「僕、まっさらでないほうが好きなんです」
「あら、渋いこと言うねえ」

『恋する母たち』(TBS系)5話から恒例となりつつある、「恋する男たち」3人が偶然集うバーでの赤坂(磯村勇斗)と丸太郎(阿部サダヲ)の会話だ。若干ファンタジー感溢れる、それぞれの世界を生きる3人が偶然同じ空間に佇む瞬間、息抜きの一コマがとても好きなのであるが、この赤坂の台詞こそ、視聴者の心を代弁していると言えるだろう。私たちは、清廉潔白な恋ではなく、「まっさらでない」人たちによる、一筋縄ではいかない恋物語をずっと待っていたのかもしれない。

杏(木村佳乃)は、恋人・斉木(小泉孝太郎)との時間と、息子・研(藤原大祐)との家族の時間、どちらを優先するかという究極の選択を迫られる。一度は「好きな人のところに行く」と家族に宣言し、斉木の元に行くも、まり(仲里依紗)のピンチを巡って、斉木の気持ちを思いやるより友情を優先し、斉木に愛想をつかされてしまう。

「妻に追い出されてしまったから助けてほしい」と厚かましく大雨の中登場した元夫・慎吾(渋川清彦)、彼がもたらしたかのような突然の雨漏り騒動、さらには杏の階段からの転落、それにより元家族たちが、一つ屋根の下で共に過ごす事態に見舞われるという、思わず笑ってしまう悲喜劇。1人の記憶のない男・慎吾の登場によって、杏に部屋の合鍵を渡す斉木、実の父親に興味を持つ研、慎吾に研を奪われたらと不安な杏と、それぞれ内心の思いが表面化していく様は実に興味深い。

千葉の営業部に異動となり、家族とも赤坂とも離れ、心機一転の優子(吉田羊)。昭和のオヤジたち相手にどこまでも食らいついていくガッツを、土下座も厭わぬ覚悟で見せつける。恋に家庭に苦しんでいた前回までとは一転、お仕事ドラマかと見紛うほどの清々しさである。それでも、赤坂からの電話に「困っているのは、なかなかあなたを忘れられないこと」と独白する。仕事では完璧なのに、それ以外がどこまでも不器用で、本能に突っ走ってしまうところが、シゲオ(矢作兼)の言うところの彼女の「フェロモン」なのかもしれない。

一方のまり(仲里依紗)たち、だれもが羨むタワーマンションの頂きに暮らす蒲原家に大事件が勃発する。繁秋(宮世琉弥)の楽曲「まんじゅうこわい」がレコード会社に認められるという喜びもつかの間、夫・繁樹(玉置玲央)の浮気相手・のり子(森田望智)の復讐により、繁樹が政治資金流用の指南役だったことが明るみになり、バッシングを受ける。

ここで効いてくるのが、働く女性たちの象徴とも言える、パンプスの対比である。優子が塚越社長(尾美としのり)の信頼を獲得するために土下座する時に、颯爽と脱ぎ捨てた時に鳴る潔いヒールの音。

対するのり子が、ガードレールに腰掛けて繁樹たち家族の住むタワーマンションを見上げながら、「私だけ置き去りにして」と恨み言を言って、歩き出そうと地面に着地する瞬間、高らかに鳴るヒールの音。

終わらせざるを得なかった恋を、仕事に邁進するプラスの原動力に変えることができる優子と、恋が終わるのならいっそ、高みにいる相手を自分がいるところまで引きずり落してやろうというマイナスの原動力に変えてしまったのり子の違いが、ここで際立つのである。

次回、互いへの思いをなんとか抑えている優子と赤坂も、そろそろ会わずにはいられない頃合いだろう。斉木に別れを切り出されてしまった杏はどうするのか。なにより、夫の失脚にまりはどう立ち向かい、「私が全部引き受ける」と男気を見せた丸太郎はいかに彼女を支えるのか。物語も後半戦、「まっさらでない恋」も家族も守り抜かなければならない母たちはどうなるのか。ますます見逃せない。

(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)

【第7話(12月4日[金]放送)あらすじ】
杏(木村佳乃)が、斉木(小泉孝太郎)から一方的に別れを告げられて1カ月。研(藤原大祐)は、元気のない母を心配しているが、最近は父・慎吾(渋川清彦)と自分のところを行ったり来たりしていて、杏は寂しさを感じていた。
まり(仲里依紗)の一家は、繁樹(玉置玲央)が政治資金流用の指南役だったと週刊誌に出たことで弁護士会から懲戒処分を受け、信用も仕事もなくし、高級タワーマンションも手放した。そんなまりたちに、優子(吉田羊)は空き家になっていた林家を提供する。一瞬にしてすべてを失ったことを受け入れられずにいる繁樹をよそに、まりは生活費を稼ぐため弁当屋でパートを始める。
千葉支店に移った優子は、新規開拓の飛び込み営業を続けていた。地元の食品卸の有力者・塚越社長(尾美としのり)のもとに1カ月通い、ようやく認められた優子。塚越に居酒屋チェーン「房総酒場」を紹介してもらうが、「房総酒場」はライバル会社であるアオシマ食品一本やり。そこに優子たちコジカフーズが食い込むことができたら、塚越もコジカフーズと契約すると言われた優子。必死で「房総酒場」に通い詰めるが、先行きは不安だ。そんな中、優子は会議に出席するため久々に東京の本社へ戻る。会議を終えたところを赤坂(磯村勇斗)が待っていて・・・。
その頃、与論島で生活を始めたシゲオ(矢作兼)と大介(奥平大兼)父子。シゲオは構想中の小説のテーマを大介に話して聞かせ、大介を取材させてほしいと相談していた。
一方、杏は斉木のことが忘れられずにいた。斉木に対する自分の態度を反省していることを優子に話しながら、酔いつぶれてしまう杏。優子は代わりに斉木に電話をするが・・・。

◆放送情報
金曜ドラマ『恋する母たち』
毎週金曜22:00よりTBS系で放送中。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信。
さらに、Paraviオリジナルストーリー「恋する男たち」も配信中。