「人を愛することは、素敵よ」

涙ながらに息子・大介(奥平大兼)にそう告げた優子(吉田羊)の心の奥には、赤坂(磯村勇斗)との終わらせざるを得なかった恋の火が切なく燃えていた。ずっとぎこちない関係だった親子は、誰かへの叶わぬ恋に身を焦がす人間同士として、初めて心から分かり合ったのだった。

『恋する母たち』(TBS系)5話は、吉田羊演じる林優子の回だった。これまでもそこはかとなく零れ出るものはあったが、5話で彼女が吐露した「大介はシゲオと婚約中に、上司との不倫の末にできた子供だった」という衝撃の事実で、完全に揺るぎないものになったと言える。彼女はどうにも、庇いようもないクズである。優しくサポートするシゲオ(矢作兼)の愛に甘え、育児を任せ、家庭より仕事を愛し、さらには部下・赤坂を本気で好きになってしまう。

これまで、友達親子の父と子を前に、どう接すればいいのかわからない母・優子という構図は、専業主婦の母親と仕事熱心で家庭を顧みてこなかった父親という従来の価値観の逆転として認識していたのだが、そこに実際は血のつながりのない父と子という新たな事実が追加されることでさらなる混乱が生まれる衝撃の展開である。

流石にシゲオとの関係にヒビが入り、シゲオと大介は与論島へ移住、優子は転勤が決まり、赤坂との別れを決意する。引っ越しの日、大介は同性である研(藤原大祐)のことが好きだと優子にカミングアウトする(大介、研、繁秋[宮世琉弥]間でいかに恋と友情が育まれていったのかは、Paraviで独占配信されているオリジナルストーリー「恋する男たち」4話にて補足されている)。

その時初めて優子は息子・大介とちゃんと向き合う。優子は、同性でも異性でも「好きだって気持ちの尊さは変わらない」と伝える。赤坂への許されない恋心を抱え一際実感の籠った優子と大介のやり取りには、世間がどう思おうとこれが、完璧じゃない不器用な彼らの作る、彼らなりの「親子の形」なのだと示していた。恋多き「人の親になれるような人間じゃない」彼女だからこそ、大介にしっかり寄り添うことができたのだ。

温泉宿で丸太郎(阿部サダヲ)と一夜を過ごし、子供たちのことを思い、最後の一線は越えさせなかったまり(仲里依紗)は、密着取材を嘘で塗り固める夫・繁樹(玉置玲央)に幻滅しつつ、息子・繁秋の落語への興味に喜び、丸太郎に弟子入りを頼むが、すげなく拒否される。これまでも視聴者は、丸太郎が仕事とプライベートをきっちり分けるプロフェッショナルであることを見てきたが、だからこその、丸太郎の色気なのである。

一方、このドラマの中で最もピュアに恋を育んでいた杏(木村佳乃)と斉木(小泉孝太郎)には、まさかの暗雲が立ち込めつつある。斉木と元妻・由香(瀧内公美)が一緒にいるのを目撃し、さらには斉木が由香の理解者として彼女を庇うのを目の当たりにし、当然ながら嫉妬心を募らせる杏は、斉木を強く責めたり、膨大な着信履歴を残したりと、思わず斉木が「面倒くせえな」と呟くほどに(それもどうかと思うが!)「面倒くさい女」になってしまう。

対する、肺がんで闘病中な上に2000万近くの借金を背負っているという影の部分が追加されて、今週もさらに魅力的な悪女ぶりの由香。借金に困っているのにも関わらず、慎吾(渋川清彦)の192万円を、一切手をつけず保管していたというのも意外性があっていい。

5話終盤、杏の元に元夫・慎吾が現れた。注目すべきはその構図。杏の傘の赤が際立つ、雨に傘をさす2人という組み合わせは、初回で描かれた杏と斉木の出会いの場面と重なる。ということは元サヤの可能性も・・・?どっち?いやいや・・・と打ち消しながら、それぞれのままならない関係から目が離せない。

(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)

【第6話(11月27日[金]放送)あらすじ】
慎吾(渋川清彦)が再び杏(木村佳乃)の前に現れた。与論島での離婚話が島で噂になり、妻の耳にも入って家を追い出されたというのだ。慎吾は離婚届けにあった杏の住所を頼りにやって来たのだが、その身勝手な慎吾に怒りを覚えた杏は、母・綾子(夏樹陽子)の連絡先を教え、雨の中彼を突き放す。
その後、階段から足を踏み外し松葉杖生活となった杏。研(藤原大祐)と一緒に綾子のところで世話になることに。そこには慎吾も身を寄せていた。しかし、そのことを斉木(小泉孝太郎)に知られてしまい・・・。
千葉で一人暮らしをスタートさせた優子(吉田羊)は、千葉の営業部が本社の宣伝部とは雰囲気が全く違い戸惑っていた。挨拶に行った得意先のスーパーで嫌味なことを言われるなど、驚くことばかりの優子だったが、初めての営業の仕事をひたむきにこなしていた。
そんな時、杏が勤める高根不動産に「吹っ切るために住むところを変えたい」という男性がやってくる。申込書の勤務先にコジカフーズと書いたことから、相手が優子が想っている赤坂(磯村勇斗)ではないかと察するが・・・。
同じ頃、まり(仲里依紗)は夫・繁樹(玉置玲央)の傲慢な態度にうんざりしていた。落語家になりたいという繁秋(宮世琉弥)のことを一向に認めない夫。一方で相談していた丸太郎(阿部サダヲ)からは思いがけない返信が届く。
そんな中、誰もが羨む生活を送っている蒲原家に災難が襲う。

◆放送情報
金曜ドラマ『恋する母たち』
毎週金曜22:00よりTBS系で放送中。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信。
さらに、Paraviオリジナルストーリー「恋する男たち」も配信中。