「I'm glad that I met You!」
ずっと「LIFE × WORK BALANCE」だったエプロンは、最後にそんなふうに変わっていた。あなたに会えて良かった。メイ(多部未華子)とナギサさん(大森南朋)にとっては、そんな出会いのだったのだろう。
「型」なんて人それぞれ。要は、自分に合うか合わないか
結婚するなら「今の自分の生活を1ミリも変えなくていい人」。メイはかつてそんなことを言っていた。そう考えると、めちゃくちゃハッピーエンドだ。実際にメイは自分の生活を1ミリも変えることなく、生涯のパートナーを手に入れた。実の両親に結婚の報告をする場でも、メイはただ座っているだけ。忙しく立ち回るのはナギサさん。そして、それを指摘されても一切悪びれない。たくましい。たくましすぎるぞメイ。
男女共同参画白書(平成30年版)によると、専業主婦世帯が641万世帯であるのに対し、共働き夫婦は1,188万世帯。今や共働きが夫婦のベーシックスタイルとなっている。その中で生活の要を担う「家事労働」をどう分担するか、社会で議論が進む中、「家事労働」をテーマのひとつに大きく取り上げたこのドラマで、「得意な人に全部お任せ」という結論は正直かなり引っかかる。だけど、それもまあ当人同士が幸せならそれでいいのだろう。外野が口を挟むのは野暮という話。
たとえば、年の差に関しても、ナギサさん自身が引っかかった健康問題について、メイは「もしナギサさんが倒れて動けなくなってしまったら、私が今よりもっと稼いで介護のプロの力を借ります」と合理的解決。最後は「おじさんなのに家政夫やっているナギサさんが、今さら年齢差がどうとか型にはまったことを言わないでください」と強行突破した。この明快さが、このドラマの良さだ。
「家事は妻がやるもの」が昭和的な「型」なら、「家事は分担し合うもの」が今の「型」。でもそれさえすっ飛ばして「搾取とか気にせず、やりたい人がやればいい」がこのドラマの「型」。正直に言うと、「家事労働」について社会的な問題意識を抱えている人が見たら首をひねる結論だけど、結局のところそのどれも間違いではないのだ。要は、自分に合うか合わないか。
価値観の成熟化が進み、あらゆることに配慮を重ねなければならない現代社会で、「細かいことはどうでもいい。その人がそれでいいと言うならそれでいいじゃないか」という大らかさでこのドラマは最後を締めくくった。それもそのはず。そもそもメイはリップをなくすたびに買い、同じリモコンが家に5つある、そういう人なのだ。悪く言えば雑。でもよく言うと大らか。そして、そんな大らかさがもっと許されてもいいんじゃないかというのが、このドラマのメッセージのひとつだ。
「家事労働」や「毒母」、「ジェンダーロール」、「過重労働」など今日的な要素を散りばめつつ、それらの描き方は全体的にふわっとしたもので終わったけれど、このドラマの本質はきっとそこにはなくて。メイの大らかさとナギサさんの愛らしさになんとなくハッピーな気持ちになれる。それが、このドラマのコア。そしてそこにたくさんの人たちが魅了された。単純には解決し得ないいくつもの問題に囲まれた私たちの日常とは対照的なこの明快さに、多くの人が夢を見出したから、『私の家政夫ナギサさん』(TBS系/毎週火曜22:00〜)は支持を集めたのだ。
ヒットの立役者は、多部未華子と大森南朋
それくらいメイとナギサさんを演じた多部未華子と大森南朋の巧さが光ったドラマだった。演じ方によっては視聴者の反発を買いかねないくらいメイ自身の性格は向こう見ずで自分勝手。だけど、そこに多部未華子が柔らかさと愛らしさを加えることで、メイなら許すというキャラクターに仕上がった。あの助走をつけてのハグなんてとってもチャーミングだったけど、あれがあざとくならないのは、多部未華子が全身からナギサさんをいとおしいと思う気持ちを放出させているから。多部未華子の人としての魅力と俳優としての技量の高さが改めて証明されたドラマだった。
大森南朋は持ち前の枯れた色気を封印し、地声よりも少し高めのソフトな発声で母性を表現した。目尻の下がった菩薩スマイルやずっと年下のメイにドギマギする純朴さに癒された人も多かったのでは。ラストの「恥ずかしながら、好きだってことだと思います」は、『やまとなでしこ』(フジテレビ系)で桜子(松嶋菜々子)が放った「残念ながら、あなたといると私は幸せなんです」と、キャラクターや時代性を含めて対となるような印象的な告白の言葉となった。
お互いの働き方やお金の管理、それぞれの役割分担など、ナギサさんが気にしていた今後の部分についても最終的に劇中で言及されることはなかったけど、ある意味、それがメイとナギサさんらしさ。あれこれ長期的視点で話し合ったところで未来なんてものは不確実。予測し得ないことにいちいち心を曇らせるより、ふたりがちょっと照れながら仲良く楽しく過ごしている今が見たい。そう願っているファンは多いはず。微笑ましい光景を、ありがとうございました。
田所さんは最後まで見事な当て馬として駆け抜けた
一方、最後の最後まで見事な当て馬として駆け抜けた田所さん(瀬戸康史)にもお疲れ様でしたと言ってあげたい。最後に恋敵の背中を押すという当て馬としてはこれ以上のない大仕事を果たしてくれた田所さん。完全にこれで瀬戸康史は当て馬俳優として確固たる地位を築いたと思うし、10年後20年後、ドラマ制作者やドラマファンが「当て馬と言えば・・・」と思い出すときに、確実に田所さんと瀬戸康史の名前が挙がる。そんなキャラクターになったと思う。それこそ『やまとなでしこ』の東十条さん(東幹久)のように。
あと、本当に余談なんですけど、最後の送別会で前髪を上げた瀬川くん(眞栄田郷敦)。めちゃくちゃ良くなかったですか? 瀬戸康史の前髪といい、ある意味このドラマでいちばん学んだのは、イケメンにとって前髪の有無は極めて重要ということでした。
全9話と少し短かったけれど、きっとメイとナギサさんのように「I'm glad that I met You!」と思っているファンは大勢いると思います。9月8日(火)放送の「新婚おじキュン!特別編」でまたたくさんのファンをキュンキュンさせてください!
お疲れ様でした!
(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)
【9月8日(火)放送 新婚おじキュン!特別編 あらすじ】
メイ(多部未華子)とナギサさん(大森南朋)が結婚して1カ月が経ったある日。慣れない新婚生活の中で、お互いに少しずつ溜まってきたうっぷんが、ついに爆発!! 2人ははじめての夫婦喧嘩をしてしまう・・・。
メイは薫(高橋メアリージュン)ら天保山製薬の面々に、ナギサさんはお隣さんである田所(瀬戸康史)に話を聞いてもらうことに。一方、相談を受けた田所や薫たちにも、様々な変化があって・・・?
◆番組情報
『私の家政夫ナギサさん』
9月8日(火)20:57から「新婚おじキュン!特別編 2時間SP」がTBS系で放送
本編全9話は動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で配信。
またParaviオリジナルストーリー『私の部下のハルトくん』も独占配信中だ。
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