映画『パラサイト 半地下の家族』(2019年)や、ドラマ『愛の不時着』(2019年)『梨泰院クラス』(2020年)で再びムーブメントを起こしている韓国エンタメ。いずれも、半地下、南北分断国家、多国籍な街といった韓国らしい背景が舞台となっており、近くて遠い国・韓国に興味を持つ人も多いようです。

そこで今回は動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で配信中の映画の中から、韓国ならではの背景や情緒が感じられる作品をセレクトしました。

◆『シークレット・ミッション』(2013年)

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コメディかと思いきや? 予想を裏切るスパイアクション

北朝鮮の特殊工作部隊5446部隊のエリートスパイであるリュファン(キム・スヒョン)は韓国の貧民街に潜入し、おバカな青年を演じながら作戦実行司令を待っていた。
そこに駆け出しのミュージシャンに扮したヘラン(パク・ギウン)と、高校生に扮したヘジン(イ・ヒョヌ)も送り込まれる。そんなある日、3人に思いもよらぬ作戦命令が下される。

冒頭、過酷な訓練を終えて南への潜入を命じられたリュファンの緊張感あふれるシーンから一転、すぐにおバカな青年ドングのシーンへ。小さなスーパーで住み込みで働きながら指令を待ち「1日3回、人前で自然に転ぶ」「2人以上の前で月に1度小便を、半年に1度大便をする」といったおバカに見せるための行動網領を完璧にこなしつつ、周囲の目を欺いているドング。イケメン俳優のキム・スヒョンが、おかっぱ頭に緑色のジャージ姿で「ここまでするか!!」という振り切った演技で大いに笑わせてくれる。

序盤は、ドングが街の人々にバカにされているシーンが続くが、物語が進むにつれて実はみなに愛されていることがわかり、人情あふれる住民たちとドングの交流にもホロリ。さらにここにチャラ男キャラのヘランと、リュファンに憧れるヘジンも加わり、最初はけん制しあっていた3人が、なんだかんだと信頼し合い、家族のように支え合う展開にもほっこりする。

が、こんな平穏な日々の中で突然に下された司令によって事態は急変。ここからは北からの刺客や韓国の警察を巻き込んだ緊迫感あふれるスパイアクションとなっていく。祖国に残した家族への想い、愛国心、忠誠心など、さまざまな感情のはざまで選択を迫られる3人。本来の姿に戻って追っ手を倒しまくるリュファンは、おバカなドングからのギャップゆえに、一層かっこよく、より切なさを加速させる。また、軽薄に見えたヘランの意外な男気や、リュファンにBL的な感情を見せるヘジンの決死の覚悟など、後半は涙の連続。見始めたときはコメディかと思いきや、まさかこんな展開が待っているとは思いもよらず、いい意味での裏切りに目が釘付けになることうけあいだ。

原作は大ヒットウェブ漫画。そもそも精鋭のエリートが、なぜバカなフリをしなければならないのかというハチャメチャ設定なのだが、それをハチャメチャに感じさせないのは、キム・スヒョンの説得力のある演技があってこそ。人気者で多数のCMに出演する彼は、ドングを演じるにあたってイメージが壊れるかと心配したそうだが、むしろより国民に広く愛される俳優となった。

ちなみに本作は、ドラマ『愛の不時着』にオマージュとして登場して話題を集めた。韓国に潜入した北朝鮮の兵士たちに、キム・スヒョンが先輩スパイとしてアドバイスするという絶妙なパロディで爆笑を誘ったが、これに興味を持った『愛の不時着』ファンの方々にも、本作をぜひ見てほしい。青春を祖国に捧げ、家族を愛し、私たちが当たり前のように享受している自由を得られない彼らの姿は、『愛の不時着』で愛された北の兵士たちの姿と重なり、胸を締め付けられることだろう。

【その他のおすすめ作品!】
◆『ミッドナイト・ランナー』
警察学校の凸凹コンビが凶悪組織に挑む。日本リメイクも

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◆『僕らの青春白書』
80年代が舞台の、懐かしくて甘酸っぱい青春映画

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◆『情愛中毒』
エリート軍人と部下の妻との、許されざるも美しき純愛

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◆『哭声/コクソン』
國村隼扮する「よそ者」に翻弄されるサスペンスホラー

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【著者プロフィール】
All About「韓国ドラマ」ガイド 安部裕子(アベ ユウコ)
https://allabout.co.jp/gm/gp/1193/

韓国エンターテインメントライター。97年に韓国ドラマの面白さに目覚め、これまでに約1100作品もの韓国ドラマを視聴。執筆業を中心にコメンテーター、韓流ロケ地ツアーのアドバイザーなども行う。