金曜ドラマ『恋する母たち』3話では、11年前に失踪した夫・慎吾(渋川清彦)と与論島で再会、離婚の手続きを済ませ、斉木(小泉孝太郎)との新しい恋に向き合おうと決意する杏(木村佳乃)、夫の不倫相手・のり子(森田望智)からの嫌がらせに耐え兼ね、丸太郎(阿部サダヲ)の助言もあって直接対決するまり(仲里依紗)、そして、京都出張と度重なるハプニングを機に、一夜を共にする優子(吉田羊)と部下・赤坂(磯村勇斗)の姿が描かれた。
「それ以来、ずっと眼鏡かけっぱなしなの。約束守って」
3話において、その台詞を口にした優子に限らず「眼鏡」は重要なアイテムである。時に正体を隠すため、本音や本能を隠すためにするそれは、3人の女たちの心を映しだす鏡となっている。
まず、屋外デートを楽しむまりと丸太郎にとっての正体を隠すための「眼鏡」。まりと会うために、口髭に眼鏡に帽子という渾身の変装で化けた丸太郎だったが、「ほんとに誰も気づいてない」「私まで知らない人と会っているみたい」とまりは心持ち不服そうだ。なぜならこの恋はまだ、まりにとって、有名人とのロマンスごっこに過ぎないからだ。
続いて、杏にとっての、夫・慎吾の形ばかりの優しさを示す「サングラス」。杏は11年ぶりの慎吾の姿に思わず涙をこぼす。それを見た慎吾は杏の「日差しが眩しくて」という苦しい言い訳を言葉そのまま信じ、サングラスを差し出そうとする。それを断った杏は、その後も彼にぶつけたかった本音を精一杯押し殺し、あくまで事務的に、離婚届にサインさせたのだった。
そして、優子にとっての、かつて浮気をした自分を諫めるため、夫を二度と裏切らないための禊ぎとしての「眼鏡」。いわば、周囲との必要以上の関係を防ぐための鎧であるとも言える。「完璧な人」優子が完璧であり続けるための最大の武器だった眼鏡をあっけなく外させたのは、赤坂だった。
これまでも優子と赤坂パートには、エレベーター事件から始まり、壁ドンあり、イレギュラーな京都出張に加え、ホテル同室予約のハプニングありと、毎度夢とロマンをこれでもかと詰め込んだ展開にドキマギさせられてきたのであるが、このラブシーンには驚かされた。一見破天荒で奇想天外だが、実に繊細にできているのが、柴門ふみ原作、大石静脚本の凄みである。
赤坂に偶然裸を見られて気が動転した優子は、落ち着こうと、鏡の前に立って自分自身と向き合う(この時当然ながら眼鏡をしていない)。そしてこれ以上心と身体を解放するまいと、眼鏡を掛けることで心の鎧をしっかり装着し直し、バスルームの外に出る。そこで真っ直ぐすぎる欲望をありのままぶつけてくる、何も身に着けていない赤坂と遭遇してしまう。完全に向き合った彼らを示すショットは、まるで分身のよう、優子がもう一つの鏡と向き合い、押し隠していた自身の欲望と対面してしまったかのようだった。「いつかこうなると思ってた」と独白する優子の奥底にも、母たちの心を狂わす"性欲"が燻っていたのだ。
さて、離婚の手続きを済ませた杏は別として、器用に婚外恋愛を楽しむ優子とまりは、今のところ恋愛を適度に楽しむことによって仕事も家庭もうまく回り、充実しているとも言える。特にまりは、不倫相手・のり子との直接対決を、丸太郎のアドバイスを支えに乗り切り、離れかけた夫・繁樹(玉置玲央)の心を自分の元に取り戻すことに成功した。
とはいえ、そんなにうまくいくものだろうか。「なかなか手に入らない女のことを考えているのは悪くない」と笑う丸太郎は、いつまでも人妻の「良き相談相手」に甘んじるとは思えない。さて、どうなる。
(文・藤原奈緒/イラスト・月野くみ)
【第4話(11月13日[金]放送)あらすじ】
杏(木村佳乃)は「結婚を前提に付き合ってほしい」という斉木(小泉孝太郎)からの申し出に、自分も斉木に好意を持っていることを再確認した。そんな杏の様子に違和感を覚えた息子・研(藤原大祐)は、友達の大介(奥平大兼)に相談する。
蒲原家では、まり(仲里依紗)が夫・繁樹(玉置玲央)の浮気相手・のり子(森田望智)をやり込めたものの、自分は丸太郎(阿部サダヲ)のことが気になって仕方がない。繁樹から「罪滅ぼしに夫婦2人で温泉に行こう」と優しく言われても全然うれしくない自分がいた。まりは丸太郎に連絡し、夫から温泉に誘われていることを伝えると、彼は意外な反応をする。
一方、優子(吉田羊)も、京都で一夜を過ごした赤坂(磯村勇斗)のことで頭がいっぱいになっていた。会社でもなんとなく赤坂を意識してしまう。ある朝、夫のシゲオ(矢作兼)から「家族のことで大事な話がある」と言われ、優子はなるべく早く帰る約束をする・・・。
翌日、杏は研から父・慎吾のことを聞かれる。出て行ってしまった真実を伝えると、優しい研は母を思いやるのだった。そして、杏は研に「今度、会ってほしい人がいる」と斉木の存在を打ち明けることに。さらに、杏は慎吾と正式に離婚したことで、義母・綾子(夏樹陽子)のもとを訪ねる。今までマンションのローンや研の学費を出してもらってきた礼を言い、「この先は自分でやっていこうと思う」と決意を伝える。その日の夜、杏、斉木、研の3人は初めてレストランで食事を共にするが・・・。
◆放送情報
金曜ドラマ『恋する母たち』
毎週金曜22:00よりTBS系で放送中。
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信。
さらに、Paraviオリジナルストーリー「恋する男たち」も配信中。
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