「俺って、意外に弱いんだ」

小泉孝太郎演じる斉木はそう言った。この1年間、一体どれだけの人が、斉木と同じように、今まで思いもよらなかった自分の脆さを噛み締めたことだろう。テレビから流れる「新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言」というフレーズを皮切りに8話中盤から、物語に「コロナ禍」という現実が流れ込んできた。8話、そして最終回である次回、9話において、脚本の大石静が原作にはないコロナ禍を、どう描くのかに注目である。

杏(木村佳乃)とまり(仲里依紗)の妊娠という、生命力に溢れた前半をピークに、8話において描かれた「コロナ禍」は、まさに彼女たちにとって、突然やってきた人生の「冬」だった。海辺で「何もかも終わっていくのよ」と寂しげに呟く優子(吉田羊)の言葉が全てを物語っているように。

杏(木村佳乃)と斉木(小泉孝太郎)は結婚し、彼の家で、杏の夢だった「幸せの象徴」である犬を飼って幸せに暮らしていた(犬の名前が「サルトル」というのがいかにも斉木らしい)。犬のサルトル含めて「3人で幸せになろうね」と呼びかける杏。

彼自身の意志で父・慎吾(渋川清彦)と祖母・綾子(夏樹陽子)と共に暮らすことを決めた息子・研(藤原大祐)の自立に対して、一抹の淋しさを滲ませるが、なにも言わない杏の表情含め、その「絵に描いたような幸せ」はどこか不均衡で、危うい。そして、そうやって蓄積された歪みは、流産とコロナ禍、それによって鬱状態になり、心配のあまり杏を過度に家に閉じ込めようとする斉木の弱さという形で表出された。

まりの行動には驚かされた。夫・繁樹(玉置玲央)に無理やり抱かれたまりは、翌日、丸太郎(阿部サダヲ)の元に行き、「温泉の続きをしてほしい」と頼む。「今今今!」と丸太郎を気迫で押し倒し、そしてその後何食わぬ顔で通販番組に出演しているまりに、圧倒される丸太郎。そして妊娠。どうせなら愛する丸太郎との子供を産み育てたいまりの渾身の算段だった。

「私ね、恋愛するのも好きだけど、子供を産んで育てるのが一番好きなの。だから、一番好きなことを一番好きな人としたいの」というまりの台詞には、4話の台詞「息子にとって最初の女は母親」に続き、エロスと母親という本来一括りにして語られることがなかった概念が共存している。彼女こそが誰より「恋する母」の凄みを体現する存在だと言えるのかもしれない。

一方優子は、シゲオ(矢作兼)と大介(奥平大兼)と距離を置いたからこそ、居心地の良い関係を築いていた。シゲオは大介をモデルにゲイの少年を主人公にした小説を書き、その中に優子や赤坂(磯村勇斗)らを登場させる。家族でおせちを囲む平和なお正月、穏やかに進む離婚と親権の相談。一緒に暮らすのは父、親権は母という、それぞれの思いやりに溢れた結論を、優子は涙ぐみながら承諾したのだった。

しかし気になるのはやはり、未だに互いに想いを残したまま、すれ違ったままの優子と赤坂の関係である。「とても魅力的な物語」としてシゲオの小説の中に恋心を封印して、彼らはそれぞれの道を行ってしまうのか。それとも・・・?まだまだ期待せずにはいられない。

そしてなんといっても、繁樹が公認会計士の試験に受かった瞬間、スパッと離婚を切り出したまり。かっこいい。

コロナ禍で物語は一気に冬にとは言ったものの、産まれた子供に「創」と書いて「はじめ」という名前をつけたまりによって、女たちの物語は逞しく芽吹いていくことだろうという期待と共に、最終回を待とう。

(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)

【最終回(12月18日[金]放送)あらすじ】
杏(木村佳乃)は斉木(小泉孝太郎)と幸せな結婚生活を送りながらも、小さな気持ちのすれ違いに悩んでいた。杏は斉木の考えていることがわからず、斉木は自分の感情をうまく伝えることができないでいた。そんな中、ある出来事が起きてしまう。
一方、まり(仲里依紗)は、夫の繁樹(玉置玲央)が公認会計士の試験に受かり、仕事のめどが立ったところで離婚を切り出す。これまで抑えていた思いをぶつけるまりに、繁樹は動揺する。しかし、元不倫相手・のり子(森田望智)の話を思い出し、まりと丸太郎(阿部サダヲ)の調査を依頼する・・・。
杏と優子(吉田羊)とまりは、いつもの喫茶店で話をしていた。
まりは離婚話が難航していること、しばらく会っていない丸太郎の気持ちが離れているのではないかと不安に思っていることを2人に明かす。すると、優子から家を出て丸太郎のところに行くよう助言されるのだった。
数カ月後、優子は社長から取締役の内示を受ける。喜びを真っ先に伝えたのは与論島にいるシゲオ(矢作兼)だ。息子・大介(奥平大兼)をモデルにした小説「エシャロット」が大人気のシゲオは、優子の出世を心から喜び、東京で食事をご馳走すると約束。その後、宣伝部に立ち寄った優子は、元部下の有馬(結城モエ)から「赤坂(磯村勇斗)と結婚する」と告げられる。
ある日、杏が働く高根不動産に慎吾(渋川清彦)が現れる。
さらにそこに斉木もやって来て・・・。

◆放送情報
金曜ドラマ『恋する母たち』
毎週金曜22:00よりTBS系で放送中。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信。
さらに、Paraviオリジナルストーリー「恋する男たち」も配信中。