのに、"レスラー役はちょっと!"とは・・・なりませんでしたし(笑)。
偶然にも僕ら世代は、プロレスに触れてきた世代でもあるので、そういうことも含め、何かアウトプットできたらいいなと思ってます。
――『俺の家の話』が伝えてくる大事な何かが、長瀬さんの中にもう存在してる?
すでに、突き刺さってる! それを僕の体の中に入れて、寿一という役を演じれば絶対何かが生まれるって思ってます。その大事な何かはおそらく、僕らがやってる仕事にも・・・それ以上に世界に通ずるものがあると思うので、響いてくれたらいいなって。
――最後に、楽しみに待っている視聴者の方々へひと言お願いします。
なんだろう~(笑)。・・・あんまりね、面白いから見てくれてとか、言いたくないんですよね(笑)。
メシ何を食べるかは、食べたい人が決めるものだから。でも、オリジナルなことをアホみたいに考えてるごはん屋さんが、ウマくないことなんて絶対ないと思うんですよ。味はイマイチだったとしても、何かしら惹かれるギミックがあったりとか! 何か意味があると思うんです。きっと僕らの作品もそうで、誰かにとっちゃ面白くないものかもしれないけど、きっと、誰にも想像がつかないところに面白味がある。
見る人たちの期待を裏切ることも、表現者のひとつの武器なんです。気になったらぜひ見て欲しいです。見たからには絶対損はさせないです! ただそれだけです。・・・ちょっとレスラーっぽいっしょ(笑))。挑発するようで・・・アハハハハハ!
◆放送情報
『俺の家の話』
1月22日(金)22:00からTBS系で放送開始。(※初回は15分拡大)
地上波放送後には動画配信サービス「Paravi」でも配信される。
(C)TBS
- 1