『恋する母たち』(TBS系)が遂に最終回を迎えた。2023年まで早送りした物語は、3人の女たちが華やかに着飾って、それぞれの最愛のパートナーと共に会食する、最高に美しいハッピーエンドで終わった。脚本・大石静が見せた、道行く人が誰もマスクを着けていない、コロナ禍を克服した後の未来は、明るい希望に満ちているように思えた。
そして、原作とは少し違う、3人の女たちが選んだそれぞれのハッピーエンドは、「結婚」という形に囚われずに、愛する人と共に生きるという選択だった。
まず、木村佳乃演じる杏を巡る男たち、斉木(小泉孝太郎)、慎吾(渋川清彦)にツッコミをいれていいだろうか。杏(木村)は何も悪くないのに、どうして男たちに「完璧すぎる、鬱陶しい」などと言われなければならないのか。「鬱陶しいと思われるような愛し方しかできない」から「結婚に向いていない」なんて杏に言わせてどうする!という外野の悔しさはさておき。杏と斉木という、一番真っ当でピュアな愛を育もうとした2人は、息苦しい結婚生活の果てに離婚する。
それでも、時を経た2人は結婚とは違う方法で「並んで生きる」道を選択した。一級建築士として独立した斉木の秘書となった杏は、この状況を、かつて斉木が杏のためにした献身の理由を問われ、そう表現したように、全ては「なりゆき」であるとした。杏は、気難しくてやっかいな男、斉木を心から愛していたのである。
思えば、その言葉を交わしていた頃が、彼らの恋愛において一番幸せな時期だった。ビジネスパートナーという距離感を保つことで、彼らは穏やかな蜜月を持続していく道を選んだのだ。
続いて、なんといっても、吉田羊演じる優子と磯村勇斗演じる赤坂である。有馬(結城モエ)との結婚式を急遽取りやめた、タキシード姿の赤坂が、優子の家のインターホン越しに立っていた。抱きしめられ、「落ち着け、拒め・・・」と自分に言い聞かせながらも、手が彼を拒めない優子の可愛さ。彼らの恋が私たちに教えてくれたのは、自分の心に、嘘をつかないこと。彼らもまた、結婚という形に囚われず、一緒に暮らすという道を選んだ。「だって、離れられないもの」と柔らかくほほ笑んだ優子は、眼鏡をしていない。
そして、最終回において、全てのパートをアシストした上に、愛する女、仲里依紗演じるまりを守り愛しぬいた、阿部サダヲ演じる丸太郎の凄さである。まりもまりで、離婚と再婚、そして一度は失った通販番組のモデル業への復帰と、「しおらしい顔してあなたの奥様はとてもしたたか」と山下のり子(森田望智)が言ったように、欲しいものは全て手に入れる意志と貪欲さを誰より持っていた。
離婚を認めない夫・繁樹(玉置玲央)の元から離れるも、丸太郎に迷惑がかかることを思って身を引こうとしたまりを空港で引き留めた丸太郎。まりは、丸太郎の「籍より暮らし。一緒にいよう」という一言で、子供たちと共に丸太郎の家で暮らし始める。結果的に彼らは結婚したが、彼らもまた、「結婚」にこだわらないという選択だった。
『恋する母たち』は、母たちの「結婚」からの解放を描いた。そもそも「結婚」とは何だろう。互いを形式で縛り付けるものなら、どれほどの価値があるのだろうか。男女問わず様々なライフスタイルが認められるようになった現代において、その価値が改めて揺らぐ。
1話冒頭は前の夫たちとの幸せな結婚式から始まっていた。永遠の愛を誓ったそれぞれのカップルは、最終回ラスト、全く別の愛する人と並んで座っている。
「所詮他人同士」だから、この先どうなるかなんてわからない。この世界は、赤坂の言う通り「あがいたってなるようにしかならない」し、斉木のように「人って変わろうと思ったって変われない」のだから。それでも「えいやっていう瞬間がないと、人生はつまらない」と丸太郎が言ったように。愛する人がいるのなら、誰が何と言おうと、何とかして共に生きる方法を模索すればいい。なぜなら、人生は一度しかないのだ。愛を失ってからでは遅いのである。
(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)
◆放送情報
金曜ドラマ『恋する母たち』
動画配信サービス「Paravi」で全話配信。
さらに、Paraviオリジナルストーリー「恋する男たち」も独占配信中。
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